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第四環「フックスグロッケン」
④-12 バルカローラ④
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「そうだよね。びっくりしただけだよね」
アンリは未だに熊から目線を外さず、熊を睨み続けている。
ティトーの金色の瞳を見ているのは、熊と、そしてグリットだけだ。
「退いてください。 お願いします。大丈夫、僕らは切り刻んだりしません。引いてください」
熊は後退りをはじめ、ゆっくりと後退していく。アンリもそれに合わせ、ゆっくりと後退すると、剣から手を離した。それでも、アンリがすぐに剣を引き抜けることを、グリットは知っている。
「熊さん!」
ティトーはグリットを振り切って、アンリの前まで出ようとした為、アンリは慌ててティトーを止めようとしつつ腕を広げた。それでも、目線は熊から外されていない。
「驚かせてごめんなさい! 薪なんて拾わなくていいんです! お願いします。僕らはもう行きますから……」
すると、熊の背後の草陰から、子熊が二頭も顔を出したのだ。
「やはり、母熊だったか」
「お腹蹴っちゃってごめんなさい! みんなも、ごめんなさい!」
ティトーは丁寧にお辞儀をしながら、首を垂れた為アンリが慌てて前へ出たが、熊はそのまま踵を返した。熊も警戒を止めておらず、ゆっくりとした動作だが爪が立ったままだ。
「熊さん」
「ティトー、前へ出すぎるな」
熊はそのままゆっくりと振り返ったのは、子熊が立ち止まったからだ。すると、ティトーは手を掲げて金色の光を放った。
瞳の煌めきも金色である。
眩い光の泡は、熊の腹部へ到着すると、吸い込まれて消えていったのだ。
熊は何事もなかったかのように、子熊たちを導くと、ゆっくりと森へ帰っていった。
◇
「ふはぁ」
ティトーが力なく項垂れると、慌ててアンリが体を支えた。
「ティトー! なんて無茶を」
「だ、大丈夫だよ! 昨日みたいに、そこまで力、使ってないよ。お兄様が加減して、蹴ってくれたんだね」
「ティトー……」
グリットは二人へ駆け寄りながら、周囲を警戒したが周囲に敵意はない。
駆け寄ろうとしたティトーは、慌ててグリットを呼び止めた。
「グリット、待って!」
「どうしたんだ」
ティトーが指を指すと、地面には花が咲いていた。紅く細長い花びらが放射線状に咲く花だった。
「良かった、踏まなくて」
「フックスグロッケンか」
「フックスグロッケンっていうの?」
「何を言っているんだ、グリット」
アンリはもうグリットの呼び名を間違えることは無かった。
「この花は、キツネノカミソリだろう」
「それは景国の呼び名か?」
「いや、セシュールでの名はシュネーグロッケンだ」
「シュネーグロッケン? アンリ、それは白くて項垂れた花じゃないか。この花じゃない」
紅く放射線状に咲く花は、そのまま風に揺られて咲き誇っている。
「シュネーグロッケンって、ルゼリアやヴァジュトールではスノードロップという花ですか? 図鑑で見ました」
「ああそうか。国で呼び名が違うのか。いや、でも色も違うだろう?」
「いーや。この花はキツネノカミソリ、またの名をシュネーグロッケンだ!」
アンリは譲らないと言わんばかりに、腕を組んだ。
「じゃあ、セシュールではシュネーグロッケン。スノードロップを何て呼ぶんだ」
「レーゲントロプフェンだ!」
「どこが雨粒なんだ!」
「なんで、喧嘩しちゃうのー!」
賑やかに、三者は旅を続ける。
アンリは未だに熊から目線を外さず、熊を睨み続けている。
ティトーの金色の瞳を見ているのは、熊と、そしてグリットだけだ。
「退いてください。 お願いします。大丈夫、僕らは切り刻んだりしません。引いてください」
熊は後退りをはじめ、ゆっくりと後退していく。アンリもそれに合わせ、ゆっくりと後退すると、剣から手を離した。それでも、アンリがすぐに剣を引き抜けることを、グリットは知っている。
「熊さん!」
ティトーはグリットを振り切って、アンリの前まで出ようとした為、アンリは慌ててティトーを止めようとしつつ腕を広げた。それでも、目線は熊から外されていない。
「驚かせてごめんなさい! 薪なんて拾わなくていいんです! お願いします。僕らはもう行きますから……」
すると、熊の背後の草陰から、子熊が二頭も顔を出したのだ。
「やはり、母熊だったか」
「お腹蹴っちゃってごめんなさい! みんなも、ごめんなさい!」
ティトーは丁寧にお辞儀をしながら、首を垂れた為アンリが慌てて前へ出たが、熊はそのまま踵を返した。熊も警戒を止めておらず、ゆっくりとした動作だが爪が立ったままだ。
「熊さん」
「ティトー、前へ出すぎるな」
熊はそのままゆっくりと振り返ったのは、子熊が立ち止まったからだ。すると、ティトーは手を掲げて金色の光を放った。
瞳の煌めきも金色である。
眩い光の泡は、熊の腹部へ到着すると、吸い込まれて消えていったのだ。
熊は何事もなかったかのように、子熊たちを導くと、ゆっくりと森へ帰っていった。
◇
「ふはぁ」
ティトーが力なく項垂れると、慌ててアンリが体を支えた。
「ティトー! なんて無茶を」
「だ、大丈夫だよ! 昨日みたいに、そこまで力、使ってないよ。お兄様が加減して、蹴ってくれたんだね」
「ティトー……」
グリットは二人へ駆け寄りながら、周囲を警戒したが周囲に敵意はない。
駆け寄ろうとしたティトーは、慌ててグリットを呼び止めた。
「グリット、待って!」
「どうしたんだ」
ティトーが指を指すと、地面には花が咲いていた。紅く細長い花びらが放射線状に咲く花だった。
「良かった、踏まなくて」
「フックスグロッケンか」
「フックスグロッケンっていうの?」
「何を言っているんだ、グリット」
アンリはもうグリットの呼び名を間違えることは無かった。
「この花は、キツネノカミソリだろう」
「それは景国の呼び名か?」
「いや、セシュールでの名はシュネーグロッケンだ」
「シュネーグロッケン? アンリ、それは白くて項垂れた花じゃないか。この花じゃない」
紅く放射線状に咲く花は、そのまま風に揺られて咲き誇っている。
「シュネーグロッケンって、ルゼリアやヴァジュトールではスノードロップという花ですか? 図鑑で見ました」
「ああそうか。国で呼び名が違うのか。いや、でも色も違うだろう?」
「いーや。この花はキツネノカミソリ、またの名をシュネーグロッケンだ!」
アンリは譲らないと言わんばかりに、腕を組んだ。
「じゃあ、セシュールではシュネーグロッケン。スノードロップを何て呼ぶんだ」
「レーゲントロプフェンだ!」
「どこが雨粒なんだ!」
「なんで、喧嘩しちゃうのー!」
賑やかに、三者は旅を続ける。
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