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最終話「朱の祝福を手のひらに」
⑯-7 出立①
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マリアは悩んでいた。旅立ちを決めた以上、悩むことはないと思っていたがそんなことはなかった。
「何を持っていったら、いいのよー!」
マリアが頭を抱えて絶叫していると、後ろから笑い声が聞こえてくる。ミュラー夫妻だ。
「もう、出発前に何してるの?」
「だって、部屋まで転移させてもらって私物を運んだのはいいの。その後よ! 航海は長いじゃない? 何を持っていったらいいのかしら」
「出発日に重大な事で悩んでいたのね」
「この戦艦が凄すぎるのよ。なんだって揃っているのよ? タウ族たちが地球へ渡れたのも、こういう設備があったからだってよくわかったけれど!」
マリアは戦艦内の植物園から加工場まで全て見学している。その全てが規格外なのだ。レスティン・フェレスの科学力というものは凄まじい。どんな世界が広がっているのか、アルベルトに聞いてみたのだが、返って来た返事はあまりいいものではなかった。文明が一度衰退し、技術が失われているというのだ。衰退というより、機械人形の技術も封印したというのだから、意図的な衰退だという。
「アルベルトはどこにいる?」
「最終チェックをしていると思うから、ブリッジってところに居ると思うわ」
「ごめんなさいね、場所がわからないから案内してもらえる?」
「もちろんよ」
◇◇◇
――メイン・ブリッジにて。
その日、出立に向けて最終調整を行っていたアルベルトの前に、ミランダとディートリヒがマリアに付き添われてやってきた。
「二人とも、よく来てくれた!」
「アルベルト、体調はどう? 最近、咳が出ているって聞いたけれど……」
「大丈夫だよ。レオンに診てもらっているからな」
「竜も病気になるんだな」
ディートリヒの言葉に、アルベルトは苦笑いを浮かべた。
「なんでもなるよ。竜は長生きする分、病気にもよくなるんだ」
「気を付けなさいよ。病気を持って航海だなんて、大変よ」
「わかっているさ。もうすぐ最終調整が終わるから、広場で待っててくれ」
「一緒に行けなくて悪いな」
「悪くなんてないさ。俺はお前と会えて良かったと思っているんだ、ディートリヒ。お前とは、また会える気がするよ」
「嬉しいこと言うじゃないか」
広場へ向かうマリアたちを背に、アルベルトは最終調整のチェックに入った。どの項目も問題はなく、航海中に対応できそうである。
「やっと出発出来る……。もうすぐ出発だぞ、ティニア……」
◇◇◇
――セシュールの里、広場にて。
広場には乗り込む乗員が全て揃っていた。
戦艦を整備し、戦艦を作った張本人の来世であるアルベルト。
そのアルベルトの補佐を行い、自責の念から未だ脱していないラウル。
医師として、そして前世の罪を背負うゲオルクの来世、レオン。
そのレオンの妻として、正式に夫婦となったティナ。
レンの弟子にして神父であったアドニス。
ラダ族という部族の末裔であるヴァルク。そして、タウ族の末裔でありミュラー夫人ミランダの親戚コルネリア。
最終的にメンバーに加わった機械人形であるME-Iと、彼女が付き添う人造人間リェイラ。
そして、名乗りを上げたマリアだけではない。行き場を失った人造人間たちが十数名、乗り込むこととなっている。
長い船旅になると思われるが、アルベルトが言うには当時の技術より進歩しているという。地球へやってきた技術者たちの努力の賜物であろう。予定よりも早く到着できる可能性があるという。
「ミランダさん!」
「ふふふ。漸く名前で呼んでくれたわね」
「だって、ミュラーさんの方が呼び慣れているのだもの!」
マリアはミランダと強く抱きしめ合い、ディートリヒを嫉妬させた。そのディートリヒも、アルベルトと硬い握手を交わし、抱きしめ合った。
「生まれ変わったら、物理法則を超えてレスティン・フェレスへ生まれ変わって見せる。先に行って、温めてやるよ」
「ディートリヒなら出来そうだな」
「ミランダも一緒だぜ」
「ええ、もちろんよ」
二人の熱い抱擁に、一行は呆れ果てている。この光景も、もう見納めとなる。
「ミランダさん。メアリーさんによろしく伝えていてね。故郷に帰ることになったってことにしてるとはいえ、あれから会えていないから。メアリーさんの鼻歌も、メアリーさんのことも大好きだよって」
「必ず伝えるわ。体に気を付けるのよ」
「うん。ミランダさんもね……」
再び抱きしめ合うマリアとミランダ。姉妹のようであり、親子のようでもあった二人の別れだ。
「ありがとう。ミランダさん。ディートリヒさん」
「ありがとうな。俺からも言わせてくれ。ディートリヒ、ミランダ」
ミランダは微笑みながら、ティナを手招きした。ティナが進み出ると、ミランダはティナに耳打ちした。
「マリアのこと、宜しくお願い致します。レイスお姉さま」
「はい。心得ました」
「寝ぐせを気にしているから、髪型アレンジもほどほどに伝えておいて。もっと落ち着いた髪型も、貴女には合うって」
「ふふふ。ご自分で伝えてもいいでしょうに。伝えておきますね」
「何よ、二人して楽しそうにして!」
