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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-9 白銀の天使の目覚め②
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セシュールの里の高台には、マリアだけではなく、ラウルとメイがいた。
「どうしたんだ、フリージアから聞いたが。呼び出しなんて」
「うん。早い方がいいかと思って」
「……レンの話か?」
レン。その名を呼ぶだけで、声が身体が震える。マリアは軽く頷いた後に、首を横に振った。
「半分はそうだけれど、半分は違うわ」
「何の話だ。……フリージアの話か?」
「はい。そうです」
メイが淡々と答える。メイは研究資料をアルベルトに手渡した。
「これは?」
「アンチ・ニミアゼルの拠点にあった資料です。あの後、ラウルと共に更なる回収に向かいました」
「……まだ拠点が残っていたのか」
「最後の拠点は破壊してきた。これは、メイやリェイラが居た拠点の資料だ」
「それで?」
「此処の記述を見て」
マリアの指さした場所には、確かに『ゲオルクの娘を保管している』とある。
「ゲオルクの娘って……まさか」
ラウルは強い口調で、その出来事を語った。
「フリージアを保護した時だ。あの子も、メイやリェイラのような施設に捕らわれていた孤児だと思っていた。だが、フリージアを見た瞬間に、レンが言ったんだ。ゲオルクと詩阿の娘だと」
「娘って、二人の前世は何年も前に……」
マリアはその後の記述を指さした。
「此処を見て。『ケーニヒスベルクによって、ゆりかごに送られた。彼女はエーテル欠乏症であり、治療を行う必要があり、昏睡状態のまま、ゆりかごに入れられた。』とあるわ」
「ゆりかごって、月の?」
「察しが早いな。そうだ。月のゆりかごだ。レスティン・フェレスの月は人工物で、様々な設備が整っている旧文明の残した遺産だ。その月に、フリージアはずっと眠っていたことになる」
「まさか、フリージアも人質として連れて来られていたと?」
マリアとラウルが同時に頷く。レンの反応から見ても、恐らく二人の娘なのだろう。ティニア化していたレンにとって、フリージアは自分の娘のような存在だったということか。
「ゲオルクの娘とあるが、フリージアはティニアではなく詩阿の娘ということか」
「そうなるわ。それでもレンは、ティニアとしてもレンとしても、フリージアを守ろうとしていたのよ」
「じゃあ、フリージアは……。レオンとティナの……」
「娘ということになるわね。二人とも、反応が可笑しかったもの。きっとそうなんだわ。どうして本当のことを言わないのかはわからないけれど」
まだ話していない秘密が、二人には在るのだろうか。それでも、全てを話さなければならないわけではない。例えそうであったとしても、フリージアにとっては知っておきたい事の筈だ。
「フリージアに、この話は?」
「してないわ。するのであれば、ちゃんと実の両親からがいいでしょう」
「……そうか。そうだな。マリアとラウル、そしてメイは、俺に二人を説得して欲しいということなんだな」
「ええ。あの白銀の力。あれはレスティン・フェレスの王族に備わる魔力だそうよ。レンが力を渡したというのが、ゲオルクという王族と詩阿という巫女だそうだから」
マリアは心配そうに里を見つめた。マリアにとって、レオンもティナも平穏に暮らしてほしいと思っていたのだ。もし、本当にフリージアが娘であるのなら、三人で暮らして欲しいと思うのは自然なことだ。
「それは、アドニスから聞いたのか?」
「ええ。そうよ。レンの力だから、魔法を教えやすいって言っていたわ」
「そうか」
そして、ポツリとアルベルトが言葉を零す。
「レンは、死んでしまったからな」
「アルベルト……」
「フリージアにとっても実の両親がいるのなら、転生体でも一緒にいるべきだ」
「そう、ね……」
アルベルトは胸から銀時計を取り出した。傷だらけの、レンの懐中時計だ。
「これから、どうするの?」
「戦艦を修理して、もう一度飛べないか見てみる。レスティン・フェレスに帰らなければ」
「何百年も掛けて?」
「そうだ。マリアはどうするんだ。ミュラーさんたちに連絡して、フローリストとしてやり直す事も出来るだろう」
やり直す。全てが終わった今だからこそ。やり直せるというのか。
レンが、ティニアがいないシュタインアムラインで。
「私は……」
マリアは俯き、呆然と立ち尽くした。その様子を見て、ラウルが今までになく優しく声をかけた。
「俺はアルベルト様についていく。お前は、ここでしたいことをしたらいい」
「でも、私は人造人間なの。人間とは違うのよ……」
「そのタウ族のミュラーたちが、なんとか手を打ってくれるんじゃないのか?」
「でも、私は……」
(私は、何がしたいのだろう。ここまで来て、何を)
