9 / 228
第一環「春虹の便り」
①-6 風の知らせ②
しおりを挟む
「戦後に生まれた子か?」
漸く声を絞り出せた。それでも、動揺しているのかココアのカップが小刻みに震える。
「いや、どうみても三歳児未満には見えなかった。痩せては居たが、どうみても5,6歳。訳アリなのは間違いないだろうが、そんな子供が一人、あの銀時計を見せながらの兄探し」
スプーンが見当たらないため、グリットは窓の外を目線だけで追った。外は緩やかな風が吹いているようで、隣接の宿舎の前に干されたシーツがよくなびいている。
「少年が各テーブルを回っている間に、席の空きがなくなる時間になった。女将が詳しい話を聞こうと、少年に声をかけて席に案内しようとしたんだ」
大旦那は少年の居たであろう位置まで歩むと、その説明を具体的に話した。
「だが少年はそれを断った。労働者用の食堂だという札があったから、自分が座るわけにはいかないと言って出ていった」
「文字が、読めるんだな」
「そう、少年は文字を読むことが出来る。こんな町にまで子供が一人で兄探し。薄汚れてはいるものの明らかに質のよさそうな服の上に、セシュール伝統の刺繍が入ったケープを羽織っている。どう見ても怪しい」
大旦那は早口になってはいるものの、抑えられた声量だ。表情には、隠しきれないほどの笑みを浮かべ、対面者と目線が合うのを待った。グリットは窓の外を見つめたていたが、観念して目線を合わせた。
「……妙なのは少年の外観もだ。瞳は、青く深みのある、印象に残るほどのサファイアブルーだった。濃くはあるものの、光によって宝石のごとく煌めく」
大旦那はここで決めると言わんばかりの表情で、歯を見せるようにニヤリと笑った。普段から大真面目に冗談を言うような人物ではない。
グリットはカップを揺らし、なんとか底に残ったココアを混ぜようと悪足掻きをした。
「そう、それはまさに……由緒正しき崇高な血統の、ルゼリア人のような」
大旦那は自分の発言に短く頷いた。
「少年の髪色は、薄めの灰色と栗色の間。お前が今思い浮かべたような、あの色で……って、聞いてるか?」
「……はぁ、何を言い出すかと思えば。たまたま兄を探しに来た孤児の髪色が将軍のそれで、瞳は王家特有の瞳だと?」
「そうだ」
「じゃあ何か、将軍と王女の裏に、子供がいたとでも言うのか。後継者問題を抱えた将軍がまだ独身なのは、その為だとでも? 今やシュタイン家は王家に連なる家系なんだぞ。それもすぐ傍の国境を越えた先が領地だ。大体シュタインは……」
そこまで発言し、グリットは黙り込んだ。シュタイン将軍の個人的なプライバシーを、ここで公にするわけにはいかない。そして相手が大旦那だからこそ、軽々しく話していいものではない。
だが、大旦那は大国のスキャンダルを話そうとしていたわけではなかった。
「あのなあ、俺は少年がわざわざシュタイン家当主、コルネリア殿の髪色に寄せた姿で、ルゼリア王族に連なる瞳は本物で、そんな子供が一人で現れたって言おうとしてたんだよ」
「なんだそうなのか」
「あのなあ。最後まで真面目に聞けよ。最初に言っただろう、俺が見覚えのある、親しみある顔立ちだったんだって。そんな子があの銀時計を持っている、渡したのは将軍しかいないだろ」
一瞬の間が非常に長く感じる。静寂であり、更に何も聞こえなくなる。グリットがどうしても口にできない将軍の話とは別の、とんでもない可能性の話を、大旦那はしているのだ。
恐らく女将もそれを知っている。
「コルネリア殿は、現ルゼリア王クラウス陛下に忠誠を誓っている。陛下と将軍はほとんど親族だが、それだけじゃないだろ。しかも陛下は唯一最愛の一人娘、噂の王子たちの母親でもある、ミラージュ王女直属の騎士で、王女とは幼馴染だ」
グリットは大旦那を睨むように見つめたが、大旦那はそのまま続けた。
漸く声を絞り出せた。それでも、動揺しているのかココアのカップが小刻みに震える。
「いや、どうみても三歳児未満には見えなかった。痩せては居たが、どうみても5,6歳。訳アリなのは間違いないだろうが、そんな子供が一人、あの銀時計を見せながらの兄探し」
スプーンが見当たらないため、グリットは窓の外を目線だけで追った。外は緩やかな風が吹いているようで、隣接の宿舎の前に干されたシーツがよくなびいている。
「少年が各テーブルを回っている間に、席の空きがなくなる時間になった。女将が詳しい話を聞こうと、少年に声をかけて席に案内しようとしたんだ」
大旦那は少年の居たであろう位置まで歩むと、その説明を具体的に話した。
「だが少年はそれを断った。労働者用の食堂だという札があったから、自分が座るわけにはいかないと言って出ていった」
「文字が、読めるんだな」
「そう、少年は文字を読むことが出来る。こんな町にまで子供が一人で兄探し。薄汚れてはいるものの明らかに質のよさそうな服の上に、セシュール伝統の刺繍が入ったケープを羽織っている。どう見ても怪しい」
大旦那は早口になってはいるものの、抑えられた声量だ。表情には、隠しきれないほどの笑みを浮かべ、対面者と目線が合うのを待った。グリットは窓の外を見つめたていたが、観念して目線を合わせた。
「……妙なのは少年の外観もだ。瞳は、青く深みのある、印象に残るほどのサファイアブルーだった。濃くはあるものの、光によって宝石のごとく煌めく」
大旦那はここで決めると言わんばかりの表情で、歯を見せるようにニヤリと笑った。普段から大真面目に冗談を言うような人物ではない。
グリットはカップを揺らし、なんとか底に残ったココアを混ぜようと悪足掻きをした。
「そう、それはまさに……由緒正しき崇高な血統の、ルゼリア人のような」
大旦那は自分の発言に短く頷いた。
「少年の髪色は、薄めの灰色と栗色の間。お前が今思い浮かべたような、あの色で……って、聞いてるか?」
「……はぁ、何を言い出すかと思えば。たまたま兄を探しに来た孤児の髪色が将軍のそれで、瞳は王家特有の瞳だと?」
「そうだ」
「じゃあ何か、将軍と王女の裏に、子供がいたとでも言うのか。後継者問題を抱えた将軍がまだ独身なのは、その為だとでも? 今やシュタイン家は王家に連なる家系なんだぞ。それもすぐ傍の国境を越えた先が領地だ。大体シュタインは……」
そこまで発言し、グリットは黙り込んだ。シュタイン将軍の個人的なプライバシーを、ここで公にするわけにはいかない。そして相手が大旦那だからこそ、軽々しく話していいものではない。
だが、大旦那は大国のスキャンダルを話そうとしていたわけではなかった。
「あのなあ、俺は少年がわざわざシュタイン家当主、コルネリア殿の髪色に寄せた姿で、ルゼリア王族に連なる瞳は本物で、そんな子供が一人で現れたって言おうとしてたんだよ」
「なんだそうなのか」
「あのなあ。最後まで真面目に聞けよ。最初に言っただろう、俺が見覚えのある、親しみある顔立ちだったんだって。そんな子があの銀時計を持っている、渡したのは将軍しかいないだろ」
一瞬の間が非常に長く感じる。静寂であり、更に何も聞こえなくなる。グリットがどうしても口にできない将軍の話とは別の、とんでもない可能性の話を、大旦那はしているのだ。
恐らく女将もそれを知っている。
「コルネリア殿は、現ルゼリア王クラウス陛下に忠誠を誓っている。陛下と将軍はほとんど親族だが、それだけじゃないだろ。しかも陛下は唯一最愛の一人娘、噂の王子たちの母親でもある、ミラージュ王女直属の騎士で、王女とは幼馴染だ」
グリットは大旦那を睨むように見つめたが、大旦那はそのまま続けた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる