【完結】暁の荒野

Lesewolf

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第14輪「白銀の回想録」

⑭-9 そして、君は作られた②

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 二人の前には女性が立ち尽くし、その両手を上げていた。武器を持っている様子もなく、淡々とそこに立っている。

「敵意はありません」
「そんな貴女、機械人形……⁉」

 驚くティナの言葉に、マリアも驚愕の表情を浮かべる。それもそのはずだ。
 機械人形という表現が正しければ、それはレスティン・フェレスの技術で作られた事を意味する。つまり、人間を材料にしている人造人間ではない。無から作り出した機械人形だということを現すからだ。

「はい。私は精巧に作られた機械人形。名をM-EI。メイと申します」

 M-EIと名乗った機械人形、メイは両手を上げたままだ。長い髪はマリアと同じように腰まであるものの、髪を束ねている様子はない。服装は研究員のものなのか、ぼろぼろの白衣だ。身長はそこまで高くなく、マリアと同じくらいである。というよりも、マリアに背格好が似ている。

「コアは胸に埋め込まれております。不本意ではありますが、気に入らなければ撃ち抜いてください」
「コア⁉ じゃあ、あなたは人造人間?」
「否定します。コアとはメインコンピュータ、私の心臓部です」
「間違いありません、レスティン・フェレスの技術で作られています。まさか、貴女の作成者は……」

 メイは瞬き一つせずにティナを、そしてマリアを見つめた。その青い瞳からは人工物のような冷たさを感じる。

「ゲオルク・ルージリアの転生体です」
「「‼」」

 絶句している二人に対し、メイは淡々と語る。その話し方は全て聞き覚えがあった。そう、ティニア化してしまったレンだ。
 機械人形として生きていたティニアの口調と、まるで同じなのだ。

 メイは機械仕掛けのように、淡々と必要な項目だけを語る。

「会っていただきたい、保護していただきたい人造人間が一体おります。その為に、今回は強制転送を行わせていただきました。無礼をお許しください」
「……保護?」
「はい。名をリェイラ。どうか、彼女だけでも、保護を求めます」

 顔を見合わせるマリアとティナ。罠とは思えない。女性の切実な訴えからは、敵意も悪意も感じられない。しかし、それがプログラムされたものであれば、話は別だ。

「ティナ、リェイラって名に聞き覚えは?」
「……ありません」
「そのはずです。彼女が目覚め、リェイラと名乗り始めたのは10年前ですが、作られたのはもっと昔のようです。私のデータにはありませんが、製造年月日は随分と前のようです」

 メイが答えた。不確かな情報ですら、マリアたちに明かすのには訳があるのだろうか。

「10年前、1940年か」
「はい。1940年、12月24日です」
「レンたちの襲撃の後ですか」

 具体的な数字を出したのち、メイは両手を下げるとゆっくりとした動作で跪いた。

「お願い致します、彼女の食糧も尽き果てました。このままでは危険です」
「どこに居るの? その、リェイラって子は」
「こちらです」

 ゆっくりと立ち上がるメイの表情は、どこか柔らかくなっている。カシュンという軽い音が鳴り、あの戦艦のドアと同じ音が発せられて扉が自動で開いた。

「この通路の先です。反応が見えていると思われますが、彼女がリェイラです」
「どう? ティナ……。視える?」
「確かに見えます。座っているのでしょうか、酷く小さく……」
「リェイラは小さいです。成長が遅いのではなく、成長できなくなったようなのです」

 その言葉に、人造人間として改造されたのは、10歳より幼いのではないかという推察が出来た。そう、6歳~8歳での改造だ。

「開けます」

 メイの言葉に、ティナは銃に手をかざす。すぐにでも彼女は早撃ち出来るだろう。その腕前の前に、子供が太刀打ちできるとは思えない。罠であるのであれば、先にメイがハチの巣だ。

 扉の先には、ピンク色の髪の少女がぐったりとして浅い呼吸を繰り返していた。顔色も青白く、切羽詰まった表情でゆっくりと重そうに眼を開ける。

「だれ……」
「た、たいへん!」

 慌てて駆け寄ろうとしたマリアを、ティナが腕で制止する。

「待ってください、罠かもしれません」
「罠はありません。お願いします。助けてください、詩阿」
「「⁉」」

 詩阿。それはティナの前世での名だ。

「どうして、その名を……」
「作成者であるゲオルク・ルージリアの転生体が、ずっとその名を口にしておりました。彼は衰弱して亡くなるまで、ずっとリェイラ様を作成されていました。私は彼女の教育係として作成された、新型のアンドロイドです」
「レオン先生はこのことを知っていたのかしら」
「それなら先に話されているでしょう。それとも、既に移動されているとでも思っていたのでしょうか」

 尚も手助けを躊躇する二人に、メイは視線だけを二人へ向けた。

「ラーレと共に来られた貴女なら」
「ラーレの呼び方をどうして知っているの!」

 その名は保護された拠点で、レイス達に呼ばれていた名だ。アンチ・ニミアゼルの組織にいた時の名ではない。

「ラウル・ジークフリートがそう言っておりました。彼はもうここには来ませんし、支援もありません。食糧が絶えた今、リェイラ様を救えるのはあなた方だけです。お願いします、助けてください!」

 棒読みの口調ながら、その音声は切羽詰まった様子を表現しているかのようだ。ラウルが以前に用意していた自動音声とは違う。マリアにとって重要なのはそこではないものの、メイからは願いのこもった言葉に聞こえた。

「ッ…………」
「マリア!」

 マリアは少女に駆け寄り、抱き上げた。やせ細った少女は浅い呼吸を繰り返すだけで、言葉にならない何かを口で発している。

「この子を放っておけないわ! メイ、あなた空は飛べる?」
「はい。遠距離は不可能ですが」
「ティナ、里に行きましょう」
「でも、マリア……」

 それでも狼狽えるティナに、マリアは声を荒げた。

「ティナ、この子を放っておける⁉ ラウルの支援ももらえないなら、この子は死んでしまうわ……‼」
「あ……」

 リェイラが何かを発したが、再び声にならない。そのままぐったりとしてしまう。

「資料を探すなら、後回しよ。すぐに里へ飛びましょう」
「資料をご所望でしたら、私の頭に全てあります」
「本当⁉ それじゃあ、……行くわよ! ティナ、メイ!」

 すぐにその場を後にしようとした二人だったが、メイはすぐに引き返す。

「メ、メイ! 何してるの!」
「この子をおいてはいけません。リェイラのトモダチ、ミシェル」

 それは大きなクマのぬいぐるみだった。そのぬいぐるみに、レンを重ねて見てしまう。

「メイはその子を大切に持ってきて! 行くわよ!」

 メイは大切そうに、しっかりとクマのミシェルを抱きかかえた。マリアは小さなリェイラを腕に包み込み、4人とぬいぐるみはその場を後にした。その後、この施設がどうなるのか、今はどうでもよいことだった。冷たく震える少女の容態の方が、気がかりだったのだ。
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