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第四環「フックスグロッケン」
④-16 とつぜんの朱うげき②
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アンリは周囲の男女を睨みつけると、その場から遠ざけていった。男女は不機嫌そうに立ち去るが、すぐにおびえたような表情を浮かべた。
最奥の花園までやってくると、漸く背後のローブの者へ声を掛けた。
「何者だ」
「……………………」
「答える気はないのだな」
ローブの者は何も答えず、黒いそのローブを脱ぐことなく、異質としてそこに居た。無言であったが、相手は懐から銀に輝くそれを抜き出した。それは、銀時計ではなく、短剣であった。
「名乗れないのか、それとも口がきけないのか」
アンリは腰の剣に触れることなく、ゆっくりと振り返った。目の前のローブの者は振り返ったことを知るや否や、ローブを下ろして素顔を晒した。
「………………」
アンリが息を飲むほど、炎のように赤い朱の髪を持ち、美しいその毛先に心を奪われたのだ。腰まであるかのような鮮やかな朱の髪を持つ、女性だ。
「私は、あんたが誰なのかは分かっているわ」
女は目を見開き、金色の瞳でアンリを睨みつけた。
「やっと見つけた……。私の、夫の敵……!! レオポルト・ラダ・フォン・ルージリア王子ぃ!」
女は高らかに宣言すると、その短剣を持ってアンリのレオポルトの懐へ間合いを一瞬で詰めた。レオポルトもそれを見越しており、すぐに跳躍でもってそれを回避する。
「どこで、俺だと分かった」
「そんな子供じみた変装で、わからないとでも思ってんの」
女は尚も笑いながら、短剣を手に歯向かってくる。
「ちょこまか逃げてんじゃないわよ! 迅速のラダ・レオポルトぉおおおぉおお!!!!!!」
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガキィイン!
鉄の削れる音と、火花が花園にさく裂した。剣を抜かずに、靴底に隠した刃でもって女の持った短剣を蹴り上げたのだ。
短剣は無残にも石畳に寝転がった。
「別にそんな短剣、どうってことないわ。カウンターに離れているの。お生憎様ね! 町ごと消し炭にしてやる……!!」
女が手を掲げ、炎の詠唱を始めた所で、先ほどの鉄音に導かれた雇われの男がようやく到着した。ローブで隠れていた鮮やかな赤毛が宙を舞う。
「そんなお前、マリア!」
「へえ、私の名前を知ってるんだ。へえ。やっぱり敵討ちって、名乗ってからが良かったかしら?」
ローブの女は振り返らず、レオポルトを見据えている。
殺意だ。
「落ち着け、マリア! 俺だ!」
グリットはマリアと呼びながら、ローブの女を羽交い絞めにした。
「クッ! 離しなさいよ! なんなのよ、消し炭にしてくれる!」
「マリア、俺だ! わからないのか!」
グリットは羽交い絞めにしながら、深く呼吸をすると、髪を女の朱色とはちがう赤茶毛に変化させると、瞳を赤く燃え上がらせた。
「う、そ……」
「マリア、良かった。正気に戻ったか」
「しょ、正気もなにもないわ! だって、私、あなたが……」
「訳は話す、頼む。殺意を止めてくれ。俺は無事なんだ!」
マリアと呼ばれた女が怯んだところで、物陰からティトーが走り出てきた。
「おにいちゃあああん!」
ティトーはレオポルトに胸に抱き着くと、そのまま泣き崩れた。
「ティトー! 俺も無事だ、大丈夫だ」
「やだあああ! おにいちゃんが、おにいちゃんがあああ」
ティトーの泣き崩れる様子を見て、マリアはついに殺意を失った。
「説明してもらうわよ、アルブレヒト殿下…………!」
彼女の金眼が月のように、光輝き、深淵の煌めきを見せた――――。
最奥の花園までやってくると、漸く背後のローブの者へ声を掛けた。
「何者だ」
「……………………」
「答える気はないのだな」
ローブの者は何も答えず、黒いそのローブを脱ぐことなく、異質としてそこに居た。無言であったが、相手は懐から銀に輝くそれを抜き出した。それは、銀時計ではなく、短剣であった。
「名乗れないのか、それとも口がきけないのか」
アンリは腰の剣に触れることなく、ゆっくりと振り返った。目の前のローブの者は振り返ったことを知るや否や、ローブを下ろして素顔を晒した。
「………………」
アンリが息を飲むほど、炎のように赤い朱の髪を持ち、美しいその毛先に心を奪われたのだ。腰まであるかのような鮮やかな朱の髪を持つ、女性だ。
「私は、あんたが誰なのかは分かっているわ」
女は目を見開き、金色の瞳でアンリを睨みつけた。
「やっと見つけた……。私の、夫の敵……!! レオポルト・ラダ・フォン・ルージリア王子ぃ!」
女は高らかに宣言すると、その短剣を持ってアンリのレオポルトの懐へ間合いを一瞬で詰めた。レオポルトもそれを見越しており、すぐに跳躍でもってそれを回避する。
「どこで、俺だと分かった」
「そんな子供じみた変装で、わからないとでも思ってんの」
女は尚も笑いながら、短剣を手に歯向かってくる。
「ちょこまか逃げてんじゃないわよ! 迅速のラダ・レオポルトぉおおおぉおお!!!!!!」
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガキィイン!
鉄の削れる音と、火花が花園にさく裂した。剣を抜かずに、靴底に隠した刃でもって女の持った短剣を蹴り上げたのだ。
短剣は無残にも石畳に寝転がった。
「別にそんな短剣、どうってことないわ。カウンターに離れているの。お生憎様ね! 町ごと消し炭にしてやる……!!」
女が手を掲げ、炎の詠唱を始めた所で、先ほどの鉄音に導かれた雇われの男がようやく到着した。ローブで隠れていた鮮やかな赤毛が宙を舞う。
「そんなお前、マリア!」
「へえ、私の名前を知ってるんだ。へえ。やっぱり敵討ちって、名乗ってからが良かったかしら?」
ローブの女は振り返らず、レオポルトを見据えている。
殺意だ。
「落ち着け、マリア! 俺だ!」
グリットはマリアと呼びながら、ローブの女を羽交い絞めにした。
「クッ! 離しなさいよ! なんなのよ、消し炭にしてくれる!」
「マリア、俺だ! わからないのか!」
グリットは羽交い絞めにしながら、深く呼吸をすると、髪を女の朱色とはちがう赤茶毛に変化させると、瞳を赤く燃え上がらせた。
「う、そ……」
「マリア、良かった。正気に戻ったか」
「しょ、正気もなにもないわ! だって、私、あなたが……」
「訳は話す、頼む。殺意を止めてくれ。俺は無事なんだ!」
マリアと呼ばれた女が怯んだところで、物陰からティトーが走り出てきた。
「おにいちゃあああん!」
ティトーはレオポルトに胸に抱き着くと、そのまま泣き崩れた。
「ティトー! 俺も無事だ、大丈夫だ」
「やだあああ! おにいちゃんが、おにいちゃんがあああ」
ティトーの泣き崩れる様子を見て、マリアはついに殺意を失った。
「説明してもらうわよ、アルブレヒト殿下…………!」
彼女の金眼が月のように、光輝き、深淵の煌めきを見せた――――。
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