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第15輪「緋色の目覚め」
⑮-2 君と闘うということ①
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マリアたちは広場に集まっていた。見覚えのない、者が一人増えている。ティナの隣で親しそうに話す彼女を、アルベルトは機械人形であること即座に見抜いた。マリアはすぐにアルベルトに気付き、その美しい朱色の髪を靡かせながら振り返った。
「アルベルト……。記憶は継承出来たの?」
「ああ。問題ないよ。マリア、その人は?」
「M-EIよ。彼女はメイ」
「……お初にお目にかかります。私は」
「機械人形だろう。わかるよ」
アルベルトは警戒するわけもなくメイに近づくと、握手を求めた。メイは驚き、その手をじっと見つめる。握手すべきか迷っているようだ。
「そんなに緊張しなくていい。俺はアルベルト。メイ、よろしく」
「よろしくお願い致します、アルベルトさん」
メイはアルベルトと握手を交わすと、その手を不思議そうに眺めていた。アルベルトは笑みを浮かべながら、メイに優しく声をかけた。
「そう畏まらなくていい。握手なんて、普通だろ」
「私を恐ろしく感じないという点には、感謝を申し上げます」
「そうか? 君は何も恐ろしいことを考えていないだろう。それとも、何かを企んでいるので?」
「いいえ……」
アルベルトは腰に手を当てると、胸を張りながら答えた。
「だったら、普通にしていたらいい。君は何も怖くないし、怖がられるようなこともない」
「はい!」
メイは嬉しそうに答えると、簡単に説明を始めた。まずはマリアとティナが残された研究施設へ向かった事と、そこで出会ったメイ、そしてリェイラという人造人間の事だ。二人の保護を求めつつ、情報を整理していたのだという。そして、黒龍の話に差し掛かった。
「黒龍は、私のデータベースにもレスティン・フェレスに存在している竜というデータしか存在しておりません。アルベルトさんは竜であるということですが、それに関して認識はございますか?」
マリアも気になっていたことだ。そもそも、竜であるというアルベルトですらいまだ信じ切れてはいない。疑っているわけではないものの、竜という存在が不確かすぎるのだ。それに加え、レスティン・フェレスという存在が重なり、更に黒龍という存在が乗ってくる。竜そのものについての情報がないのは、マリア、そして、フリージアだけだろう。
「俺にもわからない。黒龍という竜は、俺の記憶ではいないな。そもそも龍なら、聖なる光を司る光龍と、それからその光と相対している暗黒龍くらいだ。暗黒といっても、穏やかな龍で非人道的な行いを嫌う。黒龍とは別だろうな」
「じゃあ、アルベルトがレスティン・フェレスを発った後に、現れた可能性があるのね」
「それはあるだろうな。現に地球へ拉致されてきているのだろう、レオンとティナは……。そういえば、レオンは?」
迷わずに、アルベルトはレオンの居場所をティナに尋ねた。ティナも自然にそれを受け答えしながら、それを嬉しく感じていた。
「リェイラという人造人間の手当をされています。衰弱が激しかったそうですが、今は問題ないそうです」
「そうか。ラウル、人造人間でも怪我や不安定なものは戦艦に連れてくるんだ。レオンに頼んで治療してもらおう」
「宜しいのですか?」
「良いも何も、治療できるのはレオンくらいだろう。レオンならやってくれるさ。俺からも頼んでくる」
「わかりました」
「先の話から察するに、ラウルはメイたちとは知り合いなのか?」
ラウルは頷きながら答えた。
「はい。メイは俺の妹だと思っています。設計は、ゲオルクですけれど」
「ゲオルク……。そうか、レオンが設計したのか」
「はい。そのようですよ」
ラウルはレオンを、そしてゲオルクを認めていない様子で、あまり好ましいとは思えない態度だ。レオンの前世、ゲオルクはラウルの姉であるティニアの来世である詩阿と結婚しているという。それがまだ受け入れられていないのだろう。
