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暁の草原 番外編1
〇番外編1-2 マルティーニという家②
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「大変! あなた!」
ボロボロの衣服を身にまとい、食事の支度をしていると母親であるキコナが騒がしく洋館を走り出す。埃が舞えば、マリアの責任になるのだ。食事前のこの時間帯に掃除となれば、それなりの報復を受ける。
「どうしだ、キコナ。王からの勅命だぞ」
「でも、この子を連れて行くなんて」
母親はマリアに目配せすると、すぐに汚らしいと言わんばかりの表情を浮かべた。父親も同様に苦虫を嚙み潰したように新聞を睨みつける。
「そうだ、マーシャを連れて行きましょう。きっと殿下の心も晴れるわ。だってマーシャは可愛らしくて愛らしくて、女の子ですもの」
「そうだな。マリアを従者として連れて行かせよう」
よく判らない両親の言葉に、マリアは淡々と食事をテーブルに並べていく。3人分の食事を並べたところで、マーシャが大きな図体を揺らしながら現れた。
「呼びました?」
「おお、マーシャ。聞いてくれ」
「さあ、かけて頂戴。マリアはその辺にいて」
「………………」
立ち尽くしたマリアを尻目に、にやにやと笑みを浮かべながらマーシャが席に着いた。椅子がギシリと悲鳴を上げる。
「この度、王命でパーティーが開かれることになった」
「まあ、ドレスを新しくしてくれるなら行ってあげてもいいわよ」
マーシャはそういいながら、肉にかぶりついた。マナーの悪さなど、マーシャだけ特例で許される。
「王命ということは、貴賓が来られるの?」
「そうだ。賢いな、マーシャは」
「アンセム国の王子よ!」
「まあ素敵! アルブレヒト様ね」
アンセム国とは、ルゼリア大陸の北方地域に存在する国であり、帝国から王政に切り替わったばかりの若い国だ。情勢は安定しており、木材の輸入を仲裁しているのはマルティーニ家だ。マルティーニ家は商売を長年してきた貴族であり、その信用はルゼリア大陸へも轟いているという。
「そう、そのアルブレヒト様が来られるっていうのでな。そのパーティーの招待状が来たんだが」
「あろうことか、長女のマリアが名指しなのよ」
「まあ。かわいそうなお姉さま。ドレスなんてないでしょうに」
肉を頬張ったマーシャは、すぐにスープで飲み込み、また肉へ食らいついた。
「そこで、従者としてマリアをパーティーへ行かせるから、マーシャが参列してやってくれ」
「仕方ないですわね。いいですわよ。新しいドレス、早く作ってよね」
「マリア、そういうことだ。ドレスはお古やお下がりを着なさい」
「マーシャのドレスなんですから、大切に着るんですよ」
「はあ。汚らしいお姉さまに着せてあげるなんて、仕方ないですわね」
「マーシャはなんて慈悲深いんだ」
肉の油で頬までギラつかせながら、マーシャは漫勉の笑みを浮かべていた。
そう、これがマルティーニという家である。
ボロボロの衣服を身にまとい、食事の支度をしていると母親であるキコナが騒がしく洋館を走り出す。埃が舞えば、マリアの責任になるのだ。食事前のこの時間帯に掃除となれば、それなりの報復を受ける。
「どうしだ、キコナ。王からの勅命だぞ」
「でも、この子を連れて行くなんて」
母親はマリアに目配せすると、すぐに汚らしいと言わんばかりの表情を浮かべた。父親も同様に苦虫を嚙み潰したように新聞を睨みつける。
「そうだ、マーシャを連れて行きましょう。きっと殿下の心も晴れるわ。だってマーシャは可愛らしくて愛らしくて、女の子ですもの」
「そうだな。マリアを従者として連れて行かせよう」
よく判らない両親の言葉に、マリアは淡々と食事をテーブルに並べていく。3人分の食事を並べたところで、マーシャが大きな図体を揺らしながら現れた。
「呼びました?」
「おお、マーシャ。聞いてくれ」
「さあ、かけて頂戴。マリアはその辺にいて」
「………………」
立ち尽くしたマリアを尻目に、にやにやと笑みを浮かべながらマーシャが席に着いた。椅子がギシリと悲鳴を上げる。
「この度、王命でパーティーが開かれることになった」
「まあ、ドレスを新しくしてくれるなら行ってあげてもいいわよ」
マーシャはそういいながら、肉にかぶりついた。マナーの悪さなど、マーシャだけ特例で許される。
「王命ということは、貴賓が来られるの?」
「そうだ。賢いな、マーシャは」
「アンセム国の王子よ!」
「まあ素敵! アルブレヒト様ね」
アンセム国とは、ルゼリア大陸の北方地域に存在する国であり、帝国から王政に切り替わったばかりの若い国だ。情勢は安定しており、木材の輸入を仲裁しているのはマルティーニ家だ。マルティーニ家は商売を長年してきた貴族であり、その信用はルゼリア大陸へも轟いているという。
「そう、そのアルブレヒト様が来られるっていうのでな。そのパーティーの招待状が来たんだが」
「あろうことか、長女のマリアが名指しなのよ」
「まあ。かわいそうなお姉さま。ドレスなんてないでしょうに」
肉を頬張ったマーシャは、すぐにスープで飲み込み、また肉へ食らいついた。
「そこで、従者としてマリアをパーティーへ行かせるから、マーシャが参列してやってくれ」
「仕方ないですわね。いいですわよ。新しいドレス、早く作ってよね」
「マリア、そういうことだ。ドレスはお古やお下がりを着なさい」
「マーシャのドレスなんですから、大切に着るんですよ」
「はあ。汚らしいお姉さまに着せてあげるなんて、仕方ないですわね」
「マーシャはなんて慈悲深いんだ」
肉の油で頬までギラつかせながら、マーシャは漫勉の笑みを浮かべていた。
そう、これがマルティーニという家である。
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