57 / 198
第四環「フックスグロッケン」
④-10 バルカローラ②
しおりを挟む
「ぴぎゃああああああああああ」
朝の森に少年の悲鳴がこだましたころ、グリットは兎を串焼きにすると調理を完了して焼きだしていた。
「せっがく、ぢりょう、ぢたのに!」
「同じ兎じゃないって言っても、駄目なんだろうな」
「こいつ、本当に俺の弟か?」
「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」
更にもう一度、悲鳴が上がったところで、ティトーは涙を袖で拭うと、感謝の言葉を唱えた。
「ごめんなさい、グリットさんがこんなひどい事を。ありがとう、兎さん。命を戴きます」
「お前、俺を何だと思ってんだ」
「ロリコン」
兎肉を頬張りながら、アンリが言い放ったために、グリットは飲みかけのスープを吹き出した。
「お前それ、意味わかってんのかよ!」
「知らないが、父は君の事を、よくそう呼んでいた」
「くっそ。親父さんめ……」
ティトーは涙を流しながら、もくもくと兎の肉を頬張っている。夢中に食べだした姿を見ると、アンリはグリットへ声を掛ける。
「本当に、親父には何も言っていないんだな」
「ああ。俺は何も言っていないよ」
「あのタウ族は」
「あいつも復興事業で、ずっと再会の町にいるんだろう? 無理だ」
「そうか」
ティトーは会話は聞こえていたものの、兎の柔らかなお肉に舌鼓を打ちつつ、ごめんなさいを唱えるのに必死であった。
◇
「この後はどこにいくんですか!」
兎肉を頬張ったティトーは目を輝かせながら、地団駄を踏んだ。
「早く行くですよー!!」
「ティトー、手をこれで拭きなさい。まずはメサイア、鐘の町へ向かう」
「拭きましたです!! あの! 地図を見てもいいですか」
「俺が見せる」
グリットは地図を広げると、現在地の森を指さした。ここからはまだもう一泊程すると、鐘の町に到着するという。
「ルゼリアと違って、セシュールは町と町が離れているんだ」
「どうしてなの?」
「魔物が出るからなんだ」
「でも、エーテルが不安定なだけなんだよ」
ティトーは荷物を持ちながら、不安を漏らした。少年は当たり前のことを云っただけだったのだ。
「そうだな。でも、ティトーは全部の魔物をすぐに治せないだろう」
ティトーはしょんぼりすると、兄アンリへ助けを求めた。
「またすぐに気を失うぞ」
「ガーン! で、でも他に出来る人はいないの? 聖女さまとか。聖女っていうくらいなんだから、慈愛に満ちた人なんでしょう?」
「法術では、魔物は浄化されて消滅してしまうだろう」
「あ」
ティトーは立ち止まると、悲しそうにガッカリして項垂れてしまった。
「だから、巫女なんだね」
「そうだ。それでも、今は巫女が不在なんだ」
前を歩きだし、ティトーは振り返りながら二人を見据えた。力強い、目線を添えて。
「僕が選定されていないから?」
「そうなのかもしれない」
グリットは俯きながら、しかしティトーから目線を外せずに話したが、ティトーは怯むことは無い。
「お兄様は、出来ないの?」
「俺はそこまで、法術も治癒の力の強くないんだ。巫女選定の儀は受けたが、能力不足だと言われている」
「でも、お兄様は凄くお強いのに!」
ティトーは剣を抜く仕草を真似ると、えいえいやー!と元気よく発言したが、アンリは笑えなかった。
「俺は、瑠竜血値が0なんだ」
朝の森に少年の悲鳴がこだましたころ、グリットは兎を串焼きにすると調理を完了して焼きだしていた。
「せっがく、ぢりょう、ぢたのに!」
「同じ兎じゃないって言っても、駄目なんだろうな」
「こいつ、本当に俺の弟か?」
「ぴぎゃああああああああああああああああああああ」
更にもう一度、悲鳴が上がったところで、ティトーは涙を袖で拭うと、感謝の言葉を唱えた。
「ごめんなさい、グリットさんがこんなひどい事を。ありがとう、兎さん。命を戴きます」
「お前、俺を何だと思ってんだ」
「ロリコン」
兎肉を頬張りながら、アンリが言い放ったために、グリットは飲みかけのスープを吹き出した。
「お前それ、意味わかってんのかよ!」
「知らないが、父は君の事を、よくそう呼んでいた」
「くっそ。親父さんめ……」
ティトーは涙を流しながら、もくもくと兎の肉を頬張っている。夢中に食べだした姿を見ると、アンリはグリットへ声を掛ける。
「本当に、親父には何も言っていないんだな」
「ああ。俺は何も言っていないよ」
「あのタウ族は」
「あいつも復興事業で、ずっと再会の町にいるんだろう? 無理だ」
「そうか」
ティトーは会話は聞こえていたものの、兎の柔らかなお肉に舌鼓を打ちつつ、ごめんなさいを唱えるのに必死であった。
◇
「この後はどこにいくんですか!」
兎肉を頬張ったティトーは目を輝かせながら、地団駄を踏んだ。
「早く行くですよー!!」
「ティトー、手をこれで拭きなさい。まずはメサイア、鐘の町へ向かう」
「拭きましたです!! あの! 地図を見てもいいですか」
「俺が見せる」
グリットは地図を広げると、現在地の森を指さした。ここからはまだもう一泊程すると、鐘の町に到着するという。
「ルゼリアと違って、セシュールは町と町が離れているんだ」
「どうしてなの?」
「魔物が出るからなんだ」
「でも、エーテルが不安定なだけなんだよ」
ティトーは荷物を持ちながら、不安を漏らした。少年は当たり前のことを云っただけだったのだ。
「そうだな。でも、ティトーは全部の魔物をすぐに治せないだろう」
ティトーはしょんぼりすると、兄アンリへ助けを求めた。
「またすぐに気を失うぞ」
「ガーン! で、でも他に出来る人はいないの? 聖女さまとか。聖女っていうくらいなんだから、慈愛に満ちた人なんでしょう?」
「法術では、魔物は浄化されて消滅してしまうだろう」
「あ」
ティトーは立ち止まると、悲しそうにガッカリして項垂れてしまった。
「だから、巫女なんだね」
「そうだ。それでも、今は巫女が不在なんだ」
前を歩きだし、ティトーは振り返りながら二人を見据えた。力強い、目線を添えて。
「僕が選定されていないから?」
「そうなのかもしれない」
グリットは俯きながら、しかしティトーから目線を外せずに話したが、ティトーは怯むことは無い。
「お兄様は、出来ないの?」
「俺はそこまで、法術も治癒の力の強くないんだ。巫女選定の儀は受けたが、能力不足だと言われている」
「でも、お兄様は凄くお強いのに!」
ティトーは剣を抜く仕草を真似ると、えいえいやー!と元気よく発言したが、アンリは笑えなかった。
「俺は、瑠竜血値が0なんだ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。
ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる