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第六環「予兆、約束の果てに」
⑥-4 聖女として④
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「サーシャは、その、野宿とかは平気なの?」
アルブレヒトとレオポルトがテントを立てる夕暮れ時、マリアは聖女サーシャへ声をかけた。疲れた様子もなく、楽しそうにテントを見つめている。
「はい! キャンプなんて、ワクワクしますわ」
「なんか私サーシャとは仲良くできそう」
マリアは手を合わせると、サーシャと同じように天へ祈りを捧げるポーズをとった。サーシャは笑顔を咲かせると、マリアへ腰を低く上目遣いした。
「まあ! マリア! 私、同年代の友達って一人しかいませんの」
「それを言ったら、私なんてアルくらいよ……」
「まあ! 何を言うのですか。同年代の友達と言ったら、女性ですわ。殿方ではありませんわよ」
「ええ! じゃあ、私って0人……?」
「わたくしが居ますわ、マリア……!」
「やだ、サーシャったら!」
「おーい、そろそろ二人の世界から戻ってきて、マリアは火を起しを手伝ってくれ」
サーシャはアルブレヒトとレオポルトが釣ってきた魚を、あろうことか綺麗にさばくと内臓を取り出した。そのまま、枝を貫通させると、マリアの興したたき火へ立てた。
「サーシャって、料理も出来るのね」
「料理というか、下ごしらえですわ。包丁は危ないから持たせてもらえないけれど、動物の命を大事にしたいから、教わったのです」
サーシャは手を洗おうと川辺へ近づいたため、レオポルトが制止した。
「お前も、そのまま行ったら川に流される。少し待て、道具で水流を作る」
「まあ、お優しいのですわね、殿下」
「君まで……、殿下は止めてください。アレクサンドラ様」
「敬語を止めてくださったら、いいですわよ。レオポルト殿下?」
「クッ…………。だから、女は苦手なんだ」
「まあ。いい殺し文句ですこと」
レオポルトが言葉で負けていることに驚きつつも、隣でよだれを垂らしながら魚を見続けるティトーが、火にくべられない様にアルブレヒトがその小さな体を支えた。
「いくらマリアが火の熱さを軽減してるとはいえ、熱いだろ」
「熱いですけど、炎が綺麗なんです」
「あら、ティトー。私の炎を褒めてくれるの?」
「うん。僕、炎好きなの」
ティトーが早く食べたいという中、アルブレヒトが魚へ枝を指した。
「もういい頃合いだな。塩を足して食べよう」
「ねえ、マリア。私のお手製しょうゆおにぎりの表面だけをこんがりすることはできます?」
「出来るけれど、表面だけなのね?」
「はい!」
「サーシャ」
「はい!」
「俺がやる」
「ちょっとアル、なんでよ! 友情の力作を見なさいよ、ファイア!」
マリアが詠唱無しで魔法を放つと、おにぎりは上辺だけがこんがりと焼け、香ばしい香りが辺りに立ち込めた。
「フフン! 見なさい、私の炎のコントロールを」
「おお、マリア成長したじゃないか」
「焼きおにぎりか、懐かしいな」
「レオポルトさんも、ご存知の通り。こちらは焼きおにぎりですわ。こちらの味噌、をつけてご賞味あれ」
サーシャが胸を張った通り、香ばしい香りを裏切らない味と、程よい甘じょっぱさが口へ広がった。ティトーは目を輝かせると、夢中で頬張った。
「おい、魚も上手く冷めて来たぞ。ほら、おにぎりは俺が持つから」
名残惜しそうにおにぎりをアルブレヒトへ持たせると、ティトーは魚へ齧り付いた。余りの美味しさだろうか、瞳がキラキラと輝き、炎が反射して金色に輝いている。
「おさかなさんありがとうございます! いただきます! おさかなむしゃああああ」
「ティトー、ほら骨があるから気をつけなさい」
レオポルトとアルブレヒトが両隣でティトーを手厚く見守りながら、マリアとサーシャが友情トークを楽しみながら、夜は更けていった。
月の大きな幻影はいつもと変わらず、大地を睨み続けていた。
アルブレヒトとレオポルトがテントを立てる夕暮れ時、マリアは聖女サーシャへ声をかけた。疲れた様子もなく、楽しそうにテントを見つめている。
「はい! キャンプなんて、ワクワクしますわ」
「なんか私サーシャとは仲良くできそう」
マリアは手を合わせると、サーシャと同じように天へ祈りを捧げるポーズをとった。サーシャは笑顔を咲かせると、マリアへ腰を低く上目遣いした。
「まあ! マリア! 私、同年代の友達って一人しかいませんの」
「それを言ったら、私なんてアルくらいよ……」
「まあ! 何を言うのですか。同年代の友達と言ったら、女性ですわ。殿方ではありませんわよ」
「ええ! じゃあ、私って0人……?」
「わたくしが居ますわ、マリア……!」
「やだ、サーシャったら!」
「おーい、そろそろ二人の世界から戻ってきて、マリアは火を起しを手伝ってくれ」
サーシャはアルブレヒトとレオポルトが釣ってきた魚を、あろうことか綺麗にさばくと内臓を取り出した。そのまま、枝を貫通させると、マリアの興したたき火へ立てた。
「サーシャって、料理も出来るのね」
「料理というか、下ごしらえですわ。包丁は危ないから持たせてもらえないけれど、動物の命を大事にしたいから、教わったのです」
サーシャは手を洗おうと川辺へ近づいたため、レオポルトが制止した。
「お前も、そのまま行ったら川に流される。少し待て、道具で水流を作る」
「まあ、お優しいのですわね、殿下」
「君まで……、殿下は止めてください。アレクサンドラ様」
「敬語を止めてくださったら、いいですわよ。レオポルト殿下?」
「クッ…………。だから、女は苦手なんだ」
「まあ。いい殺し文句ですこと」
レオポルトが言葉で負けていることに驚きつつも、隣でよだれを垂らしながら魚を見続けるティトーが、火にくべられない様にアルブレヒトがその小さな体を支えた。
「いくらマリアが火の熱さを軽減してるとはいえ、熱いだろ」
「熱いですけど、炎が綺麗なんです」
「あら、ティトー。私の炎を褒めてくれるの?」
「うん。僕、炎好きなの」
ティトーが早く食べたいという中、アルブレヒトが魚へ枝を指した。
「もういい頃合いだな。塩を足して食べよう」
「ねえ、マリア。私のお手製しょうゆおにぎりの表面だけをこんがりすることはできます?」
「出来るけれど、表面だけなのね?」
「はい!」
「サーシャ」
「はい!」
「俺がやる」
「ちょっとアル、なんでよ! 友情の力作を見なさいよ、ファイア!」
マリアが詠唱無しで魔法を放つと、おにぎりは上辺だけがこんがりと焼け、香ばしい香りが辺りに立ち込めた。
「フフン! 見なさい、私の炎のコントロールを」
「おお、マリア成長したじゃないか」
「焼きおにぎりか、懐かしいな」
「レオポルトさんも、ご存知の通り。こちらは焼きおにぎりですわ。こちらの味噌、をつけてご賞味あれ」
サーシャが胸を張った通り、香ばしい香りを裏切らない味と、程よい甘じょっぱさが口へ広がった。ティトーは目を輝かせると、夢中で頬張った。
「おい、魚も上手く冷めて来たぞ。ほら、おにぎりは俺が持つから」
名残惜しそうにおにぎりをアルブレヒトへ持たせると、ティトーは魚へ齧り付いた。余りの美味しさだろうか、瞳がキラキラと輝き、炎が反射して金色に輝いている。
「おさかなさんありがとうございます! いただきます! おさかなむしゃああああ」
「ティトー、ほら骨があるから気をつけなさい」
レオポルトとアルブレヒトが両隣でティトーを手厚く見守りながら、マリアとサーシャが友情トークを楽しみながら、夜は更けていった。
月の大きな幻影はいつもと変わらず、大地を睨み続けていた。
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