60 / 228
第四環「フックスグロッケン」
④-15 とつぜんの朱うげき①
しおりを挟む
二度目のキャンプ後、炎の後始末を終えると、アンリは髪をティトーと同じ薄い栗色に代え、眼帯をし直した。これがなければ、町を出歩くことが出来ないのだという。
支度を終えると、一行は直ぐに旅立った。北東へ進むとあるのが、鐘の町であるという。小さな教会があり、ルゼリア領ではメサイアと呼ばれる町である。
町は至る所に花で彩られており、春のセシュールをまざまざと感じさせられる。外壁にはフレスコ画が描かれており、様々なセシュールの部族民の守護獣が描かれている。
「ふおぉおお! これは何ですか、なんですか! 鷲獅子だ!」
「よく見ろ。これはどうみても、獅子だろう。こっちはセシュールの部族民の守護猫だ」
アンリはフレスコ画を指さしながら、丁寧とは言えない説明をしていく。
「おおおお! お兄様、博識! でも僕、獅子は好きじゃない!」
「いや、流石に常識で、そんな珍しいものでは……」
「お兄様は褒められるのに弱くてな。なあ? 嬉しいよな」
「叩き切るぞ」
ティトーが駆けだそうとしたところで、アンリは慌ててティトーの腕を掴んだ。咄嗟に、服に仕舞われていたペンダントが宙を舞う。思い出したかのように、ティトーがリング触れようとすると、すぐにアンリに呼び止められた。
「ティトー! 迷子になるから、急に走るな!」
「ごめんなさい! でも、お守りがあるからダイジョブだよ!」
「お守り?」
ティトーはペンダントにしたリングを取り出すと、チラチラと兄へ見せた。
「あーあーあー! いいから、ティトーは俺と、買いものしよう! そうだ、買えなかった絵本を買おう。この町は大きな本屋があるぞ!」
「本!? わーい! ほーんー!」
グリットはティトーの手を掴むと、アンリに手を振りまくった。
「まったく。宿の予約は僕の仕事、か……。そうだな、あいつが部屋を借りられるわけがない。知り合いの宿屋でもないのだ」
アンリは一人、街路を渡っていった。午前中の日差しは暖かく、半袖でもいいほどの陽気だ。
中心にある鐘公園で人々の行き交いを眺めながら、髪を解くとそれを結びなおした。アンリはあまり暑さに強くないため、荷物からキャスケット帽被ると一息ついた。
「さて。宿屋に向かうわけなんだが、どうしたものか……」
アンリは手紙を認めると、そっと地面へ落した。小さな白い鼠がそれを捕まえると、街路へ運び出し、そのまま白鷺に渡した。
「これで彼奴は気付くだろうが、ティトーはどうするか」
アンリはそのまま、路地を裏手に、訳アリの者しか向かわない公園へ向かったのだった。
公園はつまり、隠れて逢うような者しか来ない、訳アリの公園だ。鐘の町とは即ち、教会と結婚を意味する町なのだ。
そんな町にあるいわくつきの公園の奥にある花園には、最近になって隠れて逢う男女だけが居た。当然だが、一人で歩く者ほど怪しい者はいない。
ピリピリとした威圧が、公園を、花園を包んでいく。
冷たい風が大地に堕ち、水が失われた。光などない世界に闇だけが横たわる。
そしてその闇は月へと葬られたのだ。仲間たちと共に――。
怒り狂った炎は、風でかき消されることもない。
炎々と天まで延びると、大地へ向かって矛先を向けたのだ。
もう、後には戻れない。
支度を終えると、一行は直ぐに旅立った。北東へ進むとあるのが、鐘の町であるという。小さな教会があり、ルゼリア領ではメサイアと呼ばれる町である。
町は至る所に花で彩られており、春のセシュールをまざまざと感じさせられる。外壁にはフレスコ画が描かれており、様々なセシュールの部族民の守護獣が描かれている。
「ふおぉおお! これは何ですか、なんですか! 鷲獅子だ!」
「よく見ろ。これはどうみても、獅子だろう。こっちはセシュールの部族民の守護猫だ」
アンリはフレスコ画を指さしながら、丁寧とは言えない説明をしていく。
「おおおお! お兄様、博識! でも僕、獅子は好きじゃない!」
「いや、流石に常識で、そんな珍しいものでは……」
「お兄様は褒められるのに弱くてな。なあ? 嬉しいよな」
「叩き切るぞ」
ティトーが駆けだそうとしたところで、アンリは慌ててティトーの腕を掴んだ。咄嗟に、服に仕舞われていたペンダントが宙を舞う。思い出したかのように、ティトーがリング触れようとすると、すぐにアンリに呼び止められた。
「ティトー! 迷子になるから、急に走るな!」
「ごめんなさい! でも、お守りがあるからダイジョブだよ!」
「お守り?」
