【完結】暁の草原(改稿作業中)

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
86 / 228
暁の草原 番外編1

〇番外編1-8 まるで、御伽噺のように②

しおりを挟む
「本当に、連れて行っていただけるのですか」

 新年が明けて春になった頃、マリアは半信半疑で船に乗り込むと、自分のものではなかった荷物を積み込む作業を見つめていた。到着するころには、マリアは13歳の誕生日を迎える。

「約束は違えないさ。俺は君を助けたいだけじゃない」

 アルブレヒトはそういいながら、上着をマリアに羽織らせた。風は春とはいえ、強く、そして寒さが身に染みる。それでも、マリアにとって暖かく、居心地のいい船上は快適に過ごせている。

「アンセムは北国だから、すごく寒いと思うが、まだ薄着だな」
「私、雪なんて見たことがなくて。そんなに寒いのですか」
「そりゃ、寒いよ。それより、その敬語は辞めてほしいな」
「腐っても王子なんでしょう。私はあんまり」

 そういいながら、マリアは右手で左腕を掴むと、様々な感情を噛み殺した。

「寒いのだけは、我慢ならないぞ」
「暑いのだって同じだわ」

 アルブレヒトは言い返されたのを嬉しそうに笑うと、マリアは恥ずかしそうに口に手を当てた。
 船が出向しても、港に家族が現れることはなく、王族関係者が首を垂れているだけであった。その光景を眺めながら、マリアはポツリとつぶやいた。

「どうして、私が虐待されてるってわかったのですか」
「なんとなくかな」
「そんな曖昧なことで……。大丈夫なんですか。それになんてして」
「俺はいいよ。政略的な事はよくあるからな。君こそいいのか」
「私、恋愛なんてまだ興味ないし。助けてくれる人なんて、現れるわけがないって、ずっと思っていたもの」

「それに、私は汚いから」
「だったら、綺麗になれるように努力したらいい」

 アルブレヒトはそういうと、手をマリアへ差し伸べ、寒いから甲板ではなく客室へとマリアを促した。春の海であるため、それなりに波は高い。

「そういう時は、汚くなんてない、っていうものじゃないの」

 差し伸べられた手を掴むことなく、マリアは甲板を後にしようとした。大きく船が揺らぐ。

「君は自信がないんだろう。だったら、自信が持てるまで色々勉強したらいい。俺の母だったり、先生だったり。先生より、母のほうが厳しいかもしれない」
「出来るのかな、私。それに、長子で王子なら将来、妃ってことで…………キャッ」

 マリアがよろけた所を、アルブレヒトが支えるように手をかけた。マリアもとっさにその手を掴んだものの、すぐに赤面して離してしまった。

「嫌なら、別に断ったっていいんだ。そう言っただろう。俺にそういう気はないから、アンセム国に着いたら好きに仕事をしたらいい」
「仕事ってあのね。それだと、私がアンセム国で行き場を失うじゃない。ひどいわ」
「そんなことにはならない。まずは、妹の友人になって欲しいんだと言ったじゃないか」
「そうだけど」

 マリアは自身の太ましい妹を思い浮かべた。あまりもう、思い出したくはない。

「まだ9歳なんだ」
「そう、私の妹と同じだったのね。……仲良くしたいな、私友達いなかったから」
「友達になればいいさ。願っていなければ、成るものも成らぬという」


 マリアはアルブレヒトの妹と姉妹になってしまい、お姉さまと呼ばれる日々になってしまったため、友人になることは叶わなくなった。それでも、良い義両親とともに、マリアはアンセム国で生きていくのだ。その話はまた後日。

 ―暁の草原 番外編1、完―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...