【完結】暁の草原(改稿作業中)

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
14 / 228
第一環「春虹の便り」

①-11 価値を知るもの③

しおりを挟む
(どうしよう)

 すぐ前のワンピースの女性の番となった。もうこの女性のやり方で、汲み方を覚えるしかない。怖くて仕方がなかった。

 少年は集中して、ワンピースの女性を凝視した。それ故、突然肩をつつかれてしまったことに驚き、大きな声をあげてしまった。優しくトントンとされたにも関わらず。

「ひゃっ」


 振り返ると、オレンジ色の糸で丁寧に縫われた刺繍の花と動物が、目の前に広がっていた。腰につけられているエプロンが、目の前にあったのだ。三つ編みの若い女性が、自分目線に屈んでいる。エプロンの裾についているレースが地面に付き、砂が付着した。

「ねえ、その革袋に入れるの?」

 女性は革袋を指さした。

「え、あ、はい。そうです。あの……」

 驚いて声が裏返り、震え、口をつぐんでしまった。異国民の自分が水を汲んでもいいのか、そもそも本当に無料なのか、そもそも飲んでもいいのか、というよりも井戸の使い方もわからない。
 少年の頭には次々と不安が湧いてでてしまい、言葉にならない。

「あれは水の勢いが強いの。この間、調整されてしまったの。だから、革袋に入れたいなら桶とかに一度汲んで、水差しに移してから注いだ方がいいよ。そのまま入れようとしたら、水が溢れてこぼれてしまうし、服なんて濡れちゃうと思う」

 少年はエプロンの刺繍を見つめ、女性の顔をなるべく見ないようにしていた。女性はその目線に桶を持っていき、桶を軽く指で弾いた。

「桶、持ってないのでしょう。うちに水差しがあるから、私の桶で汲んでいって、そこから入れてあげられるよ」
「え」

 前の女性が水を汲み終え、少年の番が来ていた。女性の後ろには、今も六人ほどが並んでいる。迷っている時間もなかった。

「すみません、あのお願いできますか」

 少年の言葉に、若い女性は笑顔で二度、頷き返した。勢いよく頷いたことて、二本の三つ編みが勢いよく跳ねた。若い女性は自らの桶を地面に置き、長いレバーを上下させると、水が勢いよく出てきた。

「わあ、すごい。びしょ濡れになるところだった」

 少年はハッとし、エプロンを一瞬見つめながら言いなおした。

「いえ、濡れるところでした」

 三つ編みを揺らながら、女性は笑っていた。軽々と片手で桶を抱え、住宅街を指さした。

「じゃ、ついてきて。こっちよ」

 少年は三つ編みの女性の後についていくことにした。よく見れば、編み込んであるリボンにも刺繍も施してあり、エプロンの刺繍と同じオレンジの糸だ。黄色かもしれないし、リボンとエプロンの色はお揃いなのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...