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第14輪「白銀の回想録」
⑭-8 そして、君は作られた①
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――それは数時間も前のこと。
「では、こちらも準備をしましょう。レン様を討伐する準備を」
アドニスの言葉にいち早く反応したのはマリアだ。マリアはアドニスを殴りかかる勢いでその言葉を否定する。
「ふざけないで! まだアルベルトが何か、策を持ってきてくれるかもしれないじゃない!」
「ふざけているのは、マリアですよ。暴走したレン様を、貴女は止められるとでも⁉」
「そんなの、やってみなきゃわからないじゃない!」
それでも、策など無い。放っておけば、レンはティニアとして、アルベルトを殺しに来るのだろうか。そんな事はさせられない。マリアにとって、レンは恩人であり、大切な友人のままだ。
「……マリア」
マリアに声をかけたのはレオンだ。前までのおどおどした表情はなく、張り詰めた緊張が伝わってくる。
「マリア、古い研究施設へ行くことは出来るか?」
「古い、研究施設……?」
「……マリア。君が作られた研究施設だ」
「え……。私が?」
その言葉を聞き、驚いたのはマリアだけではない。ティナも同じであった。
「レオンは、マリアが作られた施設を知っていたのですか」
「……君が作られるには、何か理由があったはずだ。間違いでなければ、君が作られた施設になるだろう」
「そこに何があるの?」
「アンチ・ニミアゼルの研究資料が残っているだろう。もう放棄されて何年も経つ。ラウルが破壊に行ったとは考えにくい」
「なるほどね。行く価値はあると思うわ。アンチ・ニミアゼルについては、ラウルからも情報を聞き出さないとね」
マリアの言葉に、ティナも力強く頷いた。その表情には迷い等は見受けられない。
「出来る事からやりましょう」
「そうね! ティナも、行けそう?」
「はい。貴女と任務に携わるのは久しぶりですね」
優しく微笑むティナに、レイスと呼び掛けたくなったマリアはそれをグッと堪えた。しかし、ティナの方は微笑みながらマリアを呼びかける。
「ラーレと任務だなんて、まるで昔の日々を思い出すようです」
「もう! 私がレイスって呼ぶのを我慢しているのに!」
二人は穏やかに視線を交わしていたが、すぐに真面目な顔に戻るとお互いで頷き合った。
時間は無限ではない。
「その施設はどこにあるの?」
「イタリアの、シチリア島近くです」
「地図はありますか、ヴァルク」
不意に声をかけられたヴァルクは驚きつつも、すぐに地図を持ってきた。地図を見るに、その施設とはマリアが何度も足を運んだ施設であった。偶然であるとは思えず、自身が作られたのであれば納得できる。
「その拠点、前に行ったわ! そこでラウルに会ったのよ」
「何ですって……」
「ラウルも、何か痕跡を探していたのかもしれませんね」
「火災の跡があったけれど、覚えはない?」
「火災?」
レオンは考え込むように眼を閉じたが、すぐに首を横に振った。
「いえ。僕の記憶ではありません。その後に使われ、火災が発生したのかもしれませんね」
「レオン先生は、その施設にいたの……?」
「はい。一時的ですよ。拘束されてはいましたが……」
「そう……」
レオンは身柄を拘束され、ティナの前世を人質に、レスティン・フェレスの研究をしていたというのか。レオンとティナの表情から、それらが言葉にならないほどの惨いことであったことが窺える。
「行きましょう、マリア」
「ティナ、大丈夫なの? その、キツイ記憶とかがあるのなら……」
「マリアを一人で行かせることの方が、辛いですよ」
「……ありがとう」
優しく微笑みティナに、安心を覚えたのは今も昔も変わらない。
「では、行きましょうか」
「うん。レオン先生、アルベルトたちのこと、よろしくお願いします」
「はい。どうか、お二人もお気をつけて……」
ヴァルク達の先導で洞窟までやってくると、二人は洞窟からスイス国へ戻り、そこから上空へと飛び立ったのだった。
◇◇◇
――イタリア、シチリア島近くにある岩の島。
「コードもそのまま入れるわね」
「コード?」
ティナの問いに、マリアは慌てて説明を加える。
「そう。ここに入るとき、コードを入れたらすんなり入れたのよ」
「そうなのですか。妙ですね」
「妙?」
「マリアが作られてから、放棄されたのであれば、もうコードも何も機能していないはずだからです」
「あ……」
ティナは入り口を警戒したまま、中へ入ろうとはしない。
「熱量探知に反応があります」
「何ですって。じゃあ中にアンチ・ニミアゼルがいるかもしれないの?」
「……可能性はあります。人間のものではないと推察できますが、注意を怠らないで」
「わかったわ。開けるわよ」
岩の島は静かにたたずんであり、波が押し寄せるだけですぐに消えてなくなるほど小さい。
マリアは深く深呼吸すると、手をかざした。ティナも息を飲んで佇む。
「Layla, willkommen」
しかし、何の反応も起こらない。地下への移動はおろか、その場から二人が動くことはなかった。
「あれ?」
「その言葉を唱えると、その場に移動したのですか?」
「そうなの。出る時も……」
「……やはり、何かおかしいです。もし、施設に誰かいるのであれば…………」
その時、二人の足元が光を放った。
そして二人が目を開けるころには、薄暗い研究施設が目の前に広がっていた。一部には焼け焦げた跡の残った、黒く消し炭のような者が見て取れる。
「強制転送……‼ やはり、誰かいるようですね」
「罠かしら」
