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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-5 君と闘うということ④
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レンは軽やかに後方へ飛ぶと、すぐにアルベルトへ向かって駆け込んできた。その刹那でアルベルトまでの間合いを詰め、一気に畳み掛ける。アルベルトはぎりぎりを避けると、レンへ向かて魔法の炎の玉を突き出した。
レンはそれを避けることなく頭で受けると、そのままギリギリと音を鳴らしながら、アルベルトへ向かってくる。
「殺ス……」
「アルベルト、避けて!」
怯んだアルベルトが攻撃を受けようとした瞬間、ラウルが飛び出し、その一撃を喰らった。ラウルはけたたましい音を鳴らしながら、壁へ激突した。
空間を維持していた筈のアドニスまでもが、その衝撃で胸を掴む。
「グッ…………」
「アドニスさん!」
マリアはレンへ駆け出し、拳銃を向けるがレンが避けようとせずに向かってくるのを見て怯んでしまう。
「マリア!」
アルベルトが渾身の一撃を放ち、それはレンへ命中した。レンは腰から崩れ落ち、口から鮮血を散らした。
「が……。殺セ、皇子ヲ殺ス……」
レンは右手があらぬ方向へ曲がっていることなども物ともせず、再びアルベルト目掛けて突進してきた。アルベルトはそのレンの動きを止めるように、レンを掴むと必死で呼び掛けた。
「レン! 思い出してくれ、レン!」
「死ネ……殺サナケレバ……」
「レン‼」
レンは後方へ飛ぶと、その歪んだ空間の亀裂に気付いてしまう。
「いけない!」
アドニスの呼び声より早く、レンはその亀裂へ一撃を入れると、空間の外へ飛び出した。
「不味い! 外には人間が!」
ラウルの声に、アルベルトは跳躍すると、そのまま空間の外へ飛び出し、レンを追った。
「レン! 俺はここだ! 俺を殺すんだろう!」
アルベルトの叫びに、レンは応えるかのように軽やかに空へと戻ってきた。そして、ハルツ山脈の上空でアルベルトと再び対峙することになった。アルベルトはレンの攻撃を躱しつつ、レンを空間へと誘い込んだ。レンはアルベルトに誘われる形で、二人は再びアドニスの空間へと戻ってきた。
魔法を一瞬で唱えるアルベルトだったが、レンは簡単にそれを躱してしまう。
「コアを狙ってください!!」
アドニスの言葉に、アルベルトが歯を食いしばる。
「コアをぶち抜くしかありません! 我々もサポートします!」
「手を出すな!」
アルベルトはアドニスを止めると、そのままレンへ向かった。レンは虚ろいだ瞳でアルベルトを見据えたまま、突進してくる。
「レン……。知っているか」
アルベルトはレンの攻撃を躱しながら、その愛しい首元に触れた。一瞬でレンを抱き寄せると、アルベルトは額に拳銃を突き付けた。
その表情は泣いているようで、笑っている。
拳銃に魔法陣が現れ、拳銃に魔力が込められていく。
引き金が引かれた。
ガツンという、冷たい音が響いた。
それは一瞬であった。レンの額からは血がしたたり落ち、内側にはビリビリと電撃が走っているのが見える。
アルベルトにとって、音はなかった。ただ、目の前の愛しい存在が動かなくなっていくのを、ただただ見ているだけだった。
レンはアルベルトを見つめたまま、その瞳が閉じられていく。
「レン‼」
レンはぐったりとその場に崩れ落ち、支えるアルベルトもまた、力なくその場に崩れ落ちていく。
「アルブレヒト様、意思をしっかり持ってください。暴走してはダメだ!」
ラウルの絶叫が響く。そうだ、これで終わりではないのだ。マリアは慌てて二人に駆け寄るが、アルベルトは涙を流したまま動かない。
「アルベルト……」
レンは、辛うじてまた動いていた。それでもコアは完璧に破壊されており、もう壊れていくだけなのがわかる。
「……ティニア。私よ、マリアよ……。わからない?」
マリアの言葉に、アルベルトから無数の涙が零れ落ちる。
「ティニア、わかるか? 俺だ、アルベルトだ!」
二人の呼びかけに、レンは何も答えない。虚ろな瞳のまま、短い呼吸を繰り返すだけだ。黒い靄が大きく聳え立ち、渦巻いていただけの雲から覗き込んでいた。
「皆、上を!」
マリアの叫び声に、ラウル、そしてアドニスだけでなくアルベルトも上空を見上げた。そこには黒龍と思しき存在がこちらを覗いている。黒龍もまた、空間を捻じ曲げて見ているようだった。
「お前が……黒龍…………」
アルベルトの言葉に、黒龍は微動だにしない。動かなくなったレンを見つめているだけだ。
「お前らのせいで、レンは……‼ レンは!」
ラウルの言葉に、黒龍は眼を閉じた。その瞬間、複数人の不気味な黒いローブを着た人間が何体も現れたのだ。
「お前ら、アンチ・ニミアゼルの……」
「なんだって⁉」
「間違いない、奴らだ! アンチ・ニミアゼルです! アルブレヒト様、逃げてください‼」
一斉にアルベルトへ銃口を向ける彼らの前に、マリアが立ちはだかる。アルベルトはレンを抱えている為、身動きが取れないのだ。
「させない!」
「マリア!」
すぐにアンチ・ニミアゼルの複数人が次々風によって押し倒され、叫び声をあげながら絶叫していく。そのまま、空間外へ突き飛ばされ、そのまま落下していく。
風魔法を唱えたのは、アドニスだった。
レンはそれを避けることなく頭で受けると、そのままギリギリと音を鳴らしながら、アルベルトへ向かってくる。
「殺ス……」
「アルベルト、避けて!」
怯んだアルベルトが攻撃を受けようとした瞬間、ラウルが飛び出し、その一撃を喰らった。ラウルはけたたましい音を鳴らしながら、壁へ激突した。
空間を維持していた筈のアドニスまでもが、その衝撃で胸を掴む。
「グッ…………」
「アドニスさん!」
マリアはレンへ駆け出し、拳銃を向けるがレンが避けようとせずに向かってくるのを見て怯んでしまう。
「マリア!」
アルベルトが渾身の一撃を放ち、それはレンへ命中した。レンは腰から崩れ落ち、口から鮮血を散らした。
「が……。殺セ、皇子ヲ殺ス……」
レンは右手があらぬ方向へ曲がっていることなども物ともせず、再びアルベルト目掛けて突進してきた。アルベルトはそのレンの動きを止めるように、レンを掴むと必死で呼び掛けた。
「レン! 思い出してくれ、レン!」
「死ネ……殺サナケレバ……」
「レン‼」
レンは後方へ飛ぶと、その歪んだ空間の亀裂に気付いてしまう。
「いけない!」
アドニスの呼び声より早く、レンはその亀裂へ一撃を入れると、空間の外へ飛び出した。
「不味い! 外には人間が!」
ラウルの声に、アルベルトは跳躍すると、そのまま空間の外へ飛び出し、レンを追った。
「レン! 俺はここだ! 俺を殺すんだろう!」
アルベルトの叫びに、レンは応えるかのように軽やかに空へと戻ってきた。そして、ハルツ山脈の上空でアルベルトと再び対峙することになった。アルベルトはレンの攻撃を躱しつつ、レンを空間へと誘い込んだ。レンはアルベルトに誘われる形で、二人は再びアドニスの空間へと戻ってきた。
魔法を一瞬で唱えるアルベルトだったが、レンは簡単にそれを躱してしまう。
「コアを狙ってください!!」
アドニスの言葉に、アルベルトが歯を食いしばる。
「コアをぶち抜くしかありません! 我々もサポートします!」
「手を出すな!」
アルベルトはアドニスを止めると、そのままレンへ向かった。レンは虚ろいだ瞳でアルベルトを見据えたまま、突進してくる。
「レン……。知っているか」
アルベルトはレンの攻撃を躱しながら、その愛しい首元に触れた。一瞬でレンを抱き寄せると、アルベルトは額に拳銃を突き付けた。
その表情は泣いているようで、笑っている。
拳銃に魔法陣が現れ、拳銃に魔力が込められていく。
引き金が引かれた。
ガツンという、冷たい音が響いた。
それは一瞬であった。レンの額からは血がしたたり落ち、内側にはビリビリと電撃が走っているのが見える。
アルベルトにとって、音はなかった。ただ、目の前の愛しい存在が動かなくなっていくのを、ただただ見ているだけだった。
レンはアルベルトを見つめたまま、その瞳が閉じられていく。
「レン‼」
レンはぐったりとその場に崩れ落ち、支えるアルベルトもまた、力なくその場に崩れ落ちていく。
「アルブレヒト様、意思をしっかり持ってください。暴走してはダメだ!」
ラウルの絶叫が響く。そうだ、これで終わりではないのだ。マリアは慌てて二人に駆け寄るが、アルベルトは涙を流したまま動かない。
「アルベルト……」
レンは、辛うじてまた動いていた。それでもコアは完璧に破壊されており、もう壊れていくだけなのがわかる。
「……ティニア。私よ、マリアよ……。わからない?」
マリアの言葉に、アルベルトから無数の涙が零れ落ちる。
「ティニア、わかるか? 俺だ、アルベルトだ!」
二人の呼びかけに、レンは何も答えない。虚ろな瞳のまま、短い呼吸を繰り返すだけだ。黒い靄が大きく聳え立ち、渦巻いていただけの雲から覗き込んでいた。
「皆、上を!」
マリアの叫び声に、ラウル、そしてアドニスだけでなくアルベルトも上空を見上げた。そこには黒龍と思しき存在がこちらを覗いている。黒龍もまた、空間を捻じ曲げて見ているようだった。
「お前が……黒龍…………」
アルベルトの言葉に、黒龍は微動だにしない。動かなくなったレンを見つめているだけだ。
「お前らのせいで、レンは……‼ レンは!」
ラウルの言葉に、黒龍は眼を閉じた。その瞬間、複数人の不気味な黒いローブを着た人間が何体も現れたのだ。
「お前ら、アンチ・ニミアゼルの……」
「なんだって⁉」
「間違いない、奴らだ! アンチ・ニミアゼルです! アルブレヒト様、逃げてください‼」
一斉にアルベルトへ銃口を向ける彼らの前に、マリアが立ちはだかる。アルベルトはレンを抱えている為、身動きが取れないのだ。
「させない!」
「マリア!」
すぐにアンチ・ニミアゼルの複数人が次々風によって押し倒され、叫び声をあげながら絶叫していく。そのまま、空間外へ突き飛ばされ、そのまま落下していく。
風魔法を唱えたのは、アドニスだった。
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