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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-6 君と闘うということ➄
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アドニスの魔法によって、アンチ・ニミアゼルの黒いローブを着た者たちが簡単に投げられ、空間外へ吹き飛ばされていく。
「まったく。攻撃魔法は使えないことになっているんですよ。はああ、ウインドブレス! ……マリア、アルベルトをこちらへ!」
「アルベルト、早く!」
それでも銃声が鳴り響き、銃弾はアルベルトだけではなく、マリアに目掛けて発射された。
ラウルがそれを、大きな剣で叩き落としていく。アルベルトが出した剣だ。
「急いでください!」
黒いローブの人間は次々と銃声を響かせていく。
アドニスは空間を捻じ曲げ、魔法によって、次々と人間たちを蹴散らしていく。
悍ましい程の叫び声がこだまし、次々と上空から突き飛ばされていく人間たち。
彼らの行く末に待つのは、死だけだ。
それでも、非人道的行為として子供たちを集め、人造人間に作り替えていた彼らの末路としては申し分ないだろう。
マリアは人間たちの叫び声を心に刻むように、レンを抱きかかえるアルベルトを守ろうと拳銃を構えた。
これだけでは済まされない。呆気ない彼らの最期は、こんな事では済まされていい筈が無いのだ。
自分たちが課せられてきた想いを、道を、彼らはどう思っていただろうか。否、どうも思ってなどいない。
「マリア……?」
アルベルトの呼びかけにも応じず、マリアは拳銃を構えたまま、目を虚ろにするとそのまま歩みだした。
「ラーレ止めろ!」
「どいて、ラウル。私が殺すわ。……こいつらのせいで、私たちは……」
そうだ。こいつらのせいだ。元はと言えば、こいつらの始めたことで、レンは、アルベルトは、ラウルは、ティナもレオンも……。
只では死なせない。
恐ろしい考えが、マリアの中に湧き出していた。
歩みだしたマリアの周囲からは、魔法陣が広がり、拳銃に呪文のような紋章が集められていくようだった。それは、レンを撃ったアルベルトの拳銃と同じ魔法だ。
「マリア……?」
「ラーレ、やめるんだ! どうしたって言うんだ!」
二人の呼びかけに何の反応も示さず、マリアは引き金を引いた。叫び声を上げ、一人のローブの男が血吹雪を上げ、その場に崩れ落ちた。
カチャリという音と共に、すぐに銃声が響き渡る。別の男がその場に倒れ、足を押さえて蹲る。その男の右肩を再びマリアは撃ち抜いた。
マリアの瞳は赤く、アルベルトのように燃え上がっていた。
「どうせ殺すんでしょう。だったら、私が殺すわ」
「マリアを止めるんだ!」
慌ててラウルがマリアを掴み、アドニスも駆け寄っていく。
「どうしたというんだ、ラーレ。止めるんだ!」
「ラウルばっかりずるいわ、何人も殺したんでしょう。私も殺したい」
「ラーレ?」
マリアは拳銃をラウルへ向けると引き金を引いた。ラウルのすぐそばを銃弾が過ぎ去り、ローブの男を撃ち抜いた。致命傷ではないものの、銃弾は見事に命中している。その場に崩れ落ちるローブの男に対し、マリアは笑みを浮かべる。
「殺してやるわ……。みぃんな殺してあげる。皆、あんたたち滅茶苦茶にされたのよ」
「やめろ、ラーレ!」
「なんでよ! 私だって、アイツらのことは……」
ラウルがマリアを抱きしめようとするが、マリアは狼狽えながらも、歯を食いしばってそれを拒絶しようとした。ラウルの手に込められた力が、マリアへと伝わっていく。ラウルの力であれば、マリアを強引に抱きしめる事も出来ただろうが、彼はそれをしない。
「辞めろ、マリア。お前に拳銃は似合わない!」
「離して。今更、何なのよ」
「そんなことをして、ティニアが悲しまないとでも思っているか!」
(ティニアが……?)