ティトーはペンダントにしたリングを取り出すと、チラチラと兄へ見せた。
「あーあーあー! いいから、ティトーは俺と、買いものしよう! そうだ、買えなかった絵本を買おう。この町は大きな本屋があるぞ!」
「本!? わーい! ほーんー!」
グリットはティトーの手を掴むと、アンリに手を振りまくった。
「まったく。宿の予約は僕の仕事、か……。そうだな、あいつが部屋を借りられるわけがない。知り合いの宿屋でもないのだ」
アンリは一人、街路を渡っていった。午前中の日差しは暖かく、半袖でもいいほどの陽気だ。
中心にある鐘公園で人々の行き交いを眺めながら、髪を解くとそれを結びなおした。アンリはあまり暑さに強くないため、荷物からキャスケット帽被ると一息ついた。
「さて。宿屋に向かうわけなんだが、どうしたものか……」
アンリは手紙を認めると、そっと地面へ落した。小さな白い鼠がそれを捕まえると、街路へ運び出し、そのまま白鷺に渡した。
「これで彼奴は気付くだろうが、ティトーはどうするか」
アンリはそのまま、路地を裏手に、訳アリの者しか向かわない公園へ向かったのだった。
公園はつまり、隠れて逢うような者しか来ない、訳アリの公園だ。鐘の町とは即ち、教会と結婚を意味する町なのだ。
そんな町にあるいわくつきの公園の奥にある花園には、最近になって隠れて逢う男女だけが居た。当然だが、一人で歩く者ほど怪しい者はいない。
ピリピリとした威圧が、公園を、花園を包んでいく。
冷たい風が大地に堕ち、水が失われた。光などない世界に闇だけが横たわる。
そしてその闇は月へと葬られたのだ。仲間たちと共に――。
怒り狂った炎は、風でかき消されることもない。
炎々と天まで延びると、大地へ向かって矛先を向けたのだ。
もう、後には戻れない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

不幸体質の私、トリップ先は○○ですか?!強面男性と童顔女性の物語。
カヨワイさつき
恋愛
25歳の白井ゆり。母子家庭で育ち
小さい頃から"ユーレイ"と
あだ名をつけられていじめられていた。
彼氏が出来たと思ったら、罰ゲームで告白した
男性達にどのくらいで落ちるか、賭けをされ
遊ばれていただけだった。
ゆりは酷く振られたあと、
階段を踏み外し、気づいたら
強面の集団に囲まれていた。
トリップしてもやはり不幸体質なの?!
強面男性と童顔女性、
神と長官、2組の物語。

聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ
しゃーりん
恋愛
聖女が代替わりするとき、魔力の多い年頃の令嬢十人の中から一人選ばれる。
選ばれる基準は定かではなく、伝聞もない。
ひと月の間、毎日のように聖堂に通い、祈りを捧げたり、奉仕活動をしたり。
十人の中の一人に選ばれたラヴェンナは聖女になりたくなかった。
不真面目に見えるラヴェンナに腹を立てる聖女候補がいたり、聖女にならなければ婚約解消だと言われる聖女候補がいたり。
「聖女になりたいならどうぞ?」と言いたいけれど聖女を決めるのは聖女様。
そしていよいよ次期聖女が決まったが、ラヴェンナは自分ではなくてホッとする。
ラヴェンナは聖堂を去る前に、聖女様からこの国に聖女が誕生した秘話を聞かされるというお話です。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜
八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」
侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。
その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。
フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。
そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。
そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。
死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて……
※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる