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プロローグ

曖昧な微睡みの中で

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 この物語はフィクションです。実在の人物、団体、国とは一切関係がありません。

2024.05.08 投稿後の改稿版になります。

=====

 やあ友よ、ちょっと気難しそうな話をするとしよう


 うん、だからそうやってすぐ顔をしかめるのは、君の良くない癖だよ


 うん、うん
 
 うん。それじゃあいいかな。まあ、駄目と言ってもこのまま続けるのだけど
 君は好きな花は何かと聞かれたら、なんと答える?

 ……やはりというべきか、想像通りの表情をするね
 君は、その質問に解答する際、どんなことを考える?

 花の色か、もしくはその花びらの形か
 それとも花言葉か、あるいはその花のもたらす魅惑の香りか

 全ての御意向に沿うよう、完璧な模範解答をすべきか?

 それとも、適当に相手の好みに合うように答えるか?



 ああうん、判ってそうだけどあえて言うね。この面倒そうな議題は、実はただの例えなんだ

 ははは、クドイのはわかっているよ。わざとだからね
 興味のない者や合わない者は、すでに立ち去っているだろう
 もうこの場には、僕たちしか存在していないわけだ
 実に合理的だろう?

 うん、面白い顔をするね

 話を戻そう。解答が質問者の意図に添えるかどうかは、お互いの目的や状況によるのだろう
 実に無駄が多く、実に面倒だと思わないか?
 
 ……そこで僕を見るのはどうしてだろう。わかりはするけど、わかってない振りをさせていただくよ

 で、中にはあの花の花言葉は縁起が悪いだの、贈答品には向かないだの、余計なことまで考える者もいるだろう?

 うん、確かにこの世界で一番面倒臭く考えるのは、僕自身だろうね。それは認める

 でね、そこに、質問者と解答者の間に、絶大な信頼関係があったとしたら、どうだろう?
 
 うん、いい反応だ。さすが君だよ
 そうなんだ。衝突が起こるかどうかも
 衝突を前提にしたとしても、元の関係に戻れるかどうかすらも
 その衝突の意味でさえ、形を変えてしまうのだよ
 全ては互いを、互いで理解しあえているかどうか、その間に何があるか、そこなのだよ……



 ここで重要なのは、お互いの相互理解だけではない


 そう、自分自身をきちんと理解出来ているか、これは最も最重視されることであろうね
 当然、一対一とは限らない。場面毎に、きちんと矢面に立ち、向き合わなければいけない
 それすら面倒に考えるのであれば、相手は当人への接し方も、実に淡泊なものになるだろうね
 僕は割と濃い味付けが好みだよ
 そして、その <信頼> という結び付きがあるかどうかによって、大きく異なってくる

 当然、面倒になったり、言葉の行き違いが発生するのも、そういう信頼関係が元々不安定だったから、というわけさ
 相手を理解することはもちろん必要ではあるが、同時に自分自身のことも正しく理解していなければ、相手にだって伝わらないものだよ

 お互いが適当で適切な距離感であってほしいなら、それ以上の関係にはならないのだろうね

 うん、そうだね。たしかに前置きが長くなってしまったね。なかなかこの癖は直らない
 わざとなんだけどね
 やっぱり君と話すのは楽しいよ

 本題はここからなのだ
 その目視の出来ない、実に曖昧で不安定な <信頼> という結びつき
 そういう信頼関係を、生きる万物は常に強く欲し、依存し、一喜一憂したかと思えば、途端に嘆き悲しむ
 万物は、信頼無くしては生きられない。実に面倒くさい結び付きだと思わないか?

 いや、面倒かどうかの議論ではないよ
 そういう曖昧な結び付きを
 僕は、あえて形あるものとして、目に見える形として、相手に残そうと考えているんだ
 

 ……君なら、どうする?


 うん。前置きが長くてすまないね、そういうことなんだ



 ……そう、実に難しいのだよ




 そういう目に視えない曖昧なものを、形として残そうなどと




 それでも、

 私は残さなければ…………ならない……




 ………………





 …………………………






 ………………………………………………







 ――――――――――――


 古の時代からずっと空にあり続ける大きな幻影。淡く虚ろげでいて、静かに佇む巨大な恐怖心そのもの、それが月だ。
 月が常に眺める大地には、火・水・風・地の属性の加護があり、それぞれの属性エーテルが満ちているという。
 その世界に光と闇が混ざり合い、様々な魔法が発明されては消えていった。
 守護竜に愛された大地は、それはそれは美しかったという。

 これは、気の遠くなるほど、遥か遠く、遠いとおいせかいのおはなしです。
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