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最終話「朱の祝福を手のひらに」
⑯-8 出立②
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最後の積み込みが終わり、出発の時が来た。
アドニスたちの魔法によって、空高くまで転移するという。そして、セシュールの里は亜空間を駆使して広がっていたこともあり、空間は消失するという。この美しいボーデン湖の水面も、見納めとなる。
見送りに来てくれたミュラー夫妻も既に洞窟を抜け、シュタインアムラインへ帰っている。
「メインエンジンを起動してくれ」
アルベルトの言葉に、メイが機械を操作する。メイは本当に優秀であり、レオンはもう一体のアンドロイド作成に取り掛かっているのだ。そうなれば、メイにとって妹機体か弟機体が出来るのだ。メイは嬉しそうにしているが、リェイラは嫉妬している様子だ。
リェイラは結局、まだ言葉が話せない。歩行は可能になってきたものの、まだ歩けないという思い込みによる認識が強く、自力での歩行が困難であるという。マリアに起きていた現象と同じであった。マリアも以前、歩けなくなっていたからだ。それは全て、また歩けるという思い込みのような、ティニアのいう物理法則を超える方法で乗り越えられた。
マリアにとって、リェイラは妹のような存在だ。リェイラもまた、マリアのことを姉のように慕ってくれている。年が近そうに見えるフリージアとは文字通りの姉妹同然の仲良しぶりだ。
「それじゃあ、出発する。アドニスたちは魔法の詠唱に入ってくれ」
アドニスやラウルが詠唱に入ると、戦艦が透明化し、周囲から見えなくなった。
同時にセシュールの里が消え、戦艦は星海が良く見える天空へと旅立った。
地球ともお別れの時だ。
「この満天の星空を見飽きるようになるのね」
「そうだな」
アルベルトは嬉しそうにしている。ティニアとの約束を果たし、レンとの約束も果たそうというのだ。漸く、それが叶うかもしれないのだ。否、叶うだろう。
「レンは、地球へ渡って。様々な人に出会った。それはアスカニア家だけではないだろう」
「うん。そのアスカニア家が守ろうとした大地で、地球で、色々なことがあったのよね」
「アスカニア家は、正しき道が何であるのかを知っていた。それは苦難な場面でも、心強かっただろう」
もうスイスもドイツもイタリアも、遠い。よく見えなくなっている。国境など見えない。
「戦争なんて馬鹿げたことばかりして、周りが見えなくなるのも恐ろしいわ」
「そうだな。このレスティン・フェレスの技術が、彼らに渡らなくて本当によかった」
「正しく扱いたい技術ね。性能的には当時より進歩してるって言っていたけれど、予定だと何年で到着するの?」
「当時で200年~250年。今はそうだな、150年から180年くらいじゃないか。定期的に、アドニスたちの魔法でかなり先まで転移出来るって言うから、もう少し短いだろう」
転移魔法。それは失われた魔法であるという。レンが復活させたと話すアドニスは、個の魔法の扱いを特に気を付けているように見えた。それだけ、影響を及ぼす力が強いのだ。
「フリージアも、個人だけの転移じゃ日常使いしているものね」
「常に浮いているから、歩くようにマリアからも言ってくれ。運動不足になる」
「それもそうね。わかったわ」
遠くに地球が見えている。
それは青い星だった。まるで、ティニアの瞳のように。
「レンの瞳は金色だった。髪は白銀で、肌も白かったわ」
「ああ。元々は金色の狐だったんだ。ちょっとわけありでな」
「何よ、わけありって。教えなさいよ」
「そうだなあ。背中に十字架を背負った辺りから、話すとするか」
二人が話していると、フリージアが目の前に転移してくる。怒った様子で頬を膨らませている。
「二人とも、近いですよ!」
「近いって、どうしたのよ。嫉妬? フリージアも来たらいいじゃない」
「わわ、マリアさんたら……」
ふわふわと宙に浮いているフリージアを捕まえたマリアは、フリージアを強く抱きしめた。
「ティナとレオンは今ME-llの作成でしょうから、寂しいのよね」
「うーん。寂しいけれど! そうじゃなくて、近いのダメですー!」
「あら、大丈夫よ。間違っても、私はアルベルトに惚れたりしないから」
「はぁ⁉ お前、いきなり何言ってんだ」
マリアは笑いながらフリージアの頬を人差し指でつんつんした。フリージアは顔を赤らめながら嬉しそうに微笑む。
こうしたじゃれ合いが、たまらなく愛おしい。
たとえ恋愛でなくても、家族愛というものに近いであろう。
マリアにとって、その愛は確かにそこにあり、幸せなものだ。
「お前はラウルと最近いい感じじゃないか」
「えー。やめてよ。冗談でもきついわ。……全くもう、レン一筋の人ばっかりで、嫌になっちゃう」
「ラウルのやつ、まだレンを諦めてないのかよ……」
「諦めないでしょうね。だって、アルベルトも告白がまだだし」
「そ、それは……」
頬を赤らめ、あからさまにそっぽを向くアルベルトを、フリージアは大笑いしてやった。その光景をみて、マリアも笑い出す。
「あはは、アルお兄ちゃんったら顔真っ赤!」
「うるさいな」
「あ、それ。ラウルにそっくり。あはは!」
アルベルトの加護によって、人造人間たちだけではなく、レオンやティナも少し長生きできるという。生きたまま、皆でレスティン・フェレスの地を踏むのだ。きっと出来る。
「成したい事があるのなら」
「成ると口に出したり言葉にしたりすればいい、だな!」
「うん! ティニア様だって、待ってる!」
――きっと辿り着けると信じて。
――旅は始まったばかりだ!
