暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
106 / 198
第六環「予兆、約束の果てに」

⑥-11 エーディエグレスの森へ①

しおりを挟む
 今にも雨が降り出しそうな、湿った空気が外を包み込んでいた。ティトーは空を睨みつけると、エーディエグレスの森と反対方向へ進みだした。

「ティトー! 森はそっちじゃない、いきなりなんだよ!」
「いいの! こっち!」

 ティトーはそのまま歩み続けると、いきなり時計の町から遠ざかるように進みだした。

「どこに行くんだ! 雨が降るぞ」
「ここから! ここからエーディエグレスの森に入るの!」

 そこには獣道と呼ばれる、いわゆる動物が通った形跡のある道だった。そのまま方向的に、エーディエグレスの森に通じている。

「そうか、獣は森を知り尽くしている」
「行こう、アル! 早く!」

 ティトーは走り出しながら進もうとしたため、足を取られてすぐによろけてしまう。しかし、ティトーは近くの木につかまると、すぐに立ち上がって歩みだした。

「早く、アル!」
「ま、待て! ポイントに印をつけないと」
「そんなのいらないもん! こっち!」

 そのまま進んでいくと、すぐに上り坂がやってきた。緩やかな登り坂が続き、すぐにまた下ってゆく。そうして進んでいくと、開けた場所へと出たのだ。

「ここだ!」
「俺も探す! どんな色のだ」
「白い花だよ! ピンクもあるけれど、白がいいんだ!」
「図鑑には絵がないのか?」
エーディエグレスの森にしか咲いてないの。だから、誰も見たことがないんだ」
「なんだって、どうしてそんな花……。あれ、なんで俺、花だって」

 疑問に思いつつ、しかし立ち止まっている暇はない。アルブレヒトはティトーを気にしつつ、周辺を探し回ったが、花一つ咲いてはいない。

「ティトー、ないぞ」
「そんな筈ないんだ、ここに、

 ティトーの表情は青ざめると、煌めきを増すように涙を溜めていく。

「群生地が変わっちゃったの? そんなこと」
「そうか、大地のエーテルだ」
「大地のエーテル?」
「各地で農作物が不作だったって話したろ。ルゼリアとの国境の再会の町でも、まだまだ不作だったんだ。だから、復興事業が続いていただろう」
「ああ! そんなあ……おにいちゃん…………」

 ティトーは足に力が入らなくなったのか、そのまま崩れ落ちてしまった。距離が離れていたため、アルブレヒトが慌てて駆け寄る。見ればティトーは切り傷だらけであり、足だけでなく腕までもがボロボロだ。

「ティトー……」
「やだ。やだよ、おにいちゃん…………」
「諦めるな」

 アルブレヒトはティトーの両肩を掴むと、その瞳に訴えかけた。

「ここは、フェルド平原より近い。もし、光の影響を受けたのなら、もっと奥へ群生地を移動させた可能性だってある。植物は俺たちよりずっと賢いだろ」
「アル…………。うん、そうだね。もっと奥に行ってみよう!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

処理中です...