暁の草原

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
66 / 176
第五環「黄昏は、ハープを奏でて」

⑤-4 邂逅④

しおりを挟む
「マリアさん」
「なあに? ティトーくん」
「マリアさんには、旦那様がいるの?」
「あっ! 忘れてた」

 マリアは再び腰に手を当てると、赤毛を揺らしながらアルブレヒトへ、再び何度目かの迫りを見せた。

「アンタ、結局誤魔化してるんじゃない! どうやって無事だったのよ!」
「そうだった、すまない」
「無事? 無事って、アルブレヒトさんどうしたの?」
「う……………………」

 ティトーの声に、レオポルトは仕方なく助け舟を出すことにしたのだ。

「アル、二人で話すべきだ。まだ、ティトーには」
「え、何よ。逃げるの?」
「そうじゃない。君は、旧姓が答えにくいと言っていたな」
「…………」
「それくらい、察している。いいから、二人できちんと話すんだ。ティトーには、俺から説明を施す」

 ティトーはアルブレヒトとマリアの顔を交互に見つめた。マリアはアルブレヒトを睨むものの、アルブレヒトの眼は泳いでいる。

「もしかして」

 ティトーは空気を読まずに、思ったことをそのまま発言した。そう、子供に悪気はないのだ。

「モトカノ?」

 首を傾げながら問う少年に対し、マリアは可愛いと思ってしまい出遅れてしまった。

「何処でそんな言葉覚えた! アル、君か?」
「いや、レオ。ややこしくするな、オイこら待て」
「待って、余計にややこしくなるわ! …………もう夫婦でも何でもないの。元妻よ」

 マリアは投げやりに言うと、ティトーの目線までしゃがみこんだ。瞳は潤うと共に、滑らかに揺らいでいる。

「ティトーくん、少しアルと話をさせてもらっても、いいかな」
「……はい」
「うん。ありがとう」

 目線を落としたマリアの瞳からは煌めく雫が落ちたものの、マリアは直ぐに振り切ると何食わぬ顔でアルブレヒトへ対峙しながらティトーへ説明した。

「死んだと思っていたのよ。アルがね。だから、びっくりしたの。ごめんね、ティトーくん」
「! い、いえ。こちらも、すみません……」
「じゃあ、ティトー。もう一部屋借りているから、俺たちはそこで話そう」
「うん」

 二人の兄弟は手を繋ぐと、隣の部屋へ移った。扉が閉まる際、レオポルトは振り返ろうとしたが、マリアの安堵した表情に心を奪われそうになり、直ぐに視線を外した。
 結界のおかげからか、閉まった扉の向こうの声や物音は一切聞こえない。

「兄さま」
「どうしたんだ」
「大戦で、何があったの」
「部屋に入るまで、待って欲しい」
「はい」

 ティトーは周囲を気に掛けながら、そこで言い留まった。

「説明をするから、心配をするな」
「うん。知らなきゃ、いけないことですね」

 



「部屋へ。結界を張る」
「お兄さまも、張れるんですか。凄いです」
「マリア嬢よりは頼りないが、聞こえる程度の様なヘマはしない。風魔法だからな、いずれティトーも使えるようになる」
「うん。勉強する」

 扉を閉めると、レオポルトは窓の鍵を確認し、カーテンを閉めなおした。そして、短く詠唱したのちに結界を張ると、ティトーをベッドに座らせた。

「辛い話になるから、辛くなったらいつでも止める」
「うん。お願いします」


 その日はティトーにとって、忘れられない日となる。そして、辛く重い決意を秘めることになるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

ぼっち異世界生活が嫌なので、人型ゴーレムを作ったら過度に執着されて困っています!

寺原しんまる
恋愛
「魔力が無いのに「魔女」と名乗るルーチェとマスター命の人型ゴーレムのお話」 星花は中学の入学式に向かう途中で交通事故に遭う。車が身体に当たったはずが、無傷で富士山の樹海のような場所に横たわっていた。そこが異世界だと理解した星花は、ジオンという魔法使いに拾われてルーチェと名付けられる。ルーチェが18歳になった時にジオンが他界。一人が寂しく不安になり、ルーチェは禁断の魔術で人型ゴーレムを作成してしまう。初めは無垢な状態のゴーレムだったが、スポンジのように知識を吸収し、あっという間に成人男性と同じ一般的な知識を手に入れた。ゴーレムの燃料はマスターの体液。最初は血を与えていたが、ルーチェが貧血になった為に代わりにキスで体液を与え出す。キスだと燃料としては薄いので常にキスをしないといけない。もっと濃厚な燃料を望むゴーレムは、燃料の受け取り方を次第にエスカレートさせていき、ルーチェに対する異常な執着をみせるのだった。

悪役令嬢さん、さようなら〜断罪のその後は〜

たたた、たん。
恋愛
無実の罪で家を勘当された元貴族エルは、その国唯一の第一級冒険者ヴォルフの元へ向かい、パーティー加入を嘆願する。ソロで動いてきたヴォルフは、エルのパーティー加入を許すが、それにはある冷酷な条件が付いてきた。 暫くして、エルの付与魔法が強力なことを知ったヴォルフはエルの魔法に執着を抱くが、数年後にはエルへの執着が利用価値によるものから何か違うものへ変化していて。そんなある日、エルとヴォルフの前に冤罪の元凶であるリード王子がやってきた。

処理中です...