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第三話 町の外は魔物だらけ?

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 翌朝、朝食を終えた私の元に、アストが現れた。アストは剣を帯剣していて、それなりに戦えるということを知ったわ。私は風魔法がちょっと使える程度だから、魔物が出たらどうする事も出来ないもの。猫探しは結局、町中ではなく、町の外も巡ることにしたのだから。

「それじゃあ、母ちゃん行ってくる」
「荷物のこと、宜しくお願いします」
「気を付けて行くんだよ、クレアちゃんもね!」

 女将セシルの見送りを受け、私たちは宿屋を後にした。町を一回りしながら、聞き込みをしたのだけれど、猫はおろか目撃情報すら一件もなかった。

「やっぱり、町の外かなあ」
「町の外は魔物が多いんでしょう? 大巫女様が浄化してくれたから、前ほど頻繁じゃないみたいだけれど」

 大巫女というのは、教会が定めた地位のこと。その地位は外国の王位に匹敵するというから、私にはちょっと想像が付かない。大巫女様は自分の年には既に大巫女であり、各地で活躍していたという話だ。

「ああ。ここも、ほとんど魔物は現れないよ。クレアは何処から来たんだよ、なんでそんな事も知らないんだ」
「え⁉ あ、私は出稼ぎに外から来たの! だから、この町もそうなのかな~って思っただけよ」
「そうなのか。まあ、若い女の人が出稼ぎなんて、遠くからしか来ないもんな」

 アストは納得したように頷くと、猫のチラシを出してきた。ミーシャの特徴は白色に、右眼の周りだけ黒ぶち模様がある可愛らしい猫ちゃんだ。体のほとんどが白いから、汚れていても森を横切ったらすぐにわかりそうだけれど。それでも途方もなく広い町の外を探すのは骨が折れるわ。やっぱり、自分ひとりじゃなくて誰かがいるってのはありがたいわね。

「もう少し先に行ってみよう」
「ええ、わかったわ」

 だからこそ、アストについていけば何とかなると思っていた。人を頼りにするのはいいことだけれど、それを私はアストに丸投げしてしまっていた。アストは必死でミーシャの名を呼びながら、森をかけていく。そうこうしているうちに、私は森のどこにいるのかがわからなくなっていた。

「ねえ、アスト。大分、深くまで来たけれど……。道、わかってるんだよね?」
「わかるよ」
「なんだ、良かった。道に迷ってるんだったら、もう引き返した方がいいと思ったの」
「心配性だなあ。木に印をつけながら歩いていたのに、気付かなかったのか?」

 アストはそう言いながら、木の幹にナイフで切り込みを入れた。私はミーシャ探しに夢中で、そんなところもみていなかった。

「気付かなかった……」
「クレアはよくノルトハイムに来られたな……」
「は、はは……」
「! クレア、下がって……‼」

 私も気配で分かった。ギシギシと木をかき分けてくるのは、熊の魔物だ。あまりに大きく、私は驚いて尻餅をついてしまった。

「ひっ……」
「クレア、魔物と目を合わせるな!」
「みみみみないけれど、どうしたらいいの!」
「俺が戦う、お前はそこで隠れていてくれ!」

 アストは剣を構えると、魔物と対峙した。魔物の爪は鋭く、一瞬でも触れられれば、人間の皮など簡単に剥けてしまうだろう。アストと魔物が対峙したまま、時間だけが過ぎていく。すると、魔物の背後から小さな魔物が現れた。子供かな……? 魔物に子供がいるなんて、聞いたことがないけれど。私の知識なんてあてにならない。実際、私は身動きが取れずにいた。アストにとっても、引き下がれない時代に発展させてしまっていた。

「魔物は親だったみたいだな」
「どういうこと?」
「魔物がどうして生まれるか、わかってるだろ」
「だ、大地から悪しきエーテルを吸いあげる……」
「子供はまだ幼くて、エーテルを吸い上げていない。魔物にならず、魔物になった親を追いかけてきたんだ」

