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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-7 君と闘うということ⑥
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レンはアルベルト支えられながら、なんとか立ち上がると、黒龍を見据えた。
「お前が黒龍だな。お前がアルブレヒトを殺し、ゲートの在りかを探したのだろう。残念だったな。ゲートはもう無いよ」
レンの額からは、鮮血が流れ続けている。
「いいか、黒龍。お前がアルブレヒトにしたこと、アルベルトにしたことを、ボクは忘れない。決してね」
よろよろと前へ進もうとするレンを、必死でアルベルトが止める。
「辞めてくれ、レン……。もう、動かないでくれ、喋らないでくれ!」
「駄目だ、アルベルト。ボクはもう動かなくなるから」
レンは振り返ると、アルベルトを見つめた。
「ボクはもう、機械的にも人間的にも死んでいるよ。ただ、精霊みたいな力で動いてるだけ。もうそれも尽きる……」
「ッ……‼ そんな、レン……。俺は……」
「その姿、力を継承したんだね。偉いよ、怖かっただろうに」
「……いや、俺は……」
「マリア」
後方に控えていたマリアに向かって、レンは囁くように小さなか細い声で一生懸命話した。
「色々話せなくて、悪かった。ラーレ。君は強い子だ。大丈夫、なりたいものに成ると良い」
「レン、ううん。ティニア……。私、貴女に謝らなきゃいけない」
マリアは首を横に振った。
「ううん、違うわ。感謝しなくちゃいけない」
マリアは涙を流しながら、笑顔で答えた。
「ありがとう、ティニア。大好きよ。一番の友達なの……」
「ありがとう。マリア。僕も、君が好きだよ」
レンは笑顔で答えた。最後の別れだ。
「ラウル」
「レン……」
「皆と、仲良くね……」
「レン…………! 俺は……」
「仲良くできるよ。君なら出来るから。そう信じてね」
「ッ……‼」
ラウルは手で目を覆った。涙がその手から次々とあふれ出てくる。
「アドニス」
「はい、ここに。レン様」
アドニスはレンの傍で跪くと、その手にキスを乗せた。
「辛い役目をさせる。頼んだよ」
「はい。今までありがとうございました。レン様……」
「ううん。フルート、また吹いてね」
「はい」
レンはアドニスの頭を何度も撫でた。まるで母と子のように。
そのまま、ゆっくりと立ち上がる。
「アルベルト」
「…………」
「フリージアに、何もしてあげられなかったことを謝っておいて。そうだ、銀の懐中時計で、僕の槍を後で継承させてよ。フリージアなら、きっと扱える」
「何を言うんだ。これから帰って……、一緒に帰ろう! そうすれば、フリージアだって寂しくない」
「わかるでしょう。僕はもう、エーテルの残留思念で動いてるだけ。もうゾンビと変らないよ。すぐに尽きて動かなくなる。そうでしょう」
「レン……。悪かった、レスティン・フェレスに帰る事も出来ず、お前を置いて。記憶も、お前のことも忘れて……」
レンは首を横に振る。寂しそうに微笑みながら、アルベルトへ振り返った。涙こそ流していないものの、その表情からは悲しみが見える。
「仕方がないことだったんだろう。気にしていない」
「気にしてくれ!」
レンは驚いた表情を浮かべ、万遍の笑みを見せた。今までで一番の微笑みだった。
「アルベルト。君はレスティン・フェレスに帰るべきだ。地球に居てはいけない」
「わかった。帰る。……レンも一緒に……」
「そうだね。僕も、此処に居てはいけない身だね……」
「だったら……」
「だから。ここでお別れだ」
レンは更に笑みを浮かべる。涙を流しながら。
「黒龍は自分でゲートを作ろうとしていたの。それを僕がぶち壊して来る。大丈夫、ヘマはしない」
「レン……!」
「その為に、アドニスとラウルにここまで来てもらったの。ここからは、黒龍のゲートが近いからね」
「……⁉ なんで、どうして……。お前ばかりがそんな」
レンは背を向ける。
「待ってくれ、レン!」
「さよならだ。アルブレヒト」
「嫌だ! 待ってくれ、ティニア!」
レンは金色を纏い、大きな槍をその手から作り出した。
その槍を高らかに、黒龍影へ目掛けて突進していく。
空間から跳躍し、黒龍目掛けて槍を振りかぶる。
レンが槍を突き刺す。槍は轟雷を呼び込み、雷鳴の音が鳴り響いた。
それが黒龍の叫び声だったのかは、誰にもわからない。
やがて空が晴れ渡ると、小さな金色の光は薄れていき、ティニアに戻ったレンがそのまま落下していく。
「ティニア!」
アルベルトは駆け出し、その空間から飛び出した。
緋色の竜が天に現れ、その小さな人形を抱きしめながら急降下していく。
そのまま海面へ激突しようという直前、白銀の光が辺りを包み込んだ。
「駄目、二人を守るの!」
突然フリージアが二人の前に現れ、ふわりと光で、その腕で包み込む。二人は海面の激突を避けると共に、アルベルトはフリージアも抱き寄せながら、竜の力でそのまま上昇していった。
フリージアを含めた二人が、ふわりとアドニスの作った空間に降り立った時、アルベルトは竜から人へと姿を元に戻した。その腕には、ティニアに戻っていたレンを抱きかかえている。
