化け猫亭～化け猫の手、お貸しします～

四ノ巻 剣術指南はお任せを 虎之介

１０

　佐吉は寺の門の外に出た。しかし、虎之介の姿はなかった、

「どこいっちゃったんだろう……」

　きょろきょろと、辺りを見回す佐吉の背後に、忍び寄る不穏な影。

「うわぁ！」
「え？」

　後ろから聞こえた悲鳴に佐吉が驚いて振り返ると、尻餅をついている慶次と、佐吉を庇うようにして立つ虎之介の後ろ姿があった。

「虎之介！」
「佐吉、けがはないかにゃ？
「え？　うん。ありがとう」

　佐吉はすぐに状況を把握した。虎之介が間に入ってくれなければ、また慶次に突き飛ばされていたということに。

「いってぇ。なにするんだよ！　猫のくせに！」
「猫じゃなくて、猫又だにゃ。しっぽが二股にわかれてるのが、見てわかるはずにゃ」
「知るかよ、そんなこと！」

　慶次は怒りながら、取り巻きたちの手を借りて立ち上がる。

「ところでおまえ、なんで佐吉をいじめるにゃ。見たところ、佐吉はなんもおまえなんかに迷惑をかけてないにゃ」
「俺はただ、そいつの反応が面白いからやってるだけだし」

　あははっ！　と笑う慶次を見て、虎之介の瞳孔が獲物を見つけたように、縦に細くなった。