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第五環「黄昏は、ハープを奏でて」
⑤-4 邂逅④
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「マリアさん」
「なあに? ティトーくん」
「マリアさんには、旦那様がいるの?」
「あっ! 忘れてた」
マリアは再び腰に手を当てると、赤毛を揺らしながらアルブレヒトへ、再び何度目かの迫りを見せた。
「アンタ、結局誤魔化してるんじゃない! どうやって無事だったのよ!」
「そうだった、すまない」
「無事? 無事って、アルブレヒトさんどうしたの?」
「う……………………」
ティトーの声に、レオポルトは仕方なく助け舟を出すことにしたのだ。
「アル、二人で話すべきだ。まだ、ティトーには」
「え、何よ。逃げるの?」
「そうじゃない。君は、旧姓が答えにくいと言っていたな」
「…………」
「それくらい、察している。いいから、二人できちんと話すんだ。ティトーには、俺から説明を施す」
ティトーはアルブレヒトとマリアの顔を交互に見つめた。マリアはアルブレヒトを睨むものの、アルブレヒトの眼は泳いでいる。
「もしかして」
ティトーは空気を読まずに、思ったことをそのまま発言した。そう、子供に悪気はないのだ。
「モトカノ?」
首を傾げながら問う少年に対し、マリアは可愛いと思ってしまい出遅れてしまった。
「何処でそんな言葉覚えた! アル、君か?」
「いや、レオ。ややこしくするな、オイこら待て」
「待って、余計にややこしくなるわ! …………もう夫婦でも何でもないの。元妻よ」
マリアは投げやりに言うと、ティトーの目線までしゃがみこんだ。瞳は潤うと共に、滑らかに揺らいでいる。
「ティトーくん、少しアルと話をさせてもらっても、いいかな」
「……はい」
「うん。ありがとう」
目線を落としたマリアの瞳からは煌めく雫が落ちたものの、マリアは直ぐに振り切ると何食わぬ顔でアルブレヒトへ対峙しながらティトーへ説明した。
「死んだと思っていたのよ。アルがね。だから、びっくりしたの。ごめんね、ティトーくん」
「! い、いえ。こちらも、すみません……」
「じゃあ、ティトー。もう一部屋借りているから、俺たちはそこで話そう」
「うん」
二人の兄弟は手を繋ぐと、隣の部屋へ移った。扉が閉まる際、レオポルトは振り返ろうとしたが、マリアの安堵した表情に心を奪われそうになり、直ぐに視線を外した。
結界のおかげからか、閉まった扉の向こうの声や物音は一切聞こえない。
「兄さま」
「どうしたんだ」
「大戦で、何があったの」
「部屋に入るまで、待って欲しい」
「はい」
ティトーは周囲を気に掛けながら、そこで言い留まった。
「説明をするから、心配をするな」
「うん。知らなきゃ、いけないことですね」
◇
「部屋へ。結界を張る」
「お兄さまも、張れるんですか。凄いです」
「マリア嬢よりは頼りないが、聞こえる程度の様なヘマはしない。風魔法だからな、いずれティトーも使えるようになる」
「うん。勉強する」
扉を閉めると、レオポルトは窓の鍵を確認し、カーテンを閉めなおした。そして、短く詠唱したのちに結界を張ると、ティトーをベッドに座らせた。
「辛い話になるから、辛くなったらいつでも止める」
「うん。お願いします」
その日はティトーにとって、忘れられない日となる。そして、辛く重い決意を秘めることになるのだ。
「なあに? ティトーくん」
「マリアさんには、旦那様がいるの?」
「あっ! 忘れてた」
マリアは再び腰に手を当てると、赤毛を揺らしながらアルブレヒトへ、再び何度目かの迫りを見せた。
「アンタ、結局誤魔化してるんじゃない! どうやって無事だったのよ!」
「そうだった、すまない」
「無事? 無事って、アルブレヒトさんどうしたの?」
「う……………………」
ティトーの声に、レオポルトは仕方なく助け舟を出すことにしたのだ。
「アル、二人で話すべきだ。まだ、ティトーには」
「え、何よ。逃げるの?」
「そうじゃない。君は、旧姓が答えにくいと言っていたな」
「…………」
「それくらい、察している。いいから、二人できちんと話すんだ。ティトーには、俺から説明を施す」
ティトーはアルブレヒトとマリアの顔を交互に見つめた。マリアはアルブレヒトを睨むものの、アルブレヒトの眼は泳いでいる。
「もしかして」
ティトーは空気を読まずに、思ったことをそのまま発言した。そう、子供に悪気はないのだ。
「モトカノ?」
首を傾げながら問う少年に対し、マリアは可愛いと思ってしまい出遅れてしまった。
「何処でそんな言葉覚えた! アル、君か?」
「いや、レオ。ややこしくするな、オイこら待て」
「待って、余計にややこしくなるわ! …………もう夫婦でも何でもないの。元妻よ」
マリアは投げやりに言うと、ティトーの目線までしゃがみこんだ。瞳は潤うと共に、滑らかに揺らいでいる。
「ティトーくん、少しアルと話をさせてもらっても、いいかな」
「……はい」
「うん。ありがとう」
目線を落としたマリアの瞳からは煌めく雫が落ちたものの、マリアは直ぐに振り切ると何食わぬ顔でアルブレヒトへ対峙しながらティトーへ説明した。
「死んだと思っていたのよ。アルがね。だから、びっくりしたの。ごめんね、ティトーくん」
「! い、いえ。こちらも、すみません……」
「じゃあ、ティトー。もう一部屋借りているから、俺たちはそこで話そう」
「うん」
二人の兄弟は手を繋ぐと、隣の部屋へ移った。扉が閉まる際、レオポルトは振り返ろうとしたが、マリアの安堵した表情に心を奪われそうになり、直ぐに視線を外した。
結界のおかげからか、閉まった扉の向こうの声や物音は一切聞こえない。
「兄さま」
「どうしたんだ」
「大戦で、何があったの」
「部屋に入るまで、待って欲しい」
「はい」
ティトーは周囲を気に掛けながら、そこで言い留まった。
「説明をするから、心配をするな」
「うん。知らなきゃ、いけないことですね」
◇
「部屋へ。結界を張る」
「お兄さまも、張れるんですか。凄いです」
「マリア嬢よりは頼りないが、聞こえる程度の様なヘマはしない。風魔法だからな、いずれティトーも使えるようになる」
「うん。勉強する」
扉を閉めると、レオポルトは窓の鍵を確認し、カーテンを閉めなおした。そして、短く詠唱したのちに結界を張ると、ティトーをベッドに座らせた。
「辛い話になるから、辛くなったらいつでも止める」
「うん。お願いします」
その日はティトーにとって、忘れられない日となる。そして、辛く重い決意を秘めることになるのだ。
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