レンは何も言わず、冷たく硬くなっていた。その表情は穏やかそのものだった。
レンは、死んでしまった。
「お前が黒龍だな。お前がアルブレヒトを殺し、ゲートの在りかを探したのだろう。残念だったな。ゲートはもう無いよ」
レンの額からは、鮮血が流れ続けている。
「いいか、黒龍。お前がアルブレヒトにしたこと、アルベルトにしたことを、ボクは忘れない。決してね」
よろよろと前へ進もうとするレンを、必死でアルベルトが止める。
「辞めてくれ、レン……。もう、動かないでくれ、喋らないでくれ!」
「駄目だ、アルベルト。ボクはもう動かなくなるから」
レンは振り返ると、アルベルトを見つめた。
「ボクはもう、機械的にも人間的にも死んでいるよ。ただ、精霊みたいな力で動いてるだけ。もうそれも尽きる……」
「ッ……‼ そんな、レン……。俺は……」
「その姿、力を継承したんだね。偉いよ、怖かっただろうに」
「……いや、俺は……」
「マリア」
後方に控えていたマリアに向かって、レンは囁くように小さなか細い声で一生懸命話した。
「色々話せなくて、悪かった。ラーレ。君は強い子だ。大丈夫、なりたいものに成ると良い」
「レン、ううん。ティニア……。私、貴女に謝らなきゃいけない」
マリアは首を横に振った。
「ううん、違うわ。感謝しなくちゃいけない」
マリアは涙を流しながら、笑顔で答えた。
「ありがとう、ティニア。大好きよ。一番の友達なの……」
「ありがとう。マリア。僕も、君が好きだよ」
レンは笑顔で答えた。最後の別れだ。
「ラウル」
「レン……」
「皆と、仲良くね……」
「レン…………! 俺は……」
「仲良くできるよ。君なら出来るから。そう信じてね」
「ッ……‼」
ラウルは手で目を覆った。涙がその手から次々とあふれ出てくる。
「アドニス」
「はい、ここに。レン様」
アドニスはレンの傍で跪くと、その手にキスを乗せた。
「辛い役目をさせる。頼んだよ」
「はい。今までありがとうございました。レン様……」
「ううん。フルート、また吹いてね」
「はい」
レンはアドニスの頭を何度も撫でた。まるで母と子のように。
そのまま、ゆっくりと立ち上がる。
「アルベルト」
「…………」
「フリージアに、何もしてあげられなかったことを謝っておいて。そうだ、銀の懐中時計で、僕の槍を後で継承させてよ。フリージアなら、きっと扱える」
「何を言うんだ。これから帰って……、一緒に帰ろう! そうすれば、フリージアだって寂しくない」
「わかるでしょう。僕はもう、エーテルの残留思念で動いてるだけ。もうゾンビと変らないよ。すぐに尽きて動かなくなる。そうでしょう」
「レン……。悪かった、レスティン・フェレスに帰る事も出来ず、お前を置いて。記憶も、お前のことも忘れて……」
レンは首を横に振る。寂しそうに微笑みながら、アルベルトへ振り返った。涙こそ流していないものの、その表情からは悲しみが見える。
「仕方がないことだったんだろう。気にしていない」
「気にしてくれ!」
レンは驚いた表情を浮かべ、万遍の笑みを見せた。今までで一番の微笑みだった。
「アルベルト。君はレスティン・フェレスに帰るべきだ。地球に居てはいけない」
「わかった。帰る。……レンも一緒に……」
「そうだね。僕も、此処に居てはいけない身だね……」
「だったら……」
「だから。ここでお別れだ」
レンは更に笑みを浮かべる。涙を流しながら。
「黒龍は自分でゲートを作ろうとしていたの。それを僕がぶち壊して来る。大丈夫、ヘマはしない」
「レン……!」
「その為に、アドニスとラウルにここまで来てもらったの。ここからは、黒龍のゲートが近いからね」
「……⁉ なんで、どうして……。お前ばかりがそんな」
レンは背を向ける。
「待ってくれ、レン!」
「さよならだ。アルブレヒト」
「嫌だ! 待ってくれ、ティニア!」
レンは金色を纏い、大きな槍をその手から作り出した。
その槍を高らかに、黒龍影へ目掛けて突進していく。
空間から跳躍し、黒龍目掛けて槍を振りかぶる。
レンが槍を突き刺す。槍は轟雷を呼び込み、雷鳴の音が鳴り響いた。
それが黒龍の叫び声だったのかは、誰にもわからない。
やがて空が晴れ渡ると、小さな金色の光は薄れていき、ティニアに戻ったレンがそのまま落下していく。
「ティニア!」
アルベルトは駆け出し、その空間から飛び出した。
緋色の竜が天に現れ、その小さな人形を抱きしめながら急降下していく。
そのまま海面へ激突しようという直前、白銀の光が辺りを包み込んだ。
「駄目、二人を守るの!」
突然フリージアが二人の前に現れ、ふわりと光で、その腕で包み込む。二人は海面の激突を避けると共に、アルベルトはフリージアも抱き寄せながら、竜の力でそのまま上昇していった。
フリージアを含めた二人が、ふわりとアドニスの作った空間に降り立った時、アルベルトは竜から人へと姿を元に戻した。その腕には、ティニアに戻っていたレンを抱きかかえている。
レンは何も言わず、冷たく硬くなっていた。その表情は穏やかそのものだった。
レンは、死んでしまった。
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