化け猫亭～化け猫の手、お貸しします～

三ノ巻 文の配達はお任せを 月夜

１

　月夜は鏡の前で、身だしなみを整えていた。毛づくろいをして、配達する文をいれるための斜めがけ鞄を下げて、最後に『化け猫亭』の主人のお蘭が作ってくれた帽子をかぶる。もちろん帽子は、耳がでるように作られており、ぴょこんと耳が飛び出る。

「よし。できたにゃ」

　月夜は満足げな顔をして、居住部屋から店のほうへ出ると、お蘭が掃除をしていた。月夜の姿を見て、お蘭は手を止める。

「月夜、準備できたようだね」
「にゃあ」

　お蘭はほうきを壁に立て掛けると、箪笥の引き出しから『化け猫亭』に届けられた配達依頼の文の束を取り出す。

「これが、今日の分だよ」
「にゃあ」
「一応、ここから近い順に重ねてあるけど、好きな道順で行っていいからね」
「にゃ」

　月夜は鞄に、文の束をしまう。

「いつも通り、道中で仕事を引き受けてもいいけど、ほどほどにするんだよ。それから」
「あーもう。お蘭は心配しすぎるにゃ」

　ついつい注意が多くなってしまいがちなお蘭は、月夜に遮られて口をつぐんだ。