【完結】暁の荒野

Lesewolf

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第14輪「白銀の回想録」

⑭-10 そして、君は作られた③

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 セシュールの里に到着すると、すぐに洞窟の向こうからヴァルクが駆け寄ってきた。ランプの灯が左右に大きく揺れている。

「マリアさん、ティナさん! 帰りが遅いから、心配して……。 え⁉ 誰ですか、その人たちは!」

 ぬいぐるみを抱くメイの姿に、ヴァルクはすぐに警戒した。機械人形であることはすぐにわかったのだろう。しかし、マリアの抱えるリェイラがぐったりしていることに気付き、血相を変えた。年齢的には、ヴァルクよりもリェイラのほうが年下のようにも見える。

「ヴァルク、お願い。二人を里へ入れてあげて! 衰弱した人造人間と、機械人形なの。敵意はないわ」
「レンのセキュリティは反応してないから、確かに敵意はないみたいだけど……」

 ヴァルクの言うレンのセキュリティとは、竜の加護のことだ。聞けば、このセシュールの里にある戦艦には、竜の加護という結界があるという。アンチ・ニミアゼルであり、黒龍を信仰しているという奴らは、この里には近づけないという。里の結界、レンのセキュリティとはそのことだ。
 そして、その竜の加護の竜とは、アルベルトの前世である竜のことであろう。

「お願いよ。この子の、リェイラの命が危ないの……‼」
「……すぐにレオン先生を呼んでくる!」

 ヴァルクの叫び声に、マリアは眼で反応を返した。そのままヴァルクの後を駆け抜けていく。


 ◇◇◇

 戦艦の処置室で、レオンは慣れた手付きで治療を行った。医療用のロボットを駆使していたのだ。ティナが付き添い、リェイラの治療は無事に完了したという。その手腕は、レオンが異世界のレスティン・フェレスから来た存在であることを裏付けた。

 ヴァルクとコルネリアは、増えた人数分の食事の手配をするのだといい、処置室を後にした。マリアも手伝いに行こうとしたのだが、心配そうなメイを放ってはおけなかった。メイは俯きながらも、リェイラが治療を受けている間で、研究施設の資料をマリアたちに開示してくれている。主にリェイラの構造であるそれは、人造人間という存在を現実のものとした。

「処置は終わりましたよ。ここの施設が生きていて良かった」
「レオン先生、治療を有難うございます。これでリェイラは安心ですね」
「衰弱が酷かった。放置されてから、かなり日数が経過していたのでは?」

 レオンはリェイラを見つめながら、カルテにサラサラとメモを記している。

「はい。食糧が底を付き、アンドロイドの私だけが無事でした。リェイラはあのままでは生きていられなかったでしょう」
「ラウルもいい加減なことをするわね」

 処置室のベッドで横たわるリェイラは深い呼吸を繰り返しながら、眠っている。安堵するようにリェイラを見つめると、メイはそのままマリアを見つめた。質問があるのだろうと言わんばかりの表情だ。メイは里に来てから緊迫感がなくなったのか、より自然な表情を見せる。

「……ラウルのことは知っているのよね? ラウルは、今この里に居るのよ」
「そうでしたか。はい、ラウルのことはよく知っております。ボレードの名を引き継ぐ、役立たずであると言われていました。が、実際は異なっていることを、私は知っています」
「ボレードって、そんな意味があるの?」

 その問いに対し、物悲しげにティナが反応する。苦笑いを浮かべた彼女はレオンから受け取ったカルテを整理しながら、マリアに向かった。

「ボレードとは、ネジの一本かけた。出来損ない、という意味合いを持つそうです。本来は揶揄する言葉ではなく、秀でた能力がなくとも、人々の力になれるという意味合いでした。私たちは戦闘能力がありませんでしたから、そういった意味でボレードと呼ばれてました」
「今は差別用語じゃない、酷い……」
「ラウルは素晴らしい機械人形です。それを、メイは知っています」

 メイは嬉しそうに微笑んで見せた。機械的とはいえ、それが彼女の最大限の微笑みであろう。ティナは嬉しそうに笑みを浮かべると、アルベルトの居る部屋の方を心配そうに見つめた。

「メイさんは、地球で作られたの?」

 マリアの問いに、メイはゆっくりと答える。

「それは、私が答えるべき質問ではありません」
「答えるべきじゃない? どうしてよ」
「僕が設計を務めたからです……」

 その言葉に反応したのは意外にもレオンであった。

「やはり、あなたがゲオルク・ルージリアでしたか」
「……わかるのかい、メイ」

 メイはその名を呼ばれ、嬉しそうに微笑んで見せた。その自然な笑みはまるで機械人形ではないかのようだ。その笑みに救われるように、レオンの表情も柔らかくなっていく。

「はい。似ておられますから。リェイラのこと、ありがとうございます」
「あの施設は僕の不在時も、稼働していたのか?」
「放置され、しばらくしてからとある夫婦が施設を引き継ぎました。夫妻がリェイラを作り出し、完成させたのです。しかしリェイラは、とある案件によって不良品扱いとなり、そのまま保存される形になったのです」

 メイは資料を壁に映し出すとともに、その解説を始めた。所々に、レオンと思われる筆跡が見えるのは、彼本人か、前世のものであろう。パラメータと思われる情報を映し出すと、メイはその項目を指さした。

「これはリェイラの能力の一部です。ここに、マリアプロジェクトの代用品とあるのが、確認できますか」
「どういうこと?」
「マリアさんが奪取され、アンチ・ニミアゼルは黒龍への捧げものを失いました。そこで、代用品としてリェイラを作り出そうとしたのです。そのマリアとは、貴女のことです」
「私が、黒龍への捧げもの……?」

 マリアにとって、それは突拍子もないことだった。
 そもそも、マリアは何のために作られたのか、マリアは知らなかったのだ。レンやラウルの発言から、特別に作られた存在であることはわかっていた。しかし、それについての話をティナやラウルとしたことはなく、レンの話だけで時間を割いてしまっていたのだ。
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