その様子を見ていたマリアが、呆れ顔をしている。マリアのことも、ラウルは認めていない様子だったが今はそこまで仲が悪いようには見えない。
「先生が来たら、現状をまとめましょ。話はそれからよ……」
マリアの言葉に、アルベルトも頷いた。レンを救う手立ては、本当にないのだろうか。諦めたくないのは、マリアやアルベルトだけではないのだ。
それでも、力を継承してすべきことが、レンを殺すことなのだろうか。まだ何も告げられていない。レスティン・フェレスに帰還する事も出来なかったのだ。地球で死に絶えるあの時、無残に死んでいく自分を呪い、ラウルに銀時計を預けた。そこから間違っていたのだろうか。
「あまり思いつめないで、アルベルト」
マリアの声に、アルベルトは眼を泳がせる。そんなマリアからの言葉に、アルベルトは驚いてしまうのだ。
「髪色も目の色も、まるで別人。赤くなっているけれど、竜の力の継承もしたの?」
「え、いや……。え⁉」
アルベルトは気付いていなかった。自らの髪、そして瞳の色まで赤く変化していることに。それは前世と同じ容姿になっている事だろう。傍に控えていたフリージアが、心配そうにアルベルトをのぞき込んだ。
「アルお兄ちゃん、目が覚める少し前から赤くなっていったの。ラウルお兄ちゃんは、ティニアお姉ちゃんの記憶に触れたからだって言ってたよ」
「そうか。そうだな……」
アルベルトの自虐的な笑みに、マリアは心配そうな表情を浮かべたとき、レオンが現れた。白衣に身を包んでおり、リェイラの治療を行っていたことが窺える。
「遅くなりました……。アルベルト、その髪と目は……」
驚くレオンを前に、アルベルトは照れた表情で頭をかきだした。
「レンの記憶に触れた結果だというよ」
「そうか。レンの……」
「体は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。それより、マリア。話をまとめようじゃないか」
その言葉を聞いたのか、ヴァルクとコルネリア、アドニスも広場に集まってきた。此処に居ないのは病床のリェイラと、ティニアとなってしまったレンだけだ。
アドニスの表情は重苦しく、弟子として師を止めることだけを考えているかのようだ。そこに、かつての優しい面影はない。
「皆、……現状をまとめましょう」
マリアの言葉に、一同は静かに頷いた。
「アルベルト……。記憶は継承出来たの?」
「ああ。問題ないよ。マリア、その人は?」
「M-EIよ。彼女はメイ」
「……お初にお目にかかります。私は」
「機械人形だろう。わかるよ」
アルベルトは警戒するわけもなくメイに近づくと、握手を求めた。メイは驚き、その手をじっと見つめる。握手すべきか迷っているようだ。
「そんなに緊張しなくていい。俺はアルベルト。メイ、よろしく」
「よろしくお願い致します、アルベルトさん」
メイはアルベルトと握手を交わすと、その手を不思議そうに眺めていた。アルベルトは笑みを浮かべながら、メイに優しく声をかけた。
「そう畏まらなくていい。握手なんて、普通だろ」
「私を恐ろしく感じないという点には、感謝を申し上げます」
「そうか? 君は何も恐ろしいことを考えていないだろう。それとも、何かを企んでいるので?」
「いいえ……」
アルベルトは腰に手を当てると、胸を張りながら答えた。
「だったら、普通にしていたらいい。君は何も怖くないし、怖がられるようなこともない」
「はい!」
メイは嬉しそうに答えると、簡単に説明を始めた。まずはマリアとティナが残された研究施設へ向かった事と、そこで出会ったメイ、そしてリェイラという人造人間の事だ。二人の保護を求めつつ、情報を整理していたのだという。そして、黒龍の話に差し掛かった。
「黒龍は、私のデータベースにもレスティン・フェレスに存在している竜というデータしか存在しておりません。アルベルトさんは竜であるということですが、それに関して認識はございますか?」
マリアも気になっていたことだ。そもそも、竜であるというアルベルトですらいまだ信じ切れてはいない。疑っているわけではないものの、竜という存在が不確かすぎるのだ。それに加え、レスティン・フェレスという存在が重なり、更に黒龍という存在が乗ってくる。竜そのものについての情報がないのは、マリア、そして、フリージアだけだろう。