 アストはそう言うと、剣を構えていた手を下げてしまった。魔物が慌てて身構えるものの、アストは微動だにしない。

「クレアって魔法使える?」
「風魔法なら、ちょっとだけ……」
「魔物を弱らせるから、ありったけの魔力で魔物の胸を狙って撃ってくれ!」
「ええ、なんでそんな……」
「父さんから聞いた方法を試すだけだ!」

 アストは剣を再び構えると、魔物に向かって飛び掛かった。すぐに横へ飛びあがり、魔物の爪を避けると、すぐにまた横へ飛びあがり、攻撃を避けていく。アストが息を切らせた頃、魔物も弱り果ててその場に崩れ落ちた。後ろで怯えている魔物の子供たちは震えあがっている。

「今だ!」

 アストの呼びかけに、私は思いっきりの魔法をぶっ放した。

「ウィンドトルネード!」

 風の渦が魔物の胸へ命中すると、魔物からは殺意が失われ、大人しくなっていく。

「やったの⁉」

 私が前へ出ようとすると、アストがそれを腕で止めさせた。魔物はグルルルと言いながら、ゆっくりと起き上がった。子供たちが駆け寄り、魔物は正気に戻ったように子供たちの頬を自らの頬で撫でた。親子の再会と思しき光景に、私はその魔物を怪我させた一撃を放ったのだと思い知った。

「正気に戻ったのね」
「ああ。そうみたいだ。ゆっくり後ろに退くぞ」

 アストの言葉に、私も頷いた。ゆっくりと後退していくと、魔物だった熊は子供たちを連れて森の奥へと戻っていった。難を逃れた私たちはその場に崩れ落ちた。

「はあ……! どうなる事かと思ったわ…………」
「コアを狙って、当たりの属性を撃つと正気に戻るって、父さんから聞いてたんだ」
「何それ、初耳なんだけれど」
「まあ、魔物なんてクレアはほとんど相手にしないだろうからな」

 確かに。私が魔物を見たのも、近くまで迫っていたのも、今回が始めてた。不意に私の身体はカタカタと震え、全身が脱力していった。


「きゃっ……」
「クレア……!」

 アストは剣を放り投げて、私を抱きかかえたけれど、私はそのまま地面に座り込んだ。

「ごめん、緊張が解けて……」
「無理もない。初めてか?」
「うん。初めてよ、魔物を見たのも……」
「良い魔法だったよ」
「ありがと」

 アストは笑みを浮かべたが、私にそんな余裕はなかった。今もまた魔物に襲われるかもしれないじゃない。怖くて周囲を見渡していると、アストが笑いながら安心させるように言った。

「今日はここで野宿しよう、火を起こすから木の枝を拾ってくるよ」
「ちょっと待ってよ、野宿って……」
「なんだ、野宿も初めてか?」
「初めてに決まってるじゃない!」

 アストは眼を丸くすると、途端にまた笑い出した。

「初めてばっかりじゃないか。どこぞの令嬢じゃあるまいし!」

 令嬢。その言葉に、私はドキリとした。アストが私の身分を知ってしまえば、彼はお父様に報告を入れてしまう。それだけは何としても避けなければならなかった。正体をバラすわけにはいかない。

「当たり前でしょ、私が令嬢な訳ないじゃない!」
「そりゃそーだ。こんなお転婆、あはは!」
「お転婆って、失礼じゃない!」
「ごめん、あはは……」

 私、そこまでお転婆にアストの前で振舞ったこと、ないんですけど⁉ 私がむくれていると、アストは笑いながら木の枝を拾い集めた。

「と、とりあえず……。また魔物が来るといけないから、火を起こそう」
「そ、そうね。それは困るわ。……木の枝を拾うくらい、私にも出来るわ」

 アストの笑い声に、私はすっかり立てるようになっていた。一緒に木の枝を拾い、アストが魔法で火を起こしてくれた。アストの属性は火属性のようで、後々聞けば先ほどの魔物とは相性が悪かったというから驚いたわ。
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