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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-3 君と闘うということ②
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マリアは広場に集まった一同を前に、レンの討伐とは言わなかった。
「まず、今のレンの様子から。ラウルお願い」
「……レンは今眠っている。システム系統でトラブルを起こし、一時的にシャットダウンしているだけだ。その、気を失って眠っているだけに近い。すぐに目覚めるだろう。居場所は教えられない」
ラウルはアルベルトを見つめながら、最後の言葉を話した。アルベルトはその言葉を受け入れ、頷いた。
「アドニスさん、レンを止める方法は?」
「ありません。止めるというのが、レン様を殺すということでない以上、止めることは出来ないというしかありません」
「レオン先生も同意見?」
「……そうですね。一度ウイルスに侵された機械は、二度と元には戻りません。その為に、様々なセキュリティ対策をしているのです」
ティナが重苦しい表情を浮かべる。ティナがかつて侵されていたウイルスなのだ。そのウイルスに耐えきれず、彼女は爆散した。彼女の恐怖は計り知れないだろう。マリアはそんなティナと目が合うのを待って、ティナの意見を求めた。
「大丈夫? ……ティナの意見が聞きたいの」
「……はい。抗えない命令が常に頭に流れており、抗うのは困難でした。自爆システムがない以上、レンを止める手立ては……」
ティナが視線を逸らしていく。レンを殺さなければいけない事は、現実となっていく。
「つまり、レンを止める手立てはなく。本当に殺すしかないということなのね」
マリアの言葉に、フリージアを含めた子供たちが身構える。どうする事も出来ないのか。
「記憶を見てきたアルベルトに聞くわ。何かわかったことはある?」
「……レンの死後に、俺が暴走した場合。俺が地球を破壊しつくして力尽きた所で、アンチ・ニミアゼルがゲートのありかを聞き出しに来るのではないかということを心配していた。話すことが出来たのは、レンの残留思念、エーテルの記憶と会話出来たからだ。レン本人じゃない……」
アルベルトの言葉に、ラウルが補足を加える。
「そうだな、俺はアンチ・ニミアゼルの全員を始末で来たわけじゃない……。だが、里の居場所まではわからないはずだ。奴ら、スイス国はおろか、この戦艦の周囲には近づけない。レンの敷いた結界があるからだ」
「もう、俺がやるしかない」
アルベルトの言葉に、一同は息を飲んだ。
「レンを……」
「言わなくてもいいわ、アルベルト……」
「どうせ、放っておいても俺を殺しに来るんだろう。その時に……」
「問題は闘う場所ですね」
一同の視線をアドニスが集めた。アドニスは細目を一層細めると、当たり前のような顔をしながら、一同を見つめ返した。
「竜が戦う所を、一般人に見られでもしたらどうする気だったのですか?」
「それは、そうだが……」
「そもそも、アルベルトはまだ力の継承を行っていないようですが、本当にやる気があるのですか」
「…………」
「ぐだぐだと、いつまでも闘わなくて済む方法を考えるのはいいですが。レン様は今も苦しんでいるのです。魔法で空間を作りますから、そこで闘っていただけますか。地球への影響も考えなくてはいけません」
アドニスは大きなため息を吐き出すと、一同を見つめた。
「ラウルも、あんなに切羽詰まっていたというのに。一体どうしたというのですか」
「それは……」
「レン様を救う手立てはありません。早く殺して差し上げるのが、せめて救いというものです。生ぬるいことを考えていては、勝てません。こちらに死人が出るというものです。それでもいいのですか?」
「そうだな。アドニス。お前の辛さも感じ取れず、悪かった……」
アルベルトの言葉に、アドニスは視線を逸らした。そう、アドニスも辛いのだ。
「力の継承を行う。行えば、アンチ・ニミアゼルや黒龍に知られる恐れがある。レンを殺すのは、時間を置くわけにはいかない」
レンを殺す。アルベルトの声は震えていた。
「記憶を全て継承するだけだ。やり方は思い出している」
「え、ここでするの?」
「どこでも出来るが、場所を変えようか?」
「ううん。ここでいいわ。見守ってる」