「俺にもわからない。黒龍という竜は、俺の記憶ではいないな。そもそも龍なら、聖なる光を司る光龍と、それからその光と相対している暗黒龍くらいだ。暗黒といっても、穏やかな龍で非人道的な行いを嫌う。黒龍とは別だろうな」
「じゃあ、アルベルトがレスティン・フェレスを発った後に、現れた可能性があるのね」
「それはあるだろうな。現に地球へ拉致されてきているのだろう、レオンとティナは……。そういえば、レオンは?」
迷わずに、アルベルトはレオンの居場所をティナに尋ねた。ティナも自然にそれを受け答えしながら、それを嬉しく感じていた。
「リェイラという人造人間の手当をされています。衰弱が激しかったそうですが、今は問題ないそうです」
「そうか。ラウル、人造人間でも怪我や不安定なものは戦艦に連れてくるんだ。レオンに頼んで治療してもらおう」
「宜しいのですか?」
「良いも何も、治療できるのはレオンくらいだろう。レオンならやってくれるさ。俺からも頼んでくる」
「わかりました」
「先の話から察するに、ラウルはメイたちとは知り合いなのか?」
ラウルは頷きながら答えた。
「はい。メイは俺の妹だと思っています。設計は、ゲオルクですけれど」
「ゲオルク……。そうか、レオンが設計したのか」
「はい。そのようですよ」
ラウルはレオンを、そしてゲオルクを認めていない様子で、あまり好ましいとは思えない態度だ。レオンの前世、ゲオルクはラウルの姉であるティニアの来世である詩阿と結婚しているという。それがまだ受け入れられていないのだろう。
その様子を見ていたマリアが、呆れ顔をしている。マリアのことも、ラウルは認めていない様子だったが今はそこまで仲が悪いようには見えない。
「先生が来たら、現状をまとめましょ。話はそれからよ……」
マリアの言葉に、アルベルトも頷いた。レンを救う手立ては、本当にないのだろうか。諦めたくないのは、マリアやアルベルトだけではないのだ。
それでも、力を継承してすべきことが、レンを殺すことなのだろうか。まだ何も告げられていない。レスティン・フェレスに帰還する事も出来なかったのだ。地球で死に絶えるあの時、無残に死んでいく自分を呪い、ラウルに銀時計を預けた。そこから間違っていたのだろうか。
「あまり思いつめないで、アルベルト」
マリアの声に、アルベルトは眼を泳がせる。そんなマリアからの言葉に、アルベルトは驚いてしまうのだ。
「髪色も目の色も、まるで別人。赤くなっているけれど、竜の力の継承もしたの?」
「え、いや……。え⁉」
アルベルトは気付いていなかった。自らの髪、そして瞳の色まで赤く変化していることに。それは前世と同じ容姿になっている事だろう。傍に控えていたフリージアが、心配そうにアルベルトをのぞき込んだ。
「アルお兄ちゃん、目が覚める少し前から赤くなっていったの。ラウルお兄ちゃんは、ティニアお姉ちゃんの記憶に触れたからだって言ってたよ」
「そうか。そうだな……」
アルベルトの自虐的な笑みに、マリアは心配そうな表情を浮かべたとき、レオンが現れた。白衣に身を包んでおり、リェイラの治療を行っていたことが窺える。
「遅くなりました……。アルベルト、その髪と目は……」
驚くレオンを前に、アルベルトは照れた表情で頭をかきだした。
「レンの記憶に触れた結果だというよ」
「そうか。レンの……」
「体は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。それより、マリア。話をまとめようじゃないか」
その言葉を聞いたのか、ヴァルクとコルネリア、アドニスも広場に集まってきた。此処に居ないのは病床のリェイラと、ティニアとなってしまったレンだけだ。
アドニスの表情は重苦しく、弟子として師を止めることだけを考えているかのようだ。そこに、かつての優しい面影はない。
「皆、……現状をまとめましょう」
マリアの言葉に、一同は静かに頷いた。
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