アドニスたちの魔法によって、空高くまで転移するという。そして、セシュールの里は亜空間を駆使して広がっていたこともあり、空間は消失するという。この美しいボーデン湖の水面も、見納めとなる。
見送りに来てくれたミュラー夫妻も既に洞窟を抜け、シュタインアムラインへ帰っている。
「メインエンジンを起動してくれ」
アルベルトの言葉に、メイが機械を操作する。メイは本当に優秀であり、レオンはもう一体のアンドロイド作成に取り掛かっているのだ。そうなれば、メイにとって妹機体か弟機体が出来るのだ。メイは嬉しそうにしているが、リェイラは嫉妬している様子だ。
リェイラは結局、まだ言葉が話せない。歩行は可能になってきたものの、まだ歩けないという思い込みによる認識が強く、自力での歩行が困難であるという。マリアに起きていた現象と同じであった。マリアも以前、歩けなくなっていたからだ。それは全て、また歩けるという思い込みのような、ティニアのいう物理法則を超える方法で乗り越えられた。
マリアにとって、リェイラは妹のような存在だ。リェイラもまた、マリアのことを姉のように慕ってくれている。年が近そうに見えるフリージアとは文字通りの姉妹同然の仲良しぶりだ。
「それじゃあ、出発する。アドニスたちは魔法の詠唱に入ってくれ」
アドニスやラウルが詠唱に入ると、戦艦が透明化し、周囲から見えなくなった。
同時にセシュールの里が消え、戦艦は星海が良く見える天空へと旅立った。
地球ともお別れの時だ。
「この満天の星空を見飽きるようになるのね」
「そうだな」
アルベルトは嬉しそうにしている。ティニアとの約束を果たし、レンとの約束も果たそうというのだ。漸く、それが叶うかもしれないのだ。否、叶うだろう。
「レンは、地球へ渡って。様々な人に出会った。それはアスカニア家だけではないだろう」
「うん。そのアスカニア家が守ろうとした大地で、地球で、色々なことがあったのよね」
「アスカニア家は、正しき道が何であるのかを知っていた。それは苦難な場面でも、心強かっただろう」
もうスイスもドイツもイタリアも、遠い。よく見えなくなっている。国境など見えない。
「戦争なんて馬鹿げたことばかりして、周りが見えなくなるのも恐ろしいわ」
「そうだな。このレスティン・フェレスの技術が、彼らに渡らなくて本当によかった」
「正しく扱いたい技術ね。性能的には当時より進歩してるって言っていたけれど、予定だと何年で到着するの?」
「当時で200年~250年。今はそうだな、150年から180年くらいじゃないか。定期的に、アドニスたちの魔法でかなり先まで転移出来るって言うから、もう少し短いだろう」
転移魔法。それは失われた魔法であるという。レンが復活させたと話すアドニスは、個の魔法の扱いを特に気を付けているように見えた。それだけ、影響を及ぼす力が強いのだ。
「フリージアも、個人だけの転移じゃ日常使いしているものね」
「常に浮いているから、歩くようにマリアからも言ってくれ。運動不足になる」
「それもそうね。わかったわ」
遠くに地球が見えている。
それは青い星だった。まるで、ティニアの瞳のように。
「レンの瞳は金色だった。髪は白銀で、肌も白かったわ」
「ああ。元々は金色の狐だったんだ。ちょっとわけありでな」
「何よ、わけありって。教えなさいよ」
「そうだなあ。背中に十字架を背負った辺りから、話すとするか」
二人が話していると、フリージアが目の前に転移してくる。怒った様子で頬を膨らませている。
「二人とも、近いですよ!」
「近いって、どうしたのよ。嫉妬? フリージアも来たらいいじゃない」
「わわ、マリアさんたら……」
ふわふわと宙に浮いているフリージアを捕まえたマリアは、フリージアを強く抱きしめた。
「ティナとレオンは今ME-llの作成でしょうから、寂しいのよね」
「うーん。寂しいけれど! そうじゃなくて、近いのダメですー!」
「あら、大丈夫よ。間違っても、私はアルベルトに惚れたりしないから」
「はぁ⁉ お前、いきなり何言ってんだ」
マリアは笑いながらフリージアの頬を人差し指でつんつんした。フリージアは顔を赤らめながら嬉しそうに微笑む。
こうしたじゃれ合いが、たまらなく愛おしい。
たとえ恋愛でなくても、家族愛というものに近いであろう。
マリアにとって、その愛は確かにそこにあり、幸せなものだ。
「お前はラウルと最近いい感じじゃないか」
「えー。やめてよ。冗談でもきついわ。……全くもう、レン一筋の人ばっかりで、嫌になっちゃう」
「ラウルのやつ、まだレンを諦めてないのかよ……」
「諦めないでしょうね。だって、アルベルトも告白がまだだし」
「そ、それは……」
頬を赤らめ、あからさまにそっぽを向くアルベルトを、フリージアは大笑いしてやった。その光景をみて、マリアも笑い出す。
「あはは、アルお兄ちゃんったら顔真っ赤!」
「うるさいな」
「あ、それ。ラウルにそっくり。あはは!」
アルベルトの加護によって、人造人間たちだけではなく、レオンやティナも少し長生きできるという。生きたまま、皆でレスティン・フェレスの地を踏むのだ。きっと出来る。
「成したい事があるのなら」
「成ると口に出したり言葉にしたりすればいい、だな!」
「うん! ティニア様だって、待ってる!」
――きっと辿り着けると信じて。
――旅は始まったばかりだ!
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