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第六環「予兆、約束の果てに」
⑥-1 聖女として①
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大陸の半分の北東地域を領土とする、ルゼリア王国。いつしか大陸にルゼリア大陸と名付けた大国は、北東に広がるアンセム国と戦争にあった。
大陸のほとんどをめぐる先の大戦が勃発し、三年を超えたあたりだった。ルゼリア王国とアンセム国、その二か国に近い平地には、ルゼリア王国の属国で獣人族たちのフェルド共和国がある。
フェルド共和国内、フェルド平原を天空から注がれた光が焼き、獣人族たちにとっての聖地、フェルド平原を焦土に変えてしまったのだ。
その衝撃によって、大戦は終結を迎えた。
戦争は終わった。
しかし、大国ルゼリアは毅然とした情報統制を行っており、謎ばかりが走り出す。
そんなルゼリア王国でほぼ100%の領民が支持する宗派、ニミアゼル教会の聖女は、教会での淑やかな姿とは真逆で、はしゃいでいた。
「まあまあまあ! さすが巫女様候補ですわ!」
「サーシャおねえちゃん、あぶないよ!」
「サーシャ、出すぎだ!」
僅か六歳の少年に諭され、長身男にその聖女・サーシャは庇われた。現在は戦闘中なのだ。
「後方支援のみと言うのは、私初めてでございます!」
サーシャは魔物を浄化し、消滅させずに居られると知るや否や、後方支援と言われながら、敵の真ん前まで歩み出ると、その魔物を見つめるのだ。ぼんやりとしか見えず、その魔物は禍々しいモヤを放っている。
「ラダ族というのは、やはり素晴らしい民族なのですね。私、コアなんて見えませんわ。黒いモヤにしか見えませんもの。聖女と言われても、目は節穴だったようですね!」
「おい、アル」
偽名も忘れ、薄い茶髪の青年はたまらずに長身男へ声をかけた。アルと呼ばれた長身男、アルブレヒトは青年に対し、呆れたように呟いた。
「言いたいことはわかる。堪えてくれ。腐っても聖女様だぞ」
「あら、アルブレヒトお兄様、腐ってなんておりませんわ。私、普通にノーマルですわよ」
「何の話をしてるんだ、サーシャ! ほら、危ないだろう! ちょっとは淑やかになったんじゃないのかよ」
「あら。身内も同然のパーティで、私がしおらしくする必要、ございまして?」
サーシャはショートカットの金髪を靡かせながら、魔物を背に、腰へ手を当てて微笑んだ。言っておくが、戦闘中である。
「サーシャさん、身内って言うけれど、殆ど初対面じゃない?」
呆れたように長髪の赤毛を靡かせ、マリアが目くらましに爆炎魔法を放った。息切れもせず、次々爆散させるマリアに、聖女サーシャは目を丸くした。
「マリアさんも、素晴らしい魔力ですわ。常人でしたら、すでに枯渇しているでしょうに」
「私、火属性だけは枯渇したことがないのよね」
「…………おい、マリア」
薄い茶髪の青年は眼帯を外すと、剣へ手をかざした。一気に爆炎が切り裂かれ、魔物が露わとなった。間髪入れずに、少年ティトーがコアを確認する。
「お前、戦時中フェルド平原の北側に居ただろう」
「何の事かしら、疾風のラダ族がレオポルト?」
「散々、連続で繰り広げられる爆炎攻撃には苦労させられたが、お前だったとは」
レオポルトと呼ばれた青年は、その深淵の瞳で魔物を睨みつけたままだ。ついに魔物は怯み、そのまま後退する。
大陸のほとんどをめぐる先の大戦が勃発し、三年を超えたあたりだった。ルゼリア王国とアンセム国、その二か国に近い平地には、ルゼリア王国の属国で獣人族たちのフェルド共和国がある。
フェルド共和国内、フェルド平原を天空から注がれた光が焼き、獣人族たちにとっての聖地、フェルド平原を焦土に変えてしまったのだ。
その衝撃によって、大戦は終結を迎えた。
戦争は終わった。
しかし、大国ルゼリアは毅然とした情報統制を行っており、謎ばかりが走り出す。
そんなルゼリア王国でほぼ100%の領民が支持する宗派、ニミアゼル教会の聖女は、教会での淑やかな姿とは真逆で、はしゃいでいた。
「まあまあまあ! さすが巫女様候補ですわ!」
「サーシャおねえちゃん、あぶないよ!」
「サーシャ、出すぎだ!」
僅か六歳の少年に諭され、長身男にその聖女・サーシャは庇われた。現在は戦闘中なのだ。
「後方支援のみと言うのは、私初めてでございます!」
サーシャは魔物を浄化し、消滅させずに居られると知るや否や、後方支援と言われながら、敵の真ん前まで歩み出ると、その魔物を見つめるのだ。ぼんやりとしか見えず、その魔物は禍々しいモヤを放っている。
「ラダ族というのは、やはり素晴らしい民族なのですね。私、コアなんて見えませんわ。黒いモヤにしか見えませんもの。聖女と言われても、目は節穴だったようですね!」
「おい、アル」
偽名も忘れ、薄い茶髪の青年はたまらずに長身男へ声をかけた。アルと呼ばれた長身男、アルブレヒトは青年に対し、呆れたように呟いた。
「言いたいことはわかる。堪えてくれ。腐っても聖女様だぞ」
「あら、アルブレヒトお兄様、腐ってなんておりませんわ。私、普通にノーマルですわよ」
「何の話をしてるんだ、サーシャ! ほら、危ないだろう! ちょっとは淑やかになったんじゃないのかよ」
「あら。身内も同然のパーティで、私がしおらしくする必要、ございまして?」
サーシャはショートカットの金髪を靡かせながら、魔物を背に、腰へ手を当てて微笑んだ。言っておくが、戦闘中である。
「サーシャさん、身内って言うけれど、殆ど初対面じゃない?」
呆れたように長髪の赤毛を靡かせ、マリアが目くらましに爆炎魔法を放った。息切れもせず、次々爆散させるマリアに、聖女サーシャは目を丸くした。
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「私、火属性だけは枯渇したことがないのよね」
「…………おい、マリア」
薄い茶髪の青年は眼帯を外すと、剣へ手をかざした。一気に爆炎が切り裂かれ、魔物が露わとなった。間髪入れずに、少年ティトーがコアを確認する。
「お前、戦時中フェルド平原の北側に居ただろう」
「何の事かしら、疾風のラダ族がレオポルト?」
「散々、連続で繰り広げられる爆炎攻撃には苦労させられたが、お前だったとは」
レオポルトと呼ばれた青年は、その深淵の瞳で魔物を睨みつけたままだ。ついに魔物は怯み、そのまま後退する。
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