「罠でしょうね……」
「罠ではありません」
背後から音もなく声が発せられる。二人が慌てて振り向いた時、そこには髪の長い女性が両手を上げたまま立ち尽くしていた。
「では、こちらも準備をしましょう。レン様を討伐する準備を」
アドニスの言葉にいち早く反応したのはマリアだ。マリアはアドニスを殴りかかる勢いでその言葉を否定する。
「ふざけないで! まだアルベルトが何か、策を持ってきてくれるかもしれないじゃない!」
「ふざけているのは、マリアですよ。暴走したレン様を、貴女は止められるとでも⁉」
「そんなの、やってみなきゃわからないじゃない!」
それでも、策など無い。放っておけば、レンはティニアとして、アルベルトを殺しに来るのだろうか。そんな事はさせられない。マリアにとって、レンは恩人であり、大切な友人のままだ。
「……マリア」
マリアに声をかけたのはレオンだ。前までのおどおどした表情はなく、張り詰めた緊張が伝わってくる。
「マリア、古い研究施設へ行くことは出来るか?」
「古い、研究施設……?」
「……マリア。君が作られた研究施設だ」
「え……。私が?」
その言葉を聞き、驚いたのはマリアだけではない。ティナも同じであった。
「レオンは、マリアが作られた施設を知っていたのですか」
「……君が作られるには、何か理由があったはずだ。間違いでなければ、君が作られた施設になるだろう」
「そこに何があるの?」
「アンチ・ニミアゼルの研究資料が残っているだろう。もう放棄されて何年も経つ。ラウルが破壊に行ったとは考えにくい」
「なるほどね。行く価値はあると思うわ。アンチ・ニミアゼルについては、ラウルからも情報を聞き出さないとね」
マリアの言葉に、ティナも力強く頷いた。その表情には迷い等は見受けられない。
「出来る事からやりましょう」
「そうね! ティナも、行けそう?」
「はい。貴女と任務に携わるのは久しぶりですね」
優しく微笑むティナに、レイスと呼び掛けたくなったマリアはそれをグッと堪えた。しかし、ティナの方は微笑みながらマリアを呼びかける。
「ラーレと任務だなんて、まるで昔の日々を思い出すようです」
「もう! 私がレイスって呼ぶのを我慢しているのに!」
二人は穏やかに視線を交わしていたが、すぐに真面目な顔に戻るとお互いで頷き合った。
時間は無限ではない。
「その施設はどこにあるの?」
「イタリアの、シチリア島近くです」
「地図はありますか、ヴァルク」
不意に声をかけられたヴァルクは驚きつつも、すぐに地図を持ってきた。地図を見るに、その施設とはマリアが何度も足を運んだ施設であった。偶然であるとは思えず、自身が作られたのであれば納得できる。
「その拠点、前に行ったわ! そこでラウルに会ったのよ」
「何ですって……」
「ラウルも、何か痕跡を探していたのかもしれませんね」
「火災の跡があったけれど、覚えはない?」
「火災?」
レオンは考え込むように眼を閉じたが、すぐに首を横に振った。
「いえ。僕の記憶ではありません。その後に使われ、火災が発生したのかもしれませんね」
「レオン先生は、その施設にいたの……?」
「はい。一時的ですよ。拘束されてはいましたが……」
「そう……」
レオンは身柄を拘束され、ティナの前世を人質に、レスティン・フェレスの研究をしていたというのか。レオンとティナの表情から、それらが言葉にならないほどの惨いことであったことが窺える。
「行きましょう、マリア」
「ティナ、大丈夫なの? その、キツイ記憶とかがあるのなら……」
「マリアを一人で行かせることの方が、辛いですよ」
「……ありがとう」
優しく微笑みティナに、安心を覚えたのは今も昔も変わらない。
「では、行きましょうか」
「うん。レオン先生、アルベルトたちのこと、よろしくお願いします」
「はい。どうか、お二人もお気をつけて……」
ヴァルク達の先導で洞窟までやってくると、二人は洞窟からスイス国へ戻り、そこから上空へと飛び立ったのだった。
◇◇◇
――イタリア、シチリア島近くにある岩の島。
「コードもそのまま入れるわね」
「コード?」
ティナの問いに、マリアは慌てて説明を加える。
「そう。ここに入るとき、コードを入れたらすんなり入れたのよ」
「そうなのですか。妙ですね」
「妙?」
「マリアが作られてから、放棄されたのであれば、もうコードも何も機能していないはずだからです」
「あ……」
ティナは入り口を警戒したまま、中へ入ろうとはしない。
「熱量探知に反応があります」
「何ですって。じゃあ中にアンチ・ニミアゼルがいるかもしれないの?」
「……可能性はあります。人間のものではないと推察できますが、注意を怠らないで」
「わかったわ。開けるわよ」
岩の島は静かにたたずんであり、波が押し寄せるだけですぐに消えてなくなるほど小さい。
マリアは深く深呼吸すると、手をかざした。ティナも息を飲んで佇む。
「Layla, willkommen」
しかし、何の反応も起こらない。地下への移動はおろか、その場から二人が動くことはなかった。
「あれ?」
「その言葉を唱えると、その場に移動したのですか?」
「そうなの。出る時も……」
「……やはり、何かおかしいです。もし、施設に誰かいるのであれば…………」
その時、二人の足元が光を放った。
そして二人が目を開けるころには、薄暗い研究施設が目の前に広がっていた。一部には焼け焦げた跡の残った、黒く消し炭のような者が見て取れる。
「強制転送……‼ やはり、誰かいるようですね」
「罠かしら」
「罠でしょうね……」
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