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第七環「知識より先に」
⑦-6 再びの約束を、ここに③
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一方、宿屋に使っている平屋では雨が上がったことで聖女アレクサンドラ=サーシャが祈りをささげていた。傍らには、彼女を慕う親友の神官ナターシャが控えている。
「この夕焼けが、二人をきっと誘ってくれるはずですわ」
「はい。それよりもティトーさん、凄いですね。一人で、待つなんて」
「そうですわね。きっと、アルブレヒト義兄様を信じているのでしょう。薬を託した、マリアさんも」
「サーシャが言うと、確信があるように見えるけれど」
「ええ、確信していますわ」
サーシャが顔を上げると、遠くから男がこちらへ向かってくるのに気づいた。サーシャだけでなく、ナターシャの表情も明るくなっていく。
「義兄様!」
「アルブレヒト様!」
「その名前はちょっと、避けて戴けませんか。ナターシャさんも」
アルブレヒトは笑いながら、後ろのティトーを見せた。ティトーは大きな背中で眠りこけているものの、表情は悪くない。二人は安堵するとともに、すぐに法術で衣服を乾かした。
「風よ! かの者たちの衣服を乾かしたまえ」
「わわわ、あったかい」
「起きたか、ティトー」
ティトーは再び寝ぼけると、地面へとゆっくりと降ろされた。すぐによろけると、アルブレヒトに支えられると、抱き上げられた。
「足を怪我していたんだ。一応問題ないと言っているが、診てもらえるか」
「もちろんですわ」
「だ、大丈夫だもん」
「そういうわけには参りませんわ」
包帯のように巻かれたハンカチが外され、若干の足の腫れだけが残っているのを確認すると、サーシャは治癒術を試みた。
「癒しの光を!」
「わー、あったかくて、くすぐったい」
「もう問題なく歩けるでしょう」
「歩けるって、おろしてー!」
ティトーの声も虚しく、アルブレヒトは降ろす気配がない。そのまま部屋の中へ入ると、マリアを呼んだ。
「ティトー! 良かった、心配したのよ」
「マリアさん! お兄ちゃんは⁉」
「安定しているわ、ほら」
部屋へ促されと、ドアが開く前に声が響く。懐かしいと感じるほど、嬉しさのこみ上げる兄の声だ。
「ティトー!」
「おにいちゃあん!」
アルブレヒトはティトーを抱っこから降ろすと、一目散に兄の方へ走っていった。そのまま兄レオポルトに抱き着くと、わんわんと大泣きを始めた。
「わ、ティトー! そんなに泣かずとも」
「安心したんだろう。よく頑張った、ティトーは」
「おにいちゃあああん」
「ありがとう、ティトー。すぐに落ち着いた。それでも、流した血の量が多くてな。俺はここで足止めだ」
レオポルトはそういうと、ティトーを優しく撫でたが、ティトーは首を横に振った。
「聖女様、送り届けたら戻ってくる」
「ティトーは、巫女選定の儀を受けなくてはならないだろう。瑠竜血値だって、測らなくてはいけない」
「やだあ」
ティトーはレオポルトにしがみついたまま振り返ると、サーシャへ懇願した。
「サーシャおねえちゃん……」
「今日は、とにかくもう動くことは出来ませんわ。先ほど、あちらから迎えも呼びましたし、私はこの町まで連れてきて戴けただけで、十分有り難いのですわ。報酬も、その時にすべてお支払い致します」
「サーシャ殿、それはさすがに悪い」
レオポルトは掠れてはいるものの、はっきりとした声で反応した。ティトーは兄をギュッと抱きしめたまま、再び顔を埋めた。
「この夕焼けが、二人をきっと誘ってくれるはずですわ」
「はい。それよりもティトーさん、凄いですね。一人で、待つなんて」
「そうですわね。きっと、アルブレヒト義兄様を信じているのでしょう。薬を託した、マリアさんも」
「サーシャが言うと、確信があるように見えるけれど」
「ええ、確信していますわ」
サーシャが顔を上げると、遠くから男がこちらへ向かってくるのに気づいた。サーシャだけでなく、ナターシャの表情も明るくなっていく。
「義兄様!」
「アルブレヒト様!」
「その名前はちょっと、避けて戴けませんか。ナターシャさんも」
アルブレヒトは笑いながら、後ろのティトーを見せた。ティトーは大きな背中で眠りこけているものの、表情は悪くない。二人は安堵するとともに、すぐに法術で衣服を乾かした。
「風よ! かの者たちの衣服を乾かしたまえ」
「わわわ、あったかい」
「起きたか、ティトー」
ティトーは再び寝ぼけると、地面へとゆっくりと降ろされた。すぐによろけると、アルブレヒトに支えられると、抱き上げられた。
「足を怪我していたんだ。一応問題ないと言っているが、診てもらえるか」
「もちろんですわ」
「だ、大丈夫だもん」
「そういうわけには参りませんわ」
包帯のように巻かれたハンカチが外され、若干の足の腫れだけが残っているのを確認すると、サーシャは治癒術を試みた。
「癒しの光を!」
「わー、あったかくて、くすぐったい」
「もう問題なく歩けるでしょう」
「歩けるって、おろしてー!」
ティトーの声も虚しく、アルブレヒトは降ろす気配がない。そのまま部屋の中へ入ると、マリアを呼んだ。
「ティトー! 良かった、心配したのよ」
「マリアさん! お兄ちゃんは⁉」
「安定しているわ、ほら」
部屋へ促されと、ドアが開く前に声が響く。懐かしいと感じるほど、嬉しさのこみ上げる兄の声だ。
「ティトー!」
「おにいちゃあん!」
アルブレヒトはティトーを抱っこから降ろすと、一目散に兄の方へ走っていった。そのまま兄レオポルトに抱き着くと、わんわんと大泣きを始めた。
「わ、ティトー! そんなに泣かずとも」
「安心したんだろう。よく頑張った、ティトーは」
「おにいちゃあああん」
「ありがとう、ティトー。すぐに落ち着いた。それでも、流した血の量が多くてな。俺はここで足止めだ」
レオポルトはそういうと、ティトーを優しく撫でたが、ティトーは首を横に振った。
「聖女様、送り届けたら戻ってくる」
「ティトーは、巫女選定の儀を受けなくてはならないだろう。瑠竜血値だって、測らなくてはいけない」
「やだあ」
ティトーはレオポルトにしがみついたまま振り返ると、サーシャへ懇願した。
「サーシャおねえちゃん……」
「今日は、とにかくもう動くことは出来ませんわ。先ほど、あちらから迎えも呼びましたし、私はこの町まで連れてきて戴けただけで、十分有り難いのですわ。報酬も、その時にすべてお支払い致します」
「サーシャ殿、それはさすがに悪い」
レオポルトは掠れてはいるものの、はっきりとした声で反応した。ティトーは兄をギュッと抱きしめたまま、再び顔を埋めた。
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