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第12環「業火のルゼリア」
⑫-1 シュタイン辺境伯領にて①
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ルゼリア大陸。それは大国となったルゼリアが命名した大陸であり、大国が大きな顔をしている大陸であったはずだった。いつの時代からかその栄光は失われ、「ルゼリア」という言葉の後にはネガティブな言葉が連なった。
大国ルゼリアの時代は終わりを告げたのか。
ルゼリア王国の王都ノーブル・ルミヴェイル。かつて栄華を誇った王都はクーデターによって陥落し、代王は城で籠城を続けているという。
首謀者はミリティア・フォン・ルージリア。かつてルゼリア・セシュール連合王国時代に、セシュールの王ルクヴァ・ラダとミラージュ・フォン・ルージリアの間に生まれた双子の姉である。長子であるレオポルトは、妹に当たるミリティアとは一度しか会った事はない。それは、父親であるルクヴァも同じ事だった。それほどまでに、両国間の関係は冷え切っていたのである。
「ここよりルゼリア領だ! 気を引き締めろ!」
それが今、セシュール軍はルゼリア王都へ向けて進軍中であり、王子であるトゥルクの命を受け、クーデターを止めようとしている。
「此処が、ルゼリア……」
アルブレヒトにとって、ルゼリア領に足を踏み入れるのは初めてではない。大陸の北東に位置するアンザイン王国から南下し、ルゼリア領の一部を制圧していた過去がある。
「気を引き締めろ、アルブレヒト」
「ああ、わかっている、レオポルト」
先刻の知らせによって、大巫女となったティトーが拉致されていたが、現在はルゼリア城にいるという。そしてクーデターも止めようというのだ。今も昔も、セシュール国というものを敵に回すことは出来ない。
「ただ、ティトーが育った町なんだなと思ってな」
「ティトーか」
ティトー。心優しいレオポルトの妹であり、その前世はセシュールの守護獣であるレン・ケーニヒスベルクだ。時代の移り変わりによって、「王の山」と呼ばれた彼女は、今はただの「ティトー」という、まだ7歳になったばかりの少女である。
「屋敷から出られなかったと聞いている。町で育ったというには、少し違うのではないだろうか」
「それでも、あいつが感じていた空気はここにあるだろう」
「本当に好きなんだな、ティトーが」
「そういう意味じゃない、7歳の子をどうこう言うのは辞めてくれ」
アルブレヒトは少女趣味はないと言わんばかりに、レオポルトを呆れ顔で見つめた。レオポルトは笑いながら、その言葉に応じた。
「惚れた女の生まれ変わりなんだろう。惚れたって仕方ない」
「今その話をする必要あるか? ティトーを早く助け出さなきゃいけないっていうのに」
「お前がマリアの話ばかりするからだ」
マリアはアルブレヒトの元婚約者であり、レオポルトが初恋をした女性でもあった。フェルド共和国にて捕らえられていたが、現在は脱出しているという。赤毛の美しいマリアは、レオポルトからもらった白い紐状のリボンを大切そうにしていたが、その紐をコンドルに結び付ける形で彼に返していたのだ。こんな返し方をされ、レオポルトはあまりいい気分ではなかっただろう。
「マリアに会ったら、ちゃんと想いを告げろよ」
「それについては断った筈だ。無駄話はいい、真面目に進軍しろ」
「わかりましたよ、レオポルト様」
◇◇◇
シュタイン領は思っていたより被害は少なく、閑散としていた。進軍してきたセシュール軍を恐れ、ほとんどが家に閉じこもっているようだった。
「情報が流れてないんじゃないすかね」
ラダ族の若者、マキャーナが声を上げる。
「クーデターが起こったなんて知らないんじゃないすか。辺境だし」
「その可能性はあるな」
ルクヴァはタウ族の族長セシリアと共に、シュタイン辺境伯の屋敷へ伝令を送っていた。その伝令からの報告では、屋敷を好きに使って貰って良いという、主からの指示があったという。主とは、コルネリアのことである。
「コルネリアは事態を把握していたみたいだがな」
コルネリアとはシュタイン辺境伯、コルネリウス・フォン・シュタインのことであり、ルクヴァとは何故か親しい間柄だ。ティトーの育ての親でもある。将軍とも呼ばれており、先の大戦ではアルブレヒトとも戦っている、根っからの騎士だ。
コルネリアは、有事の際にはセシュール軍の進軍を支援するように屋敷へ指示を出していた。それは裏切りではなく、代王への忠誠心からであろう。
「ひとまずここで待機、情報を収集しろ」
「わかったよ、全タウ族聞こえたか! 情報収集だ‼」