マリアの言葉に、アルベルト何度も頷いた。アルベルトはフリージアの握る小さな手を優しく撫でると、心配そうにその手をゆっくりと放した。フリージアの手が離れたところで、アルベルトは銀の懐中時計を取り出した。傷の少ない、前世アルブレヒト皇子の銀時計だ。
「我を求め、我を感じよ。我は汝である」
風が靡き、アルベルトに吸い込まれていくかのようだった。エーテルが騒めき、エーテルが強く呼応している。
「我は目覚める。緋竜アルブレヒトの力よ、今ここに」
コポコポとボーデン湖の水面が湧きたち、異常なほどの水滴が天を覆いつくした。アルベルトが赤く光り輝いた瞬間、眩く光がセシュールの里にさく裂した。
マリアたちが目を見開いた瞬間、アルブレヒトの髪は長く逆立っていた。そこに居たのは紛れもなくアルベルトであったが、竜の力を継承していることは一目瞭然であった。
変化は髪型だけではない、目力から全てが弱弱しかったアルベルトではなくなってしまった。
そこに居たのは、緋竜アルブレヒトが人に化けただけの姿だ。
「アルベルト……?」
マリアの呼びかけに、アルベルトが答える。
「大丈夫だ、マリア。力の継承は成ったよ」
力強い声だった。
「本当に大丈夫? どこか、痛いところとか……」
「大丈夫だ」
そんなアルベルトを前に、フリージアと心配そうに見つめている。それでも、アルベルトのやるべきことは変わらない。
「ラウル、案内してしてくれ。レンの場所に」
ラウルは一瞬たじろいだものの、すぐに跪いて見せた。
「はい、アルブレヒト様……」
すぐにその横へ、ティナが跪く。
「アルブレヒト様、どうかお気を付けて……。いっそ私も……」
「ティナさんは此処に居てください」
「アルブレヒト様……」
「マリア、ついてきてくれるか」
「もちろんよ」
「アドニス、連絡がいくまで魔法で空間を歪めておいてくれ。そこでレンを討つ」
アドニスが頷いた瞬間、フリージアが歩み出たものの、すぐに足は止まってしまった。そんなフリージアをゆっくりと抱き寄せると、アルベルトはギュッと抱きしめた。それは、レンを抱きしめたかったかのように、強く抱きしめられた。
「フリージア。行ってくるよ」
「……はい」
「私が傍についております」
メイの言葉に、アルベルトは頼もしそうに頷いた。
「お願いする。行こう、ラウル、マリア」
洞窟へ向かう三人を、フリージアは姿が見えなくなるまで目で追い、見えなくなるとその場に力尽き、足から崩れ落ちてしまった。
「まず、今のレンの様子から。ラウルお願い」
「……レンは今眠っている。システム系統でトラブルを起こし、一時的にシャットダウンしているだけだ。その、気を失って眠っているだけに近い。すぐに目覚めるだろう。居場所は教えられない」
ラウルはアルベルトを見つめながら、最後の言葉を話した。アルベルトはその言葉を受け入れ、頷いた。
「アドニスさん、レンを止める方法は?」
「ありません。止めるというのが、レン様を殺すということでない以上、止めることは出来ないというしかありません」
「レオン先生も同意見?」
「……そうですね。一度ウイルスに侵された機械は、二度と元には戻りません。その為に、様々なセキュリティ対策をしているのです」
ティナが重苦しい表情を浮かべる。ティナがかつて侵されていたウイルスなのだ。そのウイルスに耐えきれず、彼女は爆散した。彼女の恐怖は計り知れないだろう。マリアはそんなティナと目が合うのを待って、ティナの意見を求めた。
「大丈夫? ……ティナの意見が聞きたいの」
「……はい。抗えない命令が常に頭に流れており、抗うのは困難でした。自爆システムがない以上、レンを止める手立ては……」
ティナが視線を逸らしていく。レンを殺さなければいけない事は、現実となっていく。
「つまり、レンを止める手立てはなく。本当に殺すしかないということなのね」
マリアの言葉に、フリージアを含めた子供たちが身構える。どうする事も出来ないのか。
「記憶を見てきたアルベルトに聞くわ。何かわかったことはある?」
「……レンの死後に、俺が暴走した場合。俺が地球を破壊しつくして力尽きた所で、アンチ・ニミアゼルがゲートのありかを聞き出しに来るのではないかということを心配していた。話すことが出来たのは、レンの残留思念、エーテルの記憶と会話出来たからだ。レン本人じゃない……」
アルベルトの言葉に、ラウルが補足を加える。
