化け猫亭～化け猫の手、お貸しします～

三ノ巻 文の配達はお任せを 月夜

２

　月夜はぽんっと、自分の胸を叩く。

「ぼくなら、大丈夫にゃ。もう一ヶ月も仕事をつづけているにゃ」

「そうだね。わかっちゃいるんだけどね……。月夜は、紅丸や白菊と違って、一ヶ所で働いてるわけじゃなくて、江戸中を走り回っているから、心配になるんだよ」
「でも人間の飛脚も同じにゃ」
「そうだけど、仕事量は月夜のほうが、多いんじゃないかね。それに私が心配している一番の理由は、月夜がまだ子供だからさ」

　月夜はお蘭の顔を見上げた。お蘭の表情は、心配そうなかげがさしていた。
　居心地が悪そうに、月夜は手をもじもじとさせる。

「やっぱり、めいわくかにゃ……？　ぼくが仕事するの……」

　月夜の顔をうつむかせて、耳もぱたりとたおれる。あまりにもひどく落ち込んだ様子の月夜を、お蘭は抱き上げた。

「あぁごめんよ、月夜。迷惑なんかじゃないよ。私が心配しすぎるのが、いけないんだ。とっておきをあげるから、機嫌を直しておくれ」

　お蘭が取り出したのは、かつお節だった。