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第八環「モノクロの日々」
⑧-4 すれ違う想い②
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「独断って……」
「アルが迂回するって言ったとき、初めて見たわ。親子喧嘩」
「ああ~。そうだな、……ほぼ、俺の独断だな」
「迂回してルゼリアを攻めるって言ったのは、確かにアルだったけれど、でも独断っていうのはちょっと違うかな」
「侵略戦争をしているのは、こちらではない。父はそう言っていたな」
アルブレヒトの父という発言に、レオポルトは視線を逸らさず、アルブレヒトを見つめたが、マリアは視線を外してしまった。マリアは申し訳なさそうに、恐る恐る視線を上げる。
「アル、ごめん。その。」
「何故、君が謝罪をする。この話題を出したのは俺だ。俺は、お前が何の目的でフェルドとセシュールを巻き込もうとしたのかを聞いている」
「やめて。さすがにティトーが起きるわ。二人とも、わだかまりがあるのなら、解消してよ。私、ティトーを起こして来るからね」
次第に感情的になり、声を大きくするレオポルトをなだめ、マリアは部屋を後にした。軽く閉じられたドアを見つめると、二人は視線を合わせた。
「クレバスの一件には、ルゼリア王女である母が関わっていたと、聞いているが」
「ああ。大巫女のミラージュ王女が放った槍は、迷うことなく俺を目掛けて飛んできた。咄嗟に俺は兵を退かせたが、槍は大地を切り裂いただけでなく、大地を氷結させると巨大な氷山作り上げた。そして、その槍でもって、アンセム領とルゼリア領をクレバスで引き裂いたんだ。空路以外に、侵攻する手立てはお互いに潰えた。あれが、大巫女の成せる業なんだろうかと目を疑ったよ」
「天変地異を引き起こすという伝説があるのは、どちらかというとラダ族だ。母が、ミラージュ王女が進軍したのはあの一件が最初で最後だった。お前との衝突で、お互いに何かあったのだと思ったが」
「何が言いたいのか、はっきり言ってくれ」
レオポルトは目を閉じると、気難しそうに、眉間にしわを寄せた。再び目を開けた時、眼帯を装着した。その眼帯の下には、青く深淵の瞳を煌めいていることだろう。
「母は、戦争を止めようとしたのだろう。お互いの侵攻を止めるため、巨大なクレバスを生み出した。領地は分断され、空路以外の侵攻の道を経った。ヴァジュトールとの港を抑える事は出来なかったが、それでも、ルゼリア国も、アンセム国も、あのクレバスで侵攻する事はお互いが不可能になったはずだ。あれで、戦争は終われなかったのか。何か、母と何かあったのではないのか。そもそもだ。大巫女として、母が進軍するなど……」
レオポルトは夢中で話すと、隣の部屋を気にすることなく、疑問を、わだかまりを口にしたのだ。
「確かに、お前の進言が通り、迂回したことでフェルド共和国とセシュール国は戦争へ加担することとなった。だが、お前が進行を、進軍をするきっかけを作ったのは、母ではないのかと。何があったのか、教えてくれ」
「…………」
「セシュールを、フェルドを巻き込めば、俺が出るのはわかっていただろう。どうして、何も言ってくれなかった。いきなり止まった文通を、俺はどうしたら良かった。なぜ、ルゼリアの略奪行為を俺や父に相談しなかった。どうして、俺に遠慮して文通を辞めたんだ。なぜ何も言ってくれなかった」
「すまん」
「どうしてだと聞いている!」
レオポルトが声を荒げ、隣の広間からは物音が発せられた。慌てて駆け寄る足音が聞こえる。
「アルが迂回するって言ったとき、初めて見たわ。親子喧嘩」
「ああ~。そうだな、……ほぼ、俺の独断だな」
「迂回してルゼリアを攻めるって言ったのは、確かにアルだったけれど、でも独断っていうのはちょっと違うかな」
「侵略戦争をしているのは、こちらではない。父はそう言っていたな」
アルブレヒトの父という発言に、レオポルトは視線を逸らさず、アルブレヒトを見つめたが、マリアは視線を外してしまった。マリアは申し訳なさそうに、恐る恐る視線を上げる。
「アル、ごめん。その。」
「何故、君が謝罪をする。この話題を出したのは俺だ。俺は、お前が何の目的でフェルドとセシュールを巻き込もうとしたのかを聞いている」
「やめて。さすがにティトーが起きるわ。二人とも、わだかまりがあるのなら、解消してよ。私、ティトーを起こして来るからね」
次第に感情的になり、声を大きくするレオポルトをなだめ、マリアは部屋を後にした。軽く閉じられたドアを見つめると、二人は視線を合わせた。
「クレバスの一件には、ルゼリア王女である母が関わっていたと、聞いているが」
「ああ。大巫女のミラージュ王女が放った槍は、迷うことなく俺を目掛けて飛んできた。咄嗟に俺は兵を退かせたが、槍は大地を切り裂いただけでなく、大地を氷結させると巨大な氷山作り上げた。そして、その槍でもって、アンセム領とルゼリア領をクレバスで引き裂いたんだ。空路以外に、侵攻する手立てはお互いに潰えた。あれが、大巫女の成せる業なんだろうかと目を疑ったよ」
「天変地異を引き起こすという伝説があるのは、どちらかというとラダ族だ。母が、ミラージュ王女が進軍したのはあの一件が最初で最後だった。お前との衝突で、お互いに何かあったのだと思ったが」
「何が言いたいのか、はっきり言ってくれ」
レオポルトは目を閉じると、気難しそうに、眉間にしわを寄せた。再び目を開けた時、眼帯を装着した。その眼帯の下には、青く深淵の瞳を煌めいていることだろう。
「母は、戦争を止めようとしたのだろう。お互いの侵攻を止めるため、巨大なクレバスを生み出した。領地は分断され、空路以外の侵攻の道を経った。ヴァジュトールとの港を抑える事は出来なかったが、それでも、ルゼリア国も、アンセム国も、あのクレバスで侵攻する事はお互いが不可能になったはずだ。あれで、戦争は終われなかったのか。何か、母と何かあったのではないのか。そもそもだ。大巫女として、母が進軍するなど……」
レオポルトは夢中で話すと、隣の部屋を気にすることなく、疑問を、わだかまりを口にしたのだ。
「確かに、お前の進言が通り、迂回したことでフェルド共和国とセシュール国は戦争へ加担することとなった。だが、お前が進行を、進軍をするきっかけを作ったのは、母ではないのかと。何があったのか、教えてくれ」
「…………」
「セシュールを、フェルドを巻き込めば、俺が出るのはわかっていただろう。どうして、何も言ってくれなかった。いきなり止まった文通を、俺はどうしたら良かった。なぜ、ルゼリアの略奪行為を俺や父に相談しなかった。どうして、俺に遠慮して文通を辞めたんだ。なぜ何も言ってくれなかった」
「すまん」
「どうしてだと聞いている!」
レオポルトが声を荒げ、隣の広間からは物音が発せられた。慌てて駆け寄る足音が聞こえる。
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