【完結】暁の草原(改稿作業中)

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
76 / 228
第五環「黄昏は、ハープを奏でて」

⑤-14 暁のしらべ②

しおりを挟む
 その夜――。

「てぃ、ティトーはお兄様と同じ部屋じゃなくていいの?」
「やだあ~! ぼく、お姉さんと一緒のお部屋がいい~!」

 部屋割りでティトーが一人ワガママを全開にしていた。レオポルトも部屋はティトーと同じだと思っていた半面、隣で男女が同室というのも刺激が強かった様子で悶絶していた。

「そうだな、うん。マリア嬢、すみませんが」
「そのマリア嬢ってやめてくれない。くすぐったいの。マリアでいいわ。私も呼び捨てだし」
「そうか。マリア、ティトーと寝てやって欲しい」
「いいわよ。じゃあ、ティトーお風呂行ってきましょ! もうべたべたなの」

 マリアは長い髪をサイドで結ぶと、べたつきを気にするように髪に触れた。ティトーは嬉しそうにマリアの手を引っ張ると、風呂へ向かった。

「何お前、マリアと同室が良かった?」
「アル、君は元奥さんを侮辱するのか」
「元じゃないから! まだ未婚だから!」
「どうだか。同室だったほうが良かったのは、君の方だろう」

 レオポルトはベッドへ横になりながら、いつの間にかティトー用に購入していた絵本「狐の涙」を読んでいる。

「だから、そういうのはないんだ」
「まんざらでもないじゃないか。鼻の下が伸びて居る」
「何かお前、突っかかりすぎだろ」
「はあ」

 レオポルトは本を閉じると、アルブレヒトへ人差し指を向けた。

「君は鈍感すぎる! 何でそう鈍いんだ!」
「いや、本当に何もないんだって。マリアだって、俺の事なんて何とも思って」
「彼女が俺に斬りかかったのは、今朝だ。いいか、色々あったがあれは今日の事だ」
「…………」

 レオポルトは呆れたと長い溜息を吐くと。アルブレヒトを責め立てるように顔の前まで人差し指で指した。

「彼女は、ずっと君が死んだと思って探していたんだ。俺の事も、調べ上げただろう。君と俺の仲だって、知らない訳じゃないのだろう。そんな彼女が、思いつめて俺に斬りかかって暗殺しようとしていたんだ。それだけ、傷ついているんだ、マリアは」

 レオポルトはアルブレヒトから離れると、再びベッドに座り込んで本を広げた。

「寂しかっただろうさ。やっと得た祖国を失って、君も失ったと思って」
「………………」
「愛が無いとして、彼女は家族を失ったと思ったに違いない。二度目の」
「無駄に、お前にマリアの話をし過ぎたな」
「何を言う、今更だろう」
「なあ、レオ」
「なんだ」




「お前、マリアを娶る気はあるか」




 宿屋を、鐘の町メサイアを、鈍い音が轟く――――――――!!

 次回のアルブレヒトさんの冒険にご期待ください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...