化け猫亭～化け猫の手、お貸しします～

序ノ巻 化け猫の手、お貸しします

１

　人間と妖怪が共に生活する江戸の町。そんな江戸にある町の一つ、八丁堀には少し変わった店があった。その名も『化け猫亭』。

　女主人のお蘭は、三毛柄の耳と長いしっぽを揺らして、今日も客を出迎える。

「いらっしゃい。初めてのお客さんだねぇ。え？　うちがなにを取り扱っているかって？　うちの店が取り扱っているのは、人の手ならぬ猫の手だよ。ほら、よく言うだろう？　手が回らないほど忙しいときに、『猫の手も借りたい』ってね。うちはまさしく、その猫の手を貸し出しているんだよ。もちろん、忙しい以外に困っていることがあれば、依頼さえしてくれれば手を貸すよ。ひとまず紹介してあげよう。おいで、おまえたち」

　お蘭に呼ばれて店の奥から現れたのは、ねじり鉢巻に大工道具を持った赤虎猫の紅丸べにまる。腰に前掛けをつけた白猫の白菊しらぎく。小さな斜めがけ鞄を提げて、手作りの「化け猫亭」と白い糸で刺繍された帽子を被った黒猫の月夜つくよ。小さな刀を腰に提げた虎之介とらのすけ。

　彼ら彼女らのしっぽは、みんな二股に分かれていた。『化け猫亭』の従業員は、化け猫族の一種である猫又なのだ。

「この子たちは、それぞれ得意な分野があってね。とても優秀なんだ。必ず、お客さんの手助けとなる。さぁ、あなたは誰を選ぶんだい？」

　化け猫のお蘭は、目を細めて笑いながら、しっぽをゆらりと揺らした。