逢魔が時。それは人と人ならざるモノたちが出逢う時

岡本梨紅

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電話ボックス

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 あれから、美代は愛華に監視されるようになり、勝也とも距離を取ることにした。
   勝也に理由を問われても、答えられるはずもなく、適当に誤魔化した。その度に勝也が悲しそうな顔をするので、美代は胸が痛かった。

    日曜日。その日は部活が早上がりの日だった。一人、家までの道を歩いていた時、ふと美代は電話ボックスのことを思い出した。

(あの電話ボックスって、まだあるのかな?)
「もちろんありますとも」
「きゃ!」

   耳元でささやかれた声に、美代は飛び上がった。

「おっと。驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「あなたは、あの時の」

   美代の背後にいたのは、美代に願いを叶える電話ボックスの存在を教えた黒スーツの男だった。

「電話ボックスは以前と同じ場所にありますよ。あれはこの世のものではありませんから」
「え?」
「ところで、あなたはまだ本当に叶えたい願いを、お願いしていないようですね」

   男が薄目を開ける。

「このままでは、あなたの身に危険が及ぶかも知れません。危険因子きけんいんしは、早めに取り除いたほうが良いですよ?」
「それって……」

   男の言葉は、まるで愛華が美代に何かをしようと計画しているように聞こえた。

「さぁさぁ、お急ぎを。あれは黄昏時にしかありませんからね」

   男に急かされ、美代は公園にある電話ボックスへと走った。走り去る美代を、男はにっこりとした笑みで見送った。


   公園にたどり着いた美代は、迷わず電話ボックスへと辿たどりついた。電話ボックスは変わらず、ポツンとそこにあった。
   美代は中に入り、受話器を取る。だが、そこで何を願えばいいのかわからなくなった。

「どうしよう……」

   迷った末、美代は受話器を耳に当てる。

「明日、星宮愛華が手を痛めて部活に来ませんように」
『ピーッ。承りました』

 ガチャ。ツーツーツー。

「これで……よかったんだよね……」

   美代は受話器を置いて、フラフラと家に帰った。
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