マリアが加わり、三人は笑顔で笑いあう。これが最後であるなど、思えなかった。またきっと会える。そんな気がするのだ。
「何を持っていったら、いいのよー!」
マリアが頭を抱えて絶叫していると、後ろから笑い声が聞こえてくる。ミュラー夫妻だ。
「もう、出発前に何してるの?」
「だって、部屋まで転移させてもらって私物を運んだのはいいの。その後よ! 航海は長いじゃない? 何を持っていったらいいのかしら」
「出発日に重大な事で悩んでいたのね」
「この戦艦が凄すぎるのよ。なんだって揃っているのよ? タウ族たちが地球へ渡れたのも、こういう設備があったからだってよくわかったけれど!」
マリアは戦艦内の植物園から加工場まで全て見学している。その全てが規格外なのだ。レスティン・フェレスの科学力というものは凄まじい。どんな世界が広がっているのか、アルベルトに聞いてみたのだが、返って来た返事はあまりいいものではなかった。文明が一度衰退し、技術が失われているというのだ。衰退というより、機械人形の技術も封印したというのだから、意図的な衰退だという。
「アルベルトはどこにいる?」
「最終チェックをしていると思うから、ブリッジってところに居ると思うわ」
「ごめんなさいね、場所がわからないから案内してもらえる?」
「もちろんよ」
◇◇◇
――メイン・ブリッジにて。
その日、出立に向けて最終調整を行っていたアルベルトの前に、ミランダとディートリヒがマリアに付き添われてやってきた。
「二人とも、よく来てくれた!」
「アルベルト、体調はどう? 最近、咳が出ているって聞いたけれど……」
「大丈夫だよ。レオンに診てもらっているからな」
「竜も病気になるんだな」
ディートリヒの言葉に、アルベルトは苦笑いを浮かべた。
「なんでもなるよ。竜は長生きする分、病気にもよくなるんだ」
「気を付けなさいよ。病気を持って航海だなんて、大変よ」
「わかっているさ。もうすぐ最終調整が終わるから、広場で待っててくれ」
「一緒に行けなくて悪いな」
「悪くなんてないさ。俺はお前と会えて良かったと思っているんだ、ディートリヒ。お前とは、また会える気がするよ」
「嬉しいこと言うじゃないか」
広場へ向かうマリアたちを背に、アルベルトは最終調整のチェックに入った。どの項目も問題はなく、航海中に対応できそうである。
「やっと出発出来る……。もうすぐ出発だぞ、ティニア……」
◇◇◇
――セシュールの里、広場にて。
広場には乗り込む乗員が全て揃っていた。
戦艦を整備し、戦艦を作った張本人の来世であるアルベルト。
そのアルベルトの補佐を行い、自責の念から未だ脱していないラウル。
医師として、そして前世の罪を背負うゲオルクの来世、レオン。
そのレオンの妻として、正式に夫婦となったティナ。
レンの弟子にして神父であったアドニス。
ラダ族という部族の末裔であるヴァルク。そして、タウ族の末裔でありミュラー夫人ミランダの親戚コルネリア。
最終的にメンバーに加わった機械人形であるME-Iと、彼女が付き添う人造人間リェイラ。
そして、名乗りを上げたマリアだけではない。行き場を失った人造人間たちが十数名、乗り込むこととなっている。
長い船旅になると思われるが、アルベルトが言うには当時の技術より進歩しているという。地球へやってきた技術者たちの努力の賜物であろう。予定よりも早く到着できる可能性があるという。
「ミランダさん!」
「ふふふ。漸く名前で呼んでくれたわね」
「だって、ミュラーさんの方が呼び慣れているのだもの!」
マリアはミランダと強く抱きしめ合い、ディートリヒを嫉妬させた。そのディートリヒも、アルベルトと硬い握手を交わし、抱きしめ合った。
「生まれ変わったら、物理法則を超えてレスティン・フェレスへ生まれ変わって見せる。先に行って、温めてやるよ」
「ディートリヒなら出来そうだな」
「ミランダも一緒だぜ」
「ええ、もちろんよ」
二人の熱い抱擁に、一行は呆れ果てている。この光景も、もう見納めとなる。
「ミランダさん。メアリーさんによろしく伝えていてね。故郷に帰ることになったってことにしてるとはいえ、あれから会えていないから。メアリーさんの鼻歌も、メアリーさんのことも大好きだよって」
「必ず伝えるわ。体に気を付けるのよ」
「うん。ミランダさんもね……」
再び抱きしめ合うマリアとミランダ。姉妹のようであり、親子のようでもあった二人の別れだ。
「ありがとう。ミランダさん。ディートリヒさん」
「ありがとうな。俺からも言わせてくれ。ディートリヒ、ミランダ」
ミランダは微笑みながら、ティナを手招きした。ティナが進み出ると、ミランダはティナに耳打ちした。
「マリアのこと、宜しくお願い致します。レイスお姉さま」
「はい。心得ました」
「寝ぐせを気にしているから、髪型アレンジもほどほどに伝えておいて。もっと落ち着いた髪型も、貴女には合うって」
「ふふふ。ご自分で伝えてもいいでしょうに。伝えておきますね」
「何よ、二人して楽しそうにして!」
マリアが加わり、三人は笑顔で笑いあう。これが最後であるなど、思えなかった。またきっと会える。そんな気がするのだ。
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