逢魔が時。それは人と人ならざるモノたちが出逢う時

岡本梨紅

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 唯人は鞄を投げ捨て、ドア伝いにズルズルと座り込む。

「悪いのは僕じゃない。僕じゃないのに……」

 唯人は頭を抱えて、何度も呟く。
 しばらくのあいだそうしていたが、唯人はフラフラと立ち上がり、勉強机に向かった。

「勉強しなきゃ。勉強しないと、またお母さんに怒られる……」

 鞄から参考書とノートを取り出し、唯人は勉強を開始する。
 だが、唯人の頭の中は別のことで、いっぱいだった。

(なんで僕ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないんだ。自分がいい学校に行けなかったからって、なんで僕に押しつけるんだ)

 勉強の手が止まる。

(なんで僕には、友達がいないんだ。なんでいつも僕ばっかり、バカにされるんだ。なんで僕には、助けてくれる人がいないんだ。なんで。なんで。なんで! なんで!!)

 唯人はノートに、ガリガリ、ガリガリと今までの不満を書き殴った。
 開かれていたノートのページが、真っ黒に染まる。

 ドンッ!

 荒々しく部屋のドアを叩かれて、唯人はハッと我に返った。

「唯人! ご飯、ここに置いとくからね! 勉強、ちゃんとしなさいよ!」

 母親は再び「ドンッ!」とドアを叩くと、立ち去った。

 唯人は母が居なくなったのを音で確認し、そっとドアを開けた。

 廊下には、おにぎりと唐揚げが二つ乗ったお皿とドリンクポットが、お盆に乗せられて置かれていた。

 唯人は母親と二人暮らしだ。だが、一緒に食事をとることは、滅多にない。
テストで良い点を取ると、母は唯人の好物をたくさん作ってくれる。だが、少しでも結果が悪いと、半ば部屋に缶詰にされるのだ。

 しかし、唯人は母親に逆らわない。逆らうと食事抜きは当たり前。ひどい時は、突き飛ばされる以上の暴力を振るわれるからだ。

「……勉強しよう」

 唯人はおにぎりを片手に、勉強を再開させた。
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