タウ族が出払い、静けさを取り戻した軍は休息に入った。恐らく最後の休息だろう。シュタイン領から王都はさほど遠くはないものの、まだ肉眼では確認できない。シュタイン領は高台のため、南東に下って行けばすぐに王都を見下ろせるだろう。
大国ルゼリアの時代は終わりを告げたのか。
ルゼリア王国の王都ノーブル・ルミヴェイル。かつて栄華を誇った王都はクーデターによって陥落し、代王は城で籠城を続けているという。
首謀者はミリティア・フォン・ルージリア。かつてルゼリア・セシュール連合王国時代に、セシュールの王ルクヴァ・ラダとミラージュ・フォン・ルージリアの間に生まれた双子の姉である。長子であるレオポルトは、妹に当たるミリティアとは一度しか会った事はない。それは、父親であるルクヴァも同じ事だった。それほどまでに、両国間の関係は冷え切っていたのである。
「ここよりルゼリア領だ! 気を引き締めろ!」
それが今、セシュール軍はルゼリア王都へ向けて進軍中であり、王子であるトゥルクの命を受け、クーデターを止めようとしている。
「此処が、ルゼリア……」
アルブレヒトにとって、ルゼリア領に足を踏み入れるのは初めてではない。大陸の北東に位置するアンザイン王国から南下し、ルゼリア領の一部を制圧していた過去がある。
「気を引き締めろ、アルブレヒト」
「ああ、わかっている、レオポルト」
先刻の知らせによって、大巫女となったティトーが拉致されていたが、現在はルゼリア城にいるという。そしてクーデターも止めようというのだ。今も昔も、セシュール国というものを敵に回すことは出来ない。
「ただ、ティトーが育った町なんだなと思ってな」
「ティトーか」
ティトー。心優しいレオポルトの妹であり、その前世はセシュールの守護獣であるレン・ケーニヒスベルクだ。時代の移り変わりによって、「王の山」と呼ばれた彼女は、今はただの「ティトー」という、まだ7歳になったばかりの少女である。
「屋敷から出られなかったと聞いている。町で育ったというには、少し違うのではないだろうか」
「それでも、あいつが感じていた空気はここにあるだろう」
「本当に好きなんだな、ティトーが」
「そういう意味じゃない、7歳の子をどうこう言うのは辞めてくれ」
アルブレヒトは少女趣味はないと言わんばかりに、レオポルトを呆れ顔で見つめた。レオポルトは笑いながら、その言葉に応じた。
「惚れた女の生まれ変わりなんだろう。惚れたって仕方ない」
「今その話をする必要あるか? ティトーを早く助け出さなきゃいけないっていうのに」
「お前がマリアの話ばかりするからだ」
マリアはアルブレヒトの元婚約者であり、レオポルトが初恋をした女性でもあった。フェルド共和国にて捕らえられていたが、現在は脱出しているという。赤毛の美しいマリアは、レオポルトからもらった白い紐状のリボンを大切そうにしていたが、その紐をコンドルに結び付ける形で彼に返していたのだ。こんな返し方をされ、レオポルトはあまりいい気分ではなかっただろう。
「マリアに会ったら、ちゃんと想いを告げろよ」
「それについては断った筈だ。無駄話はいい、真面目に進軍しろ」
「わかりましたよ、レオポルト様」
◇◇◇
シュタイン領は思っていたより被害は少なく、閑散としていた。進軍してきたセシュール軍を恐れ、ほとんどが家に閉じこもっているようだった。
「情報が流れてないんじゃないすかね」
ラダ族の若者、マキャーナが声を上げる。
「クーデターが起こったなんて知らないんじゃないすか。辺境だし」
「その可能性はあるな」
ルクヴァはタウ族の族長セシリアと共に、シュタイン辺境伯の屋敷へ伝令を送っていた。その伝令からの報告では、屋敷を好きに使って貰って良いという、主からの指示があったという。主とは、コルネリアのことである。
「コルネリアは事態を把握していたみたいだがな」
コルネリアとはシュタイン辺境伯、コルネリウス・フォン・シュタインのことであり、ルクヴァとは何故か親しい間柄だ。ティトーの育ての親でもある。将軍とも呼ばれており、先の大戦ではアルブレヒトとも戦っている、根っからの騎士だ。
コルネリアは、有事の際にはセシュール軍の進軍を支援するように屋敷へ指示を出していた。それは裏切りではなく、代王への忠誠心からであろう。
「ひとまずここで待機、情報を収集しろ」
「わかったよ、全タウ族聞こえたか! 情報収集だ‼」
タウ族が出払い、静けさを取り戻した軍は休息に入った。恐らく最後の休息だろう。シュタイン領から王都はさほど遠くはないものの、まだ肉眼では確認できない。シュタイン領は高台のため、南東に下って行けばすぐに王都を見下ろせるだろう。
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