124 / 193
第七環「知識より先に」
⑦-15 狼煙の余波⑤
しおりを挟む
「ルゼリア国は、セシュールを大義名分で攻め込む時、ティトーの意見を仰がなければいけない」
レオポルトの言葉に、アドニスは力強く頷いた。
「王位継承権やルージリア籍を放棄した我々とは違い、ティトーさんの地位は新しく構築されるでしょう。巫女、あるいは大巫女として。大巫女でなく、巫女であったとしも、代王に対しては同程度の地位に匹敵します。否、それ以上の地位であるティトーさんの同意なしで、ルゼリア国はセシュール国への進行はおろか、フェルド共和国を実行統治することも不可能になるでしょう」
「じゃあ、戦争にならないってこと?」
ティトーはベッドから飛び降りると、アドニスへ向かって呟くように、その言葉を紡いだ。
「ええ。今の代王にそこまでの力量はありません。……失礼、貴方がたの祖父なのですがね。貴方が巫女でも、意見を仰ぐ必要があるのですから。それが大巫女になれば、その地位は更に凌ぎ、王に匹敵するのです。そして、教会は大巫女を全力で支援します。大巫女の地位は、聖女より高いのです」
「アドニス、話が長い。もっと短く、わかりやすく話してくれ」
「嘘ではありませんからね。私はしばらく、この町、時計の町におりますので、巫女について。継承の儀について詳しくご説明しましょう。少し考えてからで構いませんよ。レオポルト・アンリの体のこともあります」
アドニスは力強く頷くと、レオポルトへ向き直った。慌ててティトーが間に入ると、アドニスを睨むように恐る恐る見つめた。
「僕、お兄ちゃんがいなきゃ、継承の儀は受けないよ」
「ええ。もちろんです」
「アルも、マリアさんもだよ」
「ええ、ええ。こちらでそのように手配いたします。大丈夫ですよ」
「なんだあ。へへへ。良かった」
ティトーは微笑むと、何故かそのままアルブレヒトに抱きついた。アルブレヒトも慣れた手つきで頭を撫でる。
「そこでレオじゃないところが、まだ信頼が足りないんじゃない」
マリアの言葉に、レオポルトは余裕の笑みを浮かべた。
「ティトーはそういう事をする奴じゃない。な、ティトー」
「うん! 僕はおにいちゃんが好きだし、マリアお姉さんも大好き!」
ティトーはマリアと抱き合うと、すぐにレオポルトを抱きしめた。
「僕、みんなの事が大好きなの。だから、みんなが居なきゃ、何もしたくないし、巫女なんてならないです」
「さっきからもうティトーが巫女で確定のような素振りだが、大丈夫なんだろうな」
「この子からは神聖な力を感じます。聖女であるアレクサンドラもそう言っていましたよ。3人が巫女継承の儀に参加出来るように、最優先事項に取り入れましょう。それでは、私はこれで」
すると、アドニスは気づいたようにハッとすると、最初に出した新聞をどこからか取り出し、マリアに手渡した。
「なに? 新聞?」
「読んでみるといいでしょう。君も生きていて良かった。それでは」
アドニスはそのまま出ていくと、部屋は静まり返った。
「相変わらず、話が長いのよ」
マリアは新聞を広げると、大きな声を上げたため、ティトーがびっくりして飛び上がってしまった。
「ちょ、これ!」
「わわわ」
ティトーの体を支えると、アルブレヒトはティトーの顔を照れながら見つめた。ティトーは意味が分からず、新聞をのぞき込む。
「ああ。そう云う事だ。俺は死刑囚ではなくなる可能性がある」
「自由の身じゃない!」
「ええ! ほんと⁉」
ティトーは前屈みで新聞をのぞき込むと、マリアがその文字を指さし、ティトーも万遍の笑みを浮かべた。
「これ!!!!!! アルはもう、殺されないんだね!」
「いや、そういうわけにはいかない。生きていたとなれば、アンセムの土地に残された人々が黙っていないさ」
「アルブレヒト……」
「アル……」
ティトーの表情が陰ったことに驚き、アルブレヒトは慌てて修正を口にする。
「それでも、身動きはとりやすくなる。親父さんたちに、感謝だ」
アルブレヒトは俯きながら、天を仰いだ。ティトーだけは、それが泣いているのだと感じたが、レオポルトとマリアは彼の境遇をより知っていたがために俯き、それに気付くことはなかった。