ラウルはレンではなく、ティニアと呼び掛けながらマリアを強く抱きしめた。
「お前が辛かったことは、皆がわかっている! ここは引いてくれ、マリア」
「でも、だって……。わたし、わたしもう、ひとをうってしまった」
マリアの手が震えだし、拳銃が音を立てて落ちた。浮かび上がった呪文のような紋章は消え、ただの拳銃が転がる。
「何を言っている。全部急所を外しているだろう!」
「だって、もっと苦しんで死ぬべきだと思って……」
「そうじゃない。わかっているだろう? まだ戻れる、マリア……。君に殺人などさせられない。レンだって、そんなことを望んではいなかった! だからこそ、スイスへ入る際に君を連れていくことに決めたんだ。レンは、マリアのことをとても心配していた! まだ、戻れる!」
「あ……あぁ…………」
ラウルの腕の中で、マリアは泣き出してしまった。アドニスは結界を張ると一気にアンチ・ニミアゼルの人間を蹴散らし、外へと追い出すことに成功した。
「まったく、マリア……。大丈夫ですか」
「う……ううぅ……」
「まだ油断しないでください、黒龍が見ている!」
アルベルトと同じ赤い瞳をこちらで睨みながら、黒龍はまだそこに佇んでいた。
「黒龍! どうしてこんなことをしたんだ! 教えてくれ、お前も竜なんだろう!?」
黒龍と思しき影は何も言わない。無言でそこに在り続けている。
アルベルトはレンを抱く腕に力を入れる。レンはもうすぐ、冷たく、硬くなっていくだろう。止めはさせていない。苦しませるだけだ。
アルベルトはレンを見下ろす。男の腕の中で浅い呼吸を繰り返しながら、レンの瞳がぼんやりと開いていく。
「レン……」
「殺ス……さなければ…………ああ……。違う、違う……」
「レン、もう辞めてくれ。頼む、もう……」
「……あ、アルブレヒト」
時が止まったような気がした。いや、この時で止まればよかったのだ。
レンがアルベルトの腕に力なく触れ、笑みを浮かべている。
「……レン?」
「……よくやってくれたね、アルベルト…………」
「レン!」
アルベルトの様子に、泣きじゃくっていたマリアも、抱きしめていたラウルも血相を変えて近づく。
「レン⁉」
「レン、大丈夫なのか⁉」
「……マリア、ラウル…………。ごめんね」
「レン!」
レンはよろよろと立ち上がろうと、力を入れた。アルベルトが体を支えながら、レンを立ち上がらせていく。
「ああ、漸くこの目で見ることが出来たよ、黒龍……」
「レン……?」
「レン様、その姿は……」
アドニスの言葉に、一行はレンを見つめた。
レンは立ち上がる瞬間で、服装はそのままに髪は長く長髪が白銀に染まり、瞳は金色で右眼が隻眼であった。
「黒龍、お前を、ボクは許さない……」
「まったく。攻撃魔法は使えないことになっているんですよ。はああ、ウインドブレス! ……マリア、アルベルトをこちらへ!」
「アルベルト、早く!」
それでも銃声が鳴り響き、銃弾はアルベルトだけではなく、マリアに目掛けて発射された。
ラウルがそれを、大きな剣で叩き落としていく。アルベルトが出した剣だ。
「急いでください!」
黒いローブの人間は次々と銃声を響かせていく。
アドニスは空間を捻じ曲げ、魔法によって、次々と人間たちを蹴散らしていく。
悍ましい程の叫び声がこだまし、次々と上空から突き飛ばされていく人間たち。
彼らの行く末に待つのは、死だけだ。
それでも、非人道的行為として子供たちを集め、人造人間に作り替えていた彼らの末路としては申し分ないだろう。
マリアは人間たちの叫び声を心に刻むように、レンを抱きかかえるアルベルトを守ろうと拳銃を構えた。
これだけでは済まされない。呆気ない彼らの最期は、こんな事では済まされていい筈が無いのだ。
自分たちが課せられてきた想いを、道を、彼らはどう思っていただろうか。否、どうも思ってなどいない。
「マリア……?」
アルベルトの呼びかけにも応じず、マリアは拳銃を構えたまま、目を虚ろにするとそのまま歩みだした。
「ラーレ止めろ!」
「どいて、ラウル。私が殺すわ。……こいつらのせいで、私たちは……」
そうだ。こいつらのせいだ。元はと言えば、こいつらの始めたことで、レンは、アルベルトは、ラウルは、ティナもレオンも……。
只では死なせない。
恐ろしい考えが、マリアの中に湧き出していた。
歩みだしたマリアの周囲からは、魔法陣が広がり、拳銃に呪文のような紋章が集められていくようだった。それは、レンを撃ったアルベルトの拳銃と同じ魔法だ。
「マリア……?」
