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三ノ巻 文の配達はお任せを 月夜

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 五十鈴に信彦からの文を届けたあと、月夜は『化け猫亭』に帰ってきた。

「おかえり、月夜」
「よく帰ってきたにゃ、月夜」
「お疲れさまにゃ、月夜」

 ちょうど白菊と紅丸も仕事から帰ってきたところらしく、お蘭と二匹に出迎えられた。

「帰ったにゃ」

 月夜は鞄の中に入れていた、お金の入った巾着をお蘭に差し出した。

「ありがとう。今日は、どうだった?」
「源じぃとその知り合いに、こきつかわれたにゃ。でも源じぃに自鳴琴オルゴールを見せてもらったな。届け先はこわかったけど、ちゃんとできたにゃ。あとは、五十鈴と信彦の仲介にゃ」

 それを聞いて、紅丸と白菊はため息をついた。
 五十鈴と信彦が互いに想い合っていることは、『化け猫亭』では周知の事実なのだ。

「あの二人、早く祝言をあげればいいいにゃ」
「人間は家柄とか、面倒なことばかりにゃ」
「まったくにゃ」

 猫又たちの会話に、お蘭は苦笑をこぼした。

「そればっかりは、いくら『化け猫の手をお貸しします』と言っても、難しい話だからねぇ。見守るしかないさ」

 三匹は納得したようにうなずく。

「それでにゃ、源じぃの技術ですごいのがあってにゃ」
「わかったから、ちょっと落ち着くにゃ。あとでちゃんと聞いてやるから、仕事道具置いてこいにゃ」
「わかったみゃ」
 月夜はすばやく仕事道具を奥の自分の籠のなかにしまった。そしてすぐに、紅丸たちのところに戻ってくる。

 月夜はよほど興奮したことがあったのか、どうしても聞いてほしいようである。

「それでにゃ。源じぃの技術すごいのにゃ。箱を開けたら小さな音だけど、ちゃんと音楽が流れるんだにゃ」
「そんなもん、庶民は持ってねぇにゃ。どこに届けにいったんだにゃ?」
「武家屋敷……なんか雰囲気がこわかったにゃ。もう行きたくないにゃ」

 お蘭はぱんっと、手を叩く。

「さあおまえたち。今日も一日、お疲れ様。ご飯にしようね」
「にゃあにゃ」

 三匹は元気よく、返事をした。
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