レオポルトの言葉に、アドニスは力強く頷いた。
「王位継承権やルージリア籍を放棄した我々とは違い、ティトーさんの地位は新しく構築されるでしょう。巫女、あるいは大巫女として。大巫女でなく、巫女であったとしも、代王に対しては同程度の地位に匹敵します。否、それ以上の地位であるティトーさんの同意なしで、ルゼリア国はセシュール国への進行はおろか、フェルド共和国を実行統治することも不可能になるでしょう」
「じゃあ、戦争にならないってこと?」
ティトーはベッドから飛び降りると、アドニスへ向かって呟くように、その言葉を紡いだ。
「ええ。今の代王にそこまでの力量はありません。……失礼、貴方がたの祖父なのですがね。貴方が巫女でも、意見を仰ぐ必要があるのですから。それが大巫女になれば、その地位は更に凌ぎ、王に匹敵するのです。そして、教会は大巫女を全力で支援します。大巫女の地位は、聖女より高いのです」
「アドニス、話が長い。もっと短く、わかりやすく話してくれ」
「嘘ではありませんからね。私はしばらく、この町、時計の町におりますので、巫女について。継承の儀について詳しくご説明しましょう。少し考えてからで構いませんよ。レオポルト・アンリの体のこともあります」
アドニスは力強く頷くと、レオポルトへ向き直った。慌ててティトーが間に入ると、アドニスを睨むように恐る恐る見つめた。
「僕、お兄ちゃんがいなきゃ、継承の儀は受けないよ」
「ええ。もちろんです」
「アルも、マリアさんもだよ」
「ええ、ええ。こちらでそのように手配いたします。大丈夫ですよ」
「なんだあ。へへへ。良かった」
ティトーは微笑むと、何故かそのままアルブレヒトに抱きついた。アルブレヒトも慣れた手つきで頭を撫でる。
「そこでレオじゃないところが、まだ信頼が足りないんじゃない」
マリアの言葉に、レオポルトは余裕の笑みを浮かべた。
「ティトーはそういう事をする奴じゃない。な、ティトー」
「うん! 僕はおにいちゃんが好きだし、マリアお姉さんも大好き!」
ティトーはマリアと抱き合うと、すぐにレオポルトを抱きしめた。
「僕、みんなの事が大好きなの。だから、みんなが居なきゃ、何もしたくないし、巫女なんてならないです」
「さっきからもうティトーが巫女で確定のような素振りだが、大丈夫なんだろうな」
「この子からは神聖な力を感じます。聖女であるアレクサンドラもそう言っていましたよ。3人が巫女継承の儀に参加出来るように、最優先事項に取り入れましょう。それでは、私はこれで」
すると、アドニスは気づいたようにハッとすると、最初に出した新聞をどこからか取り出し、マリアに手渡した。
「なに? 新聞?」
「読んでみるといいでしょう。君も生きていて良かった。それでは」
アドニスはそのまま出ていくと、部屋は静まり返った。
「相変わらず、話が長いのよ」
マリアは新聞を広げると、大きな声を上げたため、ティトーがびっくりして飛び上がってしまった。
「ちょ、これ!」
「わわわ」
ティトーの体を支えると、アルブレヒトはティトーの顔を照れながら見つめた。ティトーは意味が分からず、新聞をのぞき込む。
「ああ。そう云う事だ。俺は死刑囚ではなくなる可能性がある」
「自由の身じゃない!」
「ええ! ほんと⁉」
ティトーは前屈みで新聞をのぞき込むと、マリアがその文字を指さし、ティトーも万遍の笑みを浮かべた。
「これ!!!!!! アルはもう、殺されないんだね!」
「いや、そういうわけにはいかない。生きていたとなれば、アンセムの土地に残された人々が黙っていないさ」
「アルブレヒト……」
「アル……」
ティトーの表情が陰ったことに驚き、アルブレヒトは慌てて修正を口にする。
「それでも、身動きはとりやすくなる。親父さんたちに、感謝だ」
アルブレヒトは俯きながら、天を仰いだ。ティトーだけは、それが泣いているのだと感じたが、レオポルトとマリアは彼の境遇をより知っていたがために俯き、それに気付くことはなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる