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二ノ巻 接客業はお任せを 白菊
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お蘭が帳簿台でそろばんを弾いていると、ことり、と緑茶が入った湯呑みが脇に置かれた。
「ありがとう、白菊」
「お蘭様。あまり根を詰めすぎては、だめですにゃ」
「わかっているよ。それに今日はまだ、そんなにやってないだろう?」
お蘭は優しく白菊の頭を撫でながら、彼女が持ってきてくれた緑茶を飲む。
「うん。白菊の淹れてくれるお茶は、やっぱりおいしいねぇ」
「ありがとうございますにゃ。それにしても」
白菊は店の中を見回した。
「紅丸と月夜がいないと、ほんと静かですにゃー」
「紅丸は喜助さんの指導に。月夜は今日も、江戸中を走り回っているだろうね」
今、『化け猫亭』には、店主のお蘭と接客業を得意とする白菊しかいなかった。
大工仕事が得意な紅丸は、今日も朝から新米大工の喜助の指導に行っており、文を速達してくれる月夜も、昼ごろから文の配達を頼まれて店にいない。
紅丸と月夜の二匹がいると、なにかとじゃれあっていることが多く騒がしいので、その二匹がいないと、店の中はとても静かになる。
そのとき。からからと遠慮がちに、店の戸が開いた。
「あ、あの……お店、やってますか?」
戸口から顔をのぞかせたのは、一人の女性だった。
「えぇ、もちろんです。どうぞ、お入りくださいな」
お蘭が女性を招き入れると、白菊はすぐさま客人に出すお茶を用意するため、一度奥に引っ込んだ。
「ありがとう、白菊」
「お蘭様。あまり根を詰めすぎては、だめですにゃ」
「わかっているよ。それに今日はまだ、そんなにやってないだろう?」
お蘭は優しく白菊の頭を撫でながら、彼女が持ってきてくれた緑茶を飲む。
「うん。白菊の淹れてくれるお茶は、やっぱりおいしいねぇ」
「ありがとうございますにゃ。それにしても」
白菊は店の中を見回した。
「紅丸と月夜がいないと、ほんと静かですにゃー」
「紅丸は喜助さんの指導に。月夜は今日も、江戸中を走り回っているだろうね」
今、『化け猫亭』には、店主のお蘭と接客業を得意とする白菊しかいなかった。
大工仕事が得意な紅丸は、今日も朝から新米大工の喜助の指導に行っており、文を速達してくれる月夜も、昼ごろから文の配達を頼まれて店にいない。
紅丸と月夜の二匹がいると、なにかとじゃれあっていることが多く騒がしいので、その二匹がいないと、店の中はとても静かになる。
そのとき。からからと遠慮がちに、店の戸が開いた。
「あ、あの……お店、やってますか?」
戸口から顔をのぞかせたのは、一人の女性だった。
「えぇ、もちろんです。どうぞ、お入りくださいな」
お蘭が女性を招き入れると、白菊はすぐさま客人に出すお茶を用意するため、一度奥に引っ込んだ。
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