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第六環「予兆、約束の果てに」
⑥-8 時計の町②
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「アンリ!」
「アンリ様!」
アルブレヒトと神官アレクの声に、別室にいたマリアが慌てて部屋へ戻ってきた。すぐに事態を把握し、神官へ指示を出す。
「お願い、聖女アレクサンドラを呼んで! これは危険だわ。一刻を争う」
「あ、はい! すぐに!」
神官アレクは血相を変えてマリアの指示に従った。アレクは若い者の、それなりに地位は高くない為に柔軟な対応が出来たのであろう。すぐに家から飛び出すと、聖女の宿泊する施設へ向かった。
「レオ、レオ! しっかりするんだ!」
アルブレヒトの呼びかけに空しく、レオポルトは真っ青な表情のまま、吐血を繰り返した。そして、髪変化の魔法が弱まり、レオポルトの白髪が露わとなっていく。事態の重さに、ティトーは絶句して座り込んだ。
「ティトー! 部屋からタオル! アルは水を持ってきて、桶に!」
「わかった!」
「はい!」
ティトーは涙を浮かべながら、必死で立ち上がると、隣の部屋からタオルをかき集めた。そんなティトーに、アルブレヒトは既に嫌な予感を感じていた。
「あんた、それ」
「…………」
マリアの呼びかけに、レオポルトはある程度再び吐血すると、唇を真っ青したまま自虐的に嗤った。マリアはか細い腕を掴むと、脈拍を測った。
「聖女の力など効きやしない」
「効く効かないじゃないわ。まずは体の免疫を上げなきゃ、あなたは…………。気をしっかり持って」
「おねえちゃんタオル!」
隣の部屋から、ティトーが持てるだけのタオルを運んできた。同時にアルブレヒトが桶を運んでくる。すぐにアルブレヒトはタオルを水で浸して絞ると、マリアへ手渡した。
レオポルトの蒼白した肌を拭いていくが、すぐに吐血によって鮮血に染まった。体を支えているマリアの服もまた、鮮血で染められていく。
「お前、いつからなんだ、それ!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、やめて」
「だから、黙っていたんだ」
「なんだと⁉」
「やめなさいよ! レオもしゃべらないで!」
マリアの剣幕に圧されることもなく、アルブレヒトはレオポルトに詰め寄った。滅多に焦らない男が、冷や汗を浮かべている。
「大戦前からか」
「ッ………………」
「嘘だろ、お前……。そんな体で戦に」
玄関が開き、サーシャが駆け込んできた。アレクではなく、ナターシャという女神官が付き添っている。部屋の流血に驚きつつ、服が汚れるのも構わずにサーシャが屈みながら法術を無言で展開する。
「どう云う事でしょうか、これは」
「………………白鷺病」
マリアは歯を食いしばりながら、吐き捨てるように呟いた。その言葉に、アルブレヒトとサーシャ、そしてナターシャは絶句する。
「しら、さぎ、びょう?」
ティトーが頬を濡らしながら、ポツリとつぶやいた。
「彼らの、ラダ族に特に多い病なの。白鷺病と言って、景国によくいる白鷺のようにか細く、そして髪は白く、そして青白い肌の人に多いから、そう呼ばれているの」
マリアはそう言いながら、サーシャの法術に水属性の魔法陣を展開した。
「とにかく、出血が多いから、しばらくは安静にしていて」
「そういう訳に、は」
「馬鹿なことをいうな! お前、これだけ吐いて何を」
「アルも黙って!」
マリアはレオポルトのか細い腕を掴むと、目を閉じた。脈拍を測りだしたのだ。レオポルトは青ざめ、か細い呼吸をしたまま、マリアを見つめている。
「アンリ様!」
アルブレヒトと神官アレクの声に、別室にいたマリアが慌てて部屋へ戻ってきた。すぐに事態を把握し、神官へ指示を出す。
「お願い、聖女アレクサンドラを呼んで! これは危険だわ。一刻を争う」
「あ、はい! すぐに!」
神官アレクは血相を変えてマリアの指示に従った。アレクは若い者の、それなりに地位は高くない為に柔軟な対応が出来たのであろう。すぐに家から飛び出すと、聖女の宿泊する施設へ向かった。
「レオ、レオ! しっかりするんだ!」
アルブレヒトの呼びかけに空しく、レオポルトは真っ青な表情のまま、吐血を繰り返した。そして、髪変化の魔法が弱まり、レオポルトの白髪が露わとなっていく。事態の重さに、ティトーは絶句して座り込んだ。
「ティトー! 部屋からタオル! アルは水を持ってきて、桶に!」
「わかった!」
「はい!」
ティトーは涙を浮かべながら、必死で立ち上がると、隣の部屋からタオルをかき集めた。そんなティトーに、アルブレヒトは既に嫌な予感を感じていた。
「あんた、それ」
「…………」
マリアの呼びかけに、レオポルトはある程度再び吐血すると、唇を真っ青したまま自虐的に嗤った。マリアはか細い腕を掴むと、脈拍を測った。
「聖女の力など効きやしない」
「効く効かないじゃないわ。まずは体の免疫を上げなきゃ、あなたは…………。気をしっかり持って」
「おねえちゃんタオル!」
隣の部屋から、ティトーが持てるだけのタオルを運んできた。同時にアルブレヒトが桶を運んでくる。すぐにアルブレヒトはタオルを水で浸して絞ると、マリアへ手渡した。
レオポルトの蒼白した肌を拭いていくが、すぐに吐血によって鮮血に染まった。体を支えているマリアの服もまた、鮮血で染められていく。
「お前、いつからなんだ、それ!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、やめて」
「だから、黙っていたんだ」
「なんだと⁉」
「やめなさいよ! レオもしゃべらないで!」
マリアの剣幕に圧されることもなく、アルブレヒトはレオポルトに詰め寄った。滅多に焦らない男が、冷や汗を浮かべている。
「大戦前からか」
「ッ………………」
「嘘だろ、お前……。そんな体で戦に」
玄関が開き、サーシャが駆け込んできた。アレクではなく、ナターシャという女神官が付き添っている。部屋の流血に驚きつつ、服が汚れるのも構わずにサーシャが屈みながら法術を無言で展開する。
「どう云う事でしょうか、これは」
「………………白鷺病」
マリアは歯を食いしばりながら、吐き捨てるように呟いた。その言葉に、アルブレヒトとサーシャ、そしてナターシャは絶句する。
「しら、さぎ、びょう?」
ティトーが頬を濡らしながら、ポツリとつぶやいた。
「彼らの、ラダ族に特に多い病なの。白鷺病と言って、景国によくいる白鷺のようにか細く、そして髪は白く、そして青白い肌の人に多いから、そう呼ばれているの」
マリアはそう言いながら、サーシャの法術に水属性の魔法陣を展開した。
「とにかく、出血が多いから、しばらくは安静にしていて」
「そういう訳に、は」
「馬鹿なことをいうな! お前、これだけ吐いて何を」
「アルも黙って!」
マリアはレオポルトのか細い腕を掴むと、目を閉じた。脈拍を測りだしたのだ。レオポルトは青ざめ、か細い呼吸をしたまま、マリアを見つめている。
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