【完結】暁の荒野

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
255 / 257
最終話「朱の祝福を手のひらに」

⑯-7 出立①

しおりを挟む
 マリアは悩んでいた。旅立ちを決めた以上、悩むことはないと思っていたがそんなことはなかった。

「何を持っていったら、いいのよー!」

 マリアが頭を抱えて絶叫していると、後ろから笑い声が聞こえてくる。ミュラー夫妻だ。

「もう、出発前に何してるの?」
「だって、部屋まで転移させてもらって私物を運んだのはいいの。その後よ! 航海は長いじゃない? 何を持っていったらいいのかしら」
「出発日に重大な事で悩んでいたのね」
「この戦艦が凄すぎるのよ。なんだって揃っているのよ? タウ族たちが地球へ渡れたのも、こういう設備があったからだってよくわかったけれど!」

 マリアは戦艦内の植物園から加工場まで全て見学している。その全てが規格外なのだ。レスティン・フェレスの科学力というものは凄まじい。どんな世界が広がっているのか、アルベルトに聞いてみたのだが、返って来た返事はあまりいいものではなかった。文明が一度衰退し、技術が失われているというのだ。衰退というより、機械人形の技術も封印したというのだから、意図的な衰退だという。

「アルベルトはどこにいる?」
「最終チェックをしていると思うから、ブリッジってところに居ると思うわ」
「ごめんなさいね、場所がわからないから案内してもらえる?」
「もちろんよ」


 ◇◇◇

 ――メイン・ブリッジにて。

 その日、出立に向けて最終調整を行っていたアルベルトの前に、ミランダとディートリヒがマリアに付き添われてやってきた。

「二人とも、よく来てくれた!」
「アルベルト、体調はどう? 最近、咳が出ているって聞いたけれど……」
「大丈夫だよ。レオンに診てもらっているからな」
「竜も病気になるんだな」

 ディートリヒの言葉に、アルベルトは苦笑いを浮かべた。

「なんでもなるよ。竜は長生きする分、病気にもよくなるんだ」
「気を付けなさいよ。病気を持って航海だなんて、大変よ」
「わかっているさ。もうすぐ最終調整が終わるから、広場で待っててくれ」
「一緒に行けなくて悪いな」
「悪くなんてないさ。俺はお前と会えて良かったと思っているんだ、ディートリヒ。お前とは、また会える気がするよ」
「嬉しいこと言うじゃないか」

 広場へ向かうマリアたちを背に、アルベルトは最終調整のチェックに入った。どの項目も問題はなく、航海中に対応できそうである。

「やっと出発出来る……。もうすぐ出発だぞ、ティニア……」



 ◇◇◇

 ――セシュールの里、広場にて。

 広場には乗り込む乗員が全て揃っていた。

 戦艦を整備し、戦艦を作った張本人の来世であるアルベルト。
 そのアルベルトの補佐を行い、自責の念から未だ脱していないラウル。
 医師として、そして前世の罪を背負うゲオルクの来世、レオン。
 そのレオンの妻として、正式に夫婦となったティナ。
 レンの弟子にして神父であったアドニス。

 ラダ族という部族の末裔であるヴァルク。そして、タウ族の末裔でありミュラー夫人ミランダの親戚コルネリア。
 最終的にメンバーに加わった機械人形であるME-Iメイと、彼女が付き添う人造人間リェイラ。
 

 そして、名乗りを上げたマリアだけではない。行き場を失った人造人間たちが十数名、乗り込むこととなっている。

 長い船旅になると思われるが、アルベルトが言うには当時の技術より進歩しているという。地球へやってきた技術者たちの努力の賜物であろう。予定よりも早く到着できる可能性があるという。

「ミランダさん!」
「ふふふ。漸く名前で呼んでくれたわね」
「だって、ミュラーさんの方が呼び慣れているのだもの!」

 マリアはミランダと強く抱きしめ合い、ディートリヒを嫉妬させた。そのディートリヒも、アルベルトと硬い握手を交わし、抱きしめ合った。

「生まれ変わったら、物理法則を超えてレスティン・フェレスへ生まれ変わって見せる。先に行って、温めてやるよ」
「ディートリヒなら出来そうだな」
「ミランダも一緒だぜ」
「ええ、もちろんよ」

 二人の熱い抱擁に、一行は呆れ果てている。この光景も、もう見納めとなる。

「ミランダさん。メアリーさんによろしく伝えていてね。故郷に帰ることになったってことにしてるとはいえ、あれから会えていないから。メアリーさんの鼻歌も、メアリーさんのことも大好きだよって」
「必ず伝えるわ。体に気を付けるのよ」
「うん。ミランダさんもね……」

 再び抱きしめ合うマリアとミランダ。姉妹のようであり、親子のようでもあった二人の別れだ。

「ありがとう。ミランダさん。ディートリヒさん」
「ありがとうな。俺からも言わせてくれ。ディートリヒ、ミランダ」

 ミランダは微笑みながら、ティナを手招きした。ティナが進み出ると、ミランダはティナに耳打ちした。

「マリアのこと、宜しくお願い致します。レイスお姉さま」
「はい。心得ました」
「寝ぐせを気にしているから、髪型アレンジもほどほどに伝えておいて。もっと落ち着いた髪型も、貴女には合うって」
「ふふふ。ご自分で伝えてもいいでしょうに。伝えておきますね」
「何よ、二人して楽しそうにして!」

 マリアが加わり、三人は笑顔で笑いあう。これが最後であるなど、思えなかった。またきっと会える。そんな気がするのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】暁の草原

Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。 その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。 大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。 彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。 面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。 男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。 ===== 別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。 ===== 他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...