「そうだな、俺はアンチ・ニミアゼルの全員を始末で来たわけじゃない……。だが、里の居場所まではわからないはずだ。奴ら、スイス国はおろか、この戦艦の周囲には近づけない。レンの敷いた結界があるからだ」
「もう、俺がやるしかない」
アルベルトの言葉に、一同は息を飲んだ。
「レンを……」
「言わなくてもいいわ、アルベルト……」
「どうせ、放っておいても俺を殺しに来るんだろう。その時に……」
「問題は闘う場所ですね」
一同の視線をアドニスが集めた。アドニスは細目を一層細めると、当たり前のような顔をしながら、一同を見つめ返した。
「竜が戦う所を、一般人に見られでもしたらどうする気だったのですか?」
「それは、そうだが……」
「そもそも、アルベルトはまだ力の継承を行っていないようですが、本当にやる気があるのですか」
「…………」
「ぐだぐだと、いつまでも闘わなくて済む方法を考えるのはいいですが。レン様は今も苦しんでいるのです。魔法で空間を作りますから、そこで闘っていただけますか。地球への影響も考えなくてはいけません」
アドニスは大きなため息を吐き出すと、一同を見つめた。
「ラウルも、あんなに切羽詰まっていたというのに。一体どうしたというのですか」
「それは……」
「レン様を救う手立てはありません。早く殺して差し上げるのが、せめて救いというものです。生ぬるいことを考えていては、勝てません。こちらに死人が出るというものです。それでもいいのですか?」
「そうだな。アドニス。お前の辛さも感じ取れず、悪かった……」
アルベルトの言葉に、アドニスは視線を逸らした。そう、アドニスも辛いのだ。
「力の継承を行う。行えば、アンチ・ニミアゼルや黒龍に知られる恐れがある。レンを殺すのは、時間を置くわけにはいかない」
レンを殺す。アルベルトの声は震えていた。
「記憶を全て継承するだけだ。やり方は思い出している」
「え、ここでするの?」
「どこでも出来るが、場所を変えようか?」
「ううん。ここでいいわ。見守ってる」
マリアの言葉に、アルベルト何度も頷いた。アルベルトはフリージアの握る小さな手を優しく撫でると、心配そうにその手をゆっくりと放した。フリージアの手が離れたところで、アルベルトは銀の懐中時計を取り出した。傷の少ない、前世アルブレヒト皇子の銀時計だ。
「我を求め、我を感じよ。我は汝である」
風が靡き、アルベルトに吸い込まれていくかのようだった。エーテルが騒めき、エーテルが強く呼応している。
「我は目覚める。緋竜アルブレヒトの力よ、今ここに」
コポコポとボーデン湖の水面が湧きたち、異常なほどの水滴が天を覆いつくした。アルベルトが赤く光り輝いた瞬間、眩く光がセシュールの里にさく裂した。
マリアたちが目を見開いた瞬間、アルブレヒトの髪は長く逆立っていた。そこに居たのは紛れもなくアルベルトであったが、竜の力を継承していることは一目瞭然であった。
変化は髪型だけではない、目力から全てが弱弱しかったアルベルトではなくなってしまった。
そこに居たのは、緋竜アルブレヒトが人に化けただけの姿だ。
「アルベルト……?」
マリアの呼びかけに、アルベルトが答える。
「大丈夫だ、マリア。力の継承は成ったよ」
力強い声だった。
「本当に大丈夫? どこか、痛いところとか……」
「大丈夫だ」
そんなアルベルトを前に、フリージアと心配そうに見つめている。それでも、アルベルトのやるべきことは変わらない。
「ラウル、案内してしてくれ。レンの場所に」
ラウルは一瞬たじろいだものの、すぐに跪いて見せた。
「はい、アルブレヒト様……」
すぐにその横へ、ティナが跪く。
「アルブレヒト様、どうかお気を付けて……。いっそ私も……」
「ティナさんは此処に居てください」
「アルブレヒト様……」
「マリア、ついてきてくれるか」
「もちろんよ」
「アドニス、連絡がいくまで魔法で空間を歪めておいてくれ。そこでレンを討つ」
アドニスが頷いた瞬間、フリージアが歩み出たものの、すぐに足は止まってしまった。そんなフリージアをゆっくりと抱き寄せると、アルベルトはギュッと抱きしめた。それは、レンを抱きしめたかったかのように、強く抱きしめられた。
「フリージア。行ってくるよ」
「……はい」
「私が傍についております」
メイの言葉に、アルベルトは頼もしそうに頷いた。
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