マリアは天井を見つめた。ボーデン湖を映し出す美しい水面は、今日もコポコポと無数の泡を映し出している。
光が差し込み、美しいコントラストは里を青く、緑に映し出していた。
「どうしたんだ、フリージアから聞いたが。呼び出しなんて」
「うん。早い方がいいかと思って」
「……レンの話か?」
レン。その名を呼ぶだけで、声が身体が震える。マリアは軽く頷いた後に、首を横に振った。
「半分はそうだけれど、半分は違うわ」
「何の話だ。……フリージアの話か?」
「はい。そうです」
メイが淡々と答える。メイは研究資料をアルベルトに手渡した。
「これは?」
「アンチ・ニミアゼルの拠点にあった資料です。あの後、ラウルと共に更なる回収に向かいました」
「……まだ拠点が残っていたのか」
「最後の拠点は破壊してきた。これは、メイやリェイラが居た拠点の資料だ」
「それで?」
「此処の記述を見て」
マリアの指さした場所には、確かに『ゲオルクの娘を保管している』とある。
「ゲオルクの娘って……まさか」
ラウルは強い口調で、その出来事を語った。
「フリージアを保護した時だ。あの子も、メイやリェイラのような施設に捕らわれていた孤児だと思っていた。だが、フリージアを見た瞬間に、レンが言ったんだ。ゲオルクと詩阿の娘だと」
「娘って、二人の前世は何年も前に……」
マリアはその後の記述を指さした。
「此処を見て。『ケーニヒスベルクによって、ゆりかごに送られた。彼女はエーテル欠乏症であり、治療を行う必要があり、昏睡状態のまま、ゆりかごに入れられた。』とあるわ」
「ゆりかごって、月の?」
「察しが早いな。そうだ。月のゆりかごだ。レスティン・フェレスの月は人工物で、様々な設備が整っている旧文明の残した遺産だ。その月に、フリージアはずっと眠っていたことになる」
「まさか、フリージアも人質として連れて来られていたと?」
マリアとラウルが同時に頷く。レンの反応から見ても、恐らく二人の娘なのだろう。ティニア化していたレンにとって、フリージアは自分の娘のような存在だったということか。
「ゲオルクの娘とあるが、フリージアはティニアではなく詩阿の娘ということか」
「そうなるわ。それでもレンは、ティニアとしてもレンとしても、フリージアを守ろうとしていたのよ」
「じゃあ、フリージアは……。レオンとティナの……」
「娘ということになるわね。二人とも、反応が可笑しかったもの。きっとそうなんだわ。どうして本当のことを言わないのかはわからないけれど」
まだ話していない秘密が、二人には在るのだろうか。それでも、全てを話さなければならないわけではない。例えそうであったとしても、フリージアにとっては知っておきたい事の筈だ。
「フリージアに、この話は?」
「してないわ。するのであれば、ちゃんと実の両親からがいいでしょう」
「……そうか。そうだな。マリアとラウル、そしてメイは、俺に二人を説得して欲しいということなんだな」
「ええ。あの白銀の力。あれはレスティン・フェレスの王族に備わる魔力だそうよ。レンが力を渡したというのが、ゲオルクという王族と詩阿という巫女だそうだから」
マリアは心配そうに里を見つめた。マリアにとって、レオンもティナも平穏に暮らしてほしいと思っていたのだ。もし、本当にフリージアが娘であるのなら、三人で暮らして欲しいと思うのは自然なことだ。
「それは、アドニスから聞いたのか?」
「ええ。そうよ。レンの力だから、魔法を教えやすいって言っていたわ」
「そうか」
そして、ポツリとアルベルトが言葉を零す。
「レンは、死んでしまったからな」
「アルベルト……」
「フリージアにとっても実の両親がいるのなら、転生体でも一緒にいるべきだ」
「そう、ね……」
アルベルトは胸から銀時計を取り出した。傷だらけの、レンの懐中時計だ。
「これから、どうするの?」
「戦艦を修理して、もう一度飛べないか見てみる。レスティン・フェレスに帰らなければ」
「何百年も掛けて?」
「そうだ。マリアはどうするんだ。ミュラーさんたちに連絡して、フローリストとしてやり直す事も出来るだろう」
やり直す。全てが終わった今だからこそ。やり直せるというのか。
レンが、ティニアがいないシュタインアムラインで。
「私は……」
マリアは俯き、呆然と立ち尽くした。その様子を見て、ラウルが今までになく優しく声をかけた。
「俺はアルベルト様についていく。お前は、ここでしたいことをしたらいい」
「でも、私は人造人間なの。人間とは違うのよ……」
「そのタウ族のミュラーたちが、なんとか手を打ってくれるんじゃないのか?」
「でも、私は……」
(私は、何がしたいのだろう。ここまで来て、何を)
マリアは天井を見つめた。ボーデン湖を映し出す美しい水面は、今日もコポコポと無数の泡を映し出している。
光が差し込み、美しいコントラストは里を青く、緑に映し出していた。
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