【完結】暁の草原(改稿作業中)

Lesewolf

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第九環「巫女継承の儀」

⑨-11 巫女継承の儀②

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 その時だった。
 オーブから光が眩く放ち、ティトーを圧倒し始めた。ティトーの全身が強く呼応し、金色に輝き始める。

「わあ!」
「ティトー!」

 アルブレヒトが叫んだが、ティトーは寂しそうに笑顔で振り返えると、口で何かを訴えただけだった。

 眩い金色の光は空へ、柱が走るように瞬く間に伸び、そのまましばらく光り輝いていた。まるで、大戦後の光の柱のように。


「ティトー‼」

 レオポルトの言葉と同時に、ティトーから更に強い光が瞬いた。一行が目を開けた時、そこには駆けつけたアルブレヒトに抱きかかえられているティトーがぐったりとしていた。慌てて駆け寄る一行とアドニスだったが、すぐにティトーの呼吸を確認した。

「ティトー! しっかりするんだ、起きてくれ、ティトー!」

 レオポルトの呼びかけにティトーには何の反応もなく、すぐに浅い呼吸が繰り返された。

「おいアドニス、どうなっている!」
「…………素晴らしい」
「何?」
「大巫女の誕生ですよ! それも、ミラージュ王女の非にならない。その上をいく大巫女です。あの光がそれを物語っています。まるで初代大巫女誕生の儀を見たかのような、伝承に残る儀となった。なんと素晴らしい……」

 アドニスだけでなく、周囲の神官たちも歓声を上げている。肝心のティトーはぐったりとしており、浅い呼吸を繰り返していた。あまりの光景に、レオポルトの手に力が入る。

 オーブは輝きを失うと灰色に変化し、静かにその台座で鎮座していた。もう宙を浮いてなどいない。その光景に疑問を持ったマリアだったが、すぐにアドニスたち神官の歓声に辟易した。ティトーを包んでいた金色の光は収まっている。

 サーシャはティトーへ駆け寄ると、その手を優しく握り、レオポルトを呼ぶ。

「レオポルト様、手を繋いであげて下さい」
「ティトーは大丈夫なのか?」
「はい。力の継承は成っています。力が強大で、継承するのに意識を保つので精一杯だったのでしょう。……ティトーちゃん、いいえ。ティトー様はまだ6歳ですから」
「明日で7歳だ」

 アルブレヒトは力強く答え、ティトーを大切そうにゆっくりと抱きしめた。

「明日が、ティトーの誕生日だ。それでも、まだ7歳だ」



「あ…………」

 ティトーがぼんやりと目を開け、アルブレヒトを見つめるが、すぐにその眼は閉じられた。そのまま、ティトーは深く息を吐いた。

「ティトー! 大丈夫なの⁉」
「ティトー、しっかりしてくれ! ティトー!」

 マリアとレオポルトの呼びかけに、ティトーは再び目を開ける。

「うん。大丈夫。でもね、なんか、凄くねむい。あったかいの」
「巫女の力を継承したのです。ティトー様は、無事に大巫女を継承されました」

 アレクサンドラの言葉に、ティトーはゆっくりと微笑んだ。

「良かった。でも、少し眠ってもいいですか。とってもねむい」
「もちろんです。ゆっくり休んでください……」

 アレクサンドラに微笑みかけると、ティトーはすうすうと寝息を立てて眠りについた。アルブレヒトがゆっくりと立ち上がると、アドニスが歩み出ると、床へ膝をついて首を垂れた。それを見た神官たち、そしてアレクサンドラも同様に膝をついて首を垂れた。

「大巫女様の誕生だ……」

 神官たちは喜びを抑えきれないのか、口々に囁いている。肝心のティトーはアルブレヒトの腕の中でゆっくりと眠っている。

「こいつはまだ、こんな、小さいのに……」

 アルブレヒトの言葉に、一行と聖女だけが陰りを表情に浮かべる。
 ネリネ歴954年6月13日、ティトーは予定通りに巫女の継承の儀を終え、最年少6歳で大巫女となったのだった。
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