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第七環「知識より先に」
⑦-1 それは最奥に眠る①
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この物語はフィクションです。実際の人物、団体、国とは関係がありません。
=====
もっともっと幼い時から、雨は好きだった。
その音が、跳ねる音が、すべてが好きだ。そう思っていた。トントンと屋根を鳴らす音が、時々違った音色で跳ねるのだ。
舌打ちだというと、あのおねえさんは笑いながら話を聞いてくれていた。
雨の日はほとんどの者が家の中で過ごし、自分のように家から出られないなどという事が当たり前になるのだ。
ルゼリア大陸と呼ばれる大陸には、中央に深い森を構える。そして、月まで届くと云われるエーディエグレスという岩山が、その森の中央に聳え立つのだ。
「雨、いっぱい降って来ちゃった」
土砂降りの雨が森へ降り注ぎだし、まだ7歳を迎える前の幼い少年ティトーは、森で迎えを待っていた。魔物はエーディエグレスの森へ入ることはできないのだが、理由はわかっていない。ティトーを目指した魔物が現れる可能性もあった。
「動いちゃだめだけど、あめやどりしたいな」
寂しさから、独り言が多くなった少年は座っていたポイントに木の枝でハンカチを括り付けると、そのまま地面へ差し込んだ。
「あまやどり? あめやどり? わかんないや。初めてだ」
少年は深い森の奥へ進んでいった。
◇
一方、近くの時計の町、宿屋として使っている平屋にて――――。
「ガハッ」
「レオ!」
レオポルトが5度目の大量となる血を吐き出していた。ラダ族というセシュールの部族に多い白鷺病という病のためだ。
赤毛の女性マリアがレオポルトを支えながら、その鮮血を拭っていく。
「ゆっくり深呼吸して」
「もう、吐き出せる血はない」
「バカなこと言ってないで、喋らなくていいから」
聖女であるアレクサンドラ=サーシャが、桶で濯いだタオルで顔を拭いていくが、レオポルトの服はもう赤く、血だらけのままであった。
「一度、服を着替えたほうがゆっくり休めるかもしれませんわね」
「それでしたら、アレクの用意した服を…………ここにあります!」
サーシャの親友である神官ナターシャがテキパキと着替えの準備をすると、レオポルトはそれを手で制止するように広げた。
「一人で着替えられる」
「何言ってんのよ。恥じらってる場合じゃないでしょう」
マリアはそういうと、レオポルトの上着のボタンを外していった。血が固まり、ボタンが外れにくくなっているのだ。
「神官ナターシャよ。男性の素肌を見てはいけないというルールは、この際無視させてもらいますわよ」
「そもそもレオポルト殿下の存在が非公式ですから、問題にもなりませんよ。聖女アレクサンドラ」
「ほら、観念して着替えて」
女性3人に囲まれ、恥じらう暇もないまま、衣服を脱がされていく。上半身が露わになったところで、レオポルトがまた咳き込みだした。
「ケホッゲホ……」
「ゆっくり、そうゆっくりよ。上手いじゃない」
咳き込む声も掠れていく中、レオポルトは6度目の嘔吐を繰り返した。血液の出血はこれ以上は望ましくない。
「もう医者を呼んで、輸血するしか」
「駄目だ」
「でも、そんな体で」
「見つかれば、アルブレヒトが殺される」
幾度となく繰り返される問答が、そこでいつも途切れてしまう。
「そうで、なくとも。処刑が執行されていなかったと知られれば、ルゼリア国はセシュールへ攻め込むだろう。戦争になる」
「………………」
「信じましょう。薬草を摘んできてくれるティトーちゃんとアルブレヒト義兄様を」
その時、勢いよく玄関が開く音が響き、部屋にずぶ濡れのアルブレヒトが現れた。そして雷鳴が轟くと、屋敷もまた雨に見舞われてしまったのだった。
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もっともっと幼い時から、雨は好きだった。
その音が、跳ねる音が、すべてが好きだ。そう思っていた。トントンと屋根を鳴らす音が、時々違った音色で跳ねるのだ。
舌打ちだというと、あのおねえさんは笑いながら話を聞いてくれていた。
雨の日はほとんどの者が家の中で過ごし、自分のように家から出られないなどという事が当たり前になるのだ。
ルゼリア大陸と呼ばれる大陸には、中央に深い森を構える。そして、月まで届くと云われるエーディエグレスという岩山が、その森の中央に聳え立つのだ。
「雨、いっぱい降って来ちゃった」
土砂降りの雨が森へ降り注ぎだし、まだ7歳を迎える前の幼い少年ティトーは、森で迎えを待っていた。魔物はエーディエグレスの森へ入ることはできないのだが、理由はわかっていない。ティトーを目指した魔物が現れる可能性もあった。
「動いちゃだめだけど、あめやどりしたいな」
寂しさから、独り言が多くなった少年は座っていたポイントに木の枝でハンカチを括り付けると、そのまま地面へ差し込んだ。
「あまやどり? あめやどり? わかんないや。初めてだ」
少年は深い森の奥へ進んでいった。
◇
一方、近くの時計の町、宿屋として使っている平屋にて――――。
「ガハッ」
「レオ!」
レオポルトが5度目の大量となる血を吐き出していた。ラダ族というセシュールの部族に多い白鷺病という病のためだ。
赤毛の女性マリアがレオポルトを支えながら、その鮮血を拭っていく。
「ゆっくり深呼吸して」
「もう、吐き出せる血はない」
「バカなこと言ってないで、喋らなくていいから」
聖女であるアレクサンドラ=サーシャが、桶で濯いだタオルで顔を拭いていくが、レオポルトの服はもう赤く、血だらけのままであった。
「一度、服を着替えたほうがゆっくり休めるかもしれませんわね」
「それでしたら、アレクの用意した服を…………ここにあります!」
サーシャの親友である神官ナターシャがテキパキと着替えの準備をすると、レオポルトはそれを手で制止するように広げた。
「一人で着替えられる」
「何言ってんのよ。恥じらってる場合じゃないでしょう」
マリアはそういうと、レオポルトの上着のボタンを外していった。血が固まり、ボタンが外れにくくなっているのだ。
「神官ナターシャよ。男性の素肌を見てはいけないというルールは、この際無視させてもらいますわよ」
「そもそもレオポルト殿下の存在が非公式ですから、問題にもなりませんよ。聖女アレクサンドラ」
「ほら、観念して着替えて」
女性3人に囲まれ、恥じらう暇もないまま、衣服を脱がされていく。上半身が露わになったところで、レオポルトがまた咳き込みだした。
「ケホッゲホ……」
「ゆっくり、そうゆっくりよ。上手いじゃない」
咳き込む声も掠れていく中、レオポルトは6度目の嘔吐を繰り返した。血液の出血はこれ以上は望ましくない。
「もう医者を呼んで、輸血するしか」
「駄目だ」
「でも、そんな体で」
「見つかれば、アルブレヒトが殺される」
幾度となく繰り返される問答が、そこでいつも途切れてしまう。
「そうで、なくとも。処刑が執行されていなかったと知られれば、ルゼリア国はセシュールへ攻め込むだろう。戦争になる」
「………………」
「信じましょう。薬草を摘んできてくれるティトーちゃんとアルブレヒト義兄様を」
その時、勢いよく玄関が開く音が響き、部屋にずぶ濡れのアルブレヒトが現れた。そして雷鳴が轟くと、屋敷もまた雨に見舞われてしまったのだった。
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