「ラーレ、やめるんだ! どうしたって言うんだ!」
二人の呼びかけに何の反応も示さず、マリアは引き金を引いた。叫び声を上げ、一人のローブの男が血吹雪を上げ、その場に崩れ落ちた。
カチャリという音と共に、すぐに銃声が響き渡る。別の男がその場に倒れ、足を押さえて蹲る。その男の右肩を再びマリアは撃ち抜いた。
マリアの瞳は赤く、アルベルトのように燃え上がっていた。
「どうせ殺すんでしょう。だったら、私が殺すわ」
「マリアを止めるんだ!」
慌ててラウルがマリアを掴み、アドニスも駆け寄っていく。
「どうしたというんだ、ラーレ。止めるんだ!」
「ラウルばっかりずるいわ、何人も殺したんでしょう。私も殺したい」
「ラーレ?」
マリアは拳銃をラウルへ向けると引き金を引いた。ラウルのすぐそばを銃弾が過ぎ去り、ローブの男を撃ち抜いた。致命傷ではないものの、銃弾は見事に命中している。その場に崩れ落ちるローブの男に対し、マリアは笑みを浮かべる。
「殺してやるわ……。みぃんな殺してあげる。皆、あんたたち滅茶苦茶にされたのよ」
「やめろ、ラーレ!」
「なんでよ! 私だって、アイツらのことは……」
ラウルがマリアを抱きしめようとするが、マリアは狼狽えながらも、歯を食いしばってそれを拒絶しようとした。ラウルの手に込められた力が、マリアへと伝わっていく。ラウルの力であれば、マリアを強引に抱きしめる事も出来ただろうが、彼はそれをしない。
「辞めろ、マリア。お前に拳銃は似合わない!」
「離して。今更、何なのよ」
「そんなことをして、ティニアが悲しまないとでも思っているか!」
(ティニアが……?)
ラウルはレンではなく、ティニアと呼び掛けながらマリアを強く抱きしめた。
「お前が辛かったことは、皆がわかっている! ここは引いてくれ、マリア」
「でも、だって……。わたし、わたしもう、ひとをうってしまった」
マリアの手が震えだし、拳銃が音を立てて落ちた。浮かび上がった呪文のような紋章は消え、ただの拳銃が転がる。
「何を言っている。全部急所を外しているだろう!」
「だって、もっと苦しんで死ぬべきだと思って……」
「そうじゃない。わかっているだろう? まだ戻れる、マリア……。君に殺人などさせられない。レンだって、そんなことを望んではいなかった! だからこそ、スイスへ入る際に君を連れていくことに決めたんだ。レンは、マリアのことをとても心配していた! まだ、戻れる!」
「あ……あぁ…………」
ラウルの腕の中で、マリアは泣き出してしまった。アドニスは結界を張ると一気にアンチ・ニミアゼルの人間を蹴散らし、外へと追い出すことに成功した。
「まったく、マリア……。大丈夫ですか」
「う……ううぅ……」
「まだ油断しないでください、黒龍が見ている!」
アルベルトと同じ赤い瞳をこちらで睨みながら、黒龍はまだそこに佇んでいた。
「黒龍! どうしてこんなことをしたんだ! 教えてくれ、お前も竜なんだろう!?」
黒龍と思しき影は何も言わない。無言でそこに在り続けている。
アルベルトはレンを抱く腕に力を入れる。レンはもうすぐ、冷たく、硬くなっていくだろう。止めはさせていない。苦しませるだけだ。
アルベルトはレンを見下ろす。男の腕の中で浅い呼吸を繰り返しながら、レンの瞳がぼんやりと開いていく。
「レン……」
「殺ス……さなければ…………ああ……。違う、違う……」
「レン、もう辞めてくれ。頼む、もう……」
「……あ、アルブレヒト」
時が止まったような気がした。いや、この時で止まればよかったのだ。
レンがアルベルトの腕に力なく触れ、笑みを浮かべている。
「……レン?」
「……よくやってくれたね、アルベルト…………」
「レン!」
アルベルトの様子に、泣きじゃくっていたマリアも、抱きしめていたラウルも血相を変えて近づく。
「レン⁉」
「レン、大丈夫なのか⁉」
「……マリア、ラウル…………。ごめんね」
「レン!」
レンはよろよろと立ち上がろうと、力を入れた。アルベルトが体を支えながら、レンを立ち上がらせていく。
「ああ、漸くこの目で見ることが出来たよ、黒龍……」
「レン……?」
「レン様、その姿は……」
アドニスの言葉に、一行はレンを見つめた。
レンは立ち上がる瞬間で、服装はそのままに髪は長く長髪が白銀に染まり、瞳は金色で右眼が隻眼であった。
「黒龍、お前を、ボクは許さない……」
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