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第14輪「白銀の回想録」
⑭-6 金色の回想カルテット➄
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ラウルの顔を覗くアドニスは、レンがラウルを抱き起し、膝へ寝かせるのを恐る恐る見ていた。
「死んだの?」
「これくらいで死んだりしないよ。眼に何か悪いものが仕込まれていたみたいだね……」
「どうするのですか?」
「ボクの右眼を渡して補わせる。この右眼を付けていたらダメだ」
「何ですって⁉」
レンはラウルの腕を抱えたまま、自らの右眼に手をかざした。そのまま右手に金色の光が灯り、ラウルの右眼に添えられる。
「う…………」
「起きたかい、ラウル」
「……貴女は、レン⁉ レン様が、どうして地球に……。ハッ、ここは……」
「正気に戻ったみたいだね。良かった……」
レンはその場に崩れ落ちるように、力なく項垂れた。慌てて体を支えるラウルを警戒したアドニスへ、すぐにレンが手でアドニスを制止する。
「アドニス。もう、大丈夫。向こうの、レスティン・フェレスの友達なんだよ」
「ああ、レン様……。その怪我、俺がやったのか?」
「大丈夫だよ。それより、他の子たちは、壊してしまったと思う……」
「…………」
「人形の性能は、やっぱりレスティン・フェレスの方が上のようだね……」
レンはゆっくり地面に座り込むと、そのままラウルへ向かった。ラウルははらはらと涙を零し、レンへ土下座するように首を垂れた。
「申し訳ありません、レン様。ああ、俺はなんてことを……」
「思い出してきた……?」
「はい……」
「誰に操られていたの」
「……アンチ・ニミアゼルです。レン様、黒龍を知っていますか」
黒龍という言葉に、レンは眉を顰める。
「アンチ・ニミアゼルは知っているけれど、黒龍は聞かないね。なんだい、そいつは……」
「レスティン・フェレスにいる黒龍を信仰する組織です。奴らの拠点へ行くと、方向感覚がなくなりますので、場所の特定は出来ません。特殊な転移装置や転移魔法陣で移動しています」
「その技術や魔法はレスティン・フェレスのものだね」
「はい……」
アドニスが必死でレンへ治癒魔法をかけていく。出血は収まったものの、レンは浅い呼吸を繰り返しており、服はその鮮血で真っ赤だ。
「と、ここじゃいけない。人が来る。どうするかな」
「俺を許していただけるのですか」
「許すも何も、操られていたんでしょ。狂っていた君を責める気はないよ。それでも、どうしても自責の念に駆られるのなら、敵の拠点を暴くんだ。……奴らに君の居場所は補足されているだろうから、二重スパイとして敵陣営にそのまま潜りこんだ方がいいかもね」
「……わかりました」
「ラウルにしか出来ないことだよ。ただ、右眼は負傷した報告があがっていると思うから、気を付けてね」
「本当にレン様の眼を借り受けてよろしいのですか」
ラウルは右眼を優しく撫でた。信じられない様子で鏡もなく、実感もないのであろう。
「魔法で一時的に失明したことにしているから、バレないとは思う。そう何度も点検なんてしないんじゃない。あの程度の技術力なら、誤魔化せるだろうね」
「ええ。そうはそうですが……」
「お前、何ニヤニヤしているんだよ、気持ち悪い奴だな」
「レン、こいつは?」
レンはアドニスを撫でた。そのまま人の気配のする方向を睨みつける。
「この子はアドニス、ボクの弟子だよ。それより、君は急ぐんだ。隙を見てまたおいで」
「……わかりました」
「惨い事をさせてすまないね。ボクにもわからないことだらけだ、アルブレヒトのことに関してもね」
レンは二つの銀時計をとりだし、ラウルに見せた。ラウルはショックの表情を浮かべる。
「レン……。そうか、彼らから託されていたか。彼らに出会っていて、良かった」
「君には聞きたいことが山ほどある。隙をついて、必ずおいで」
「わかりました、では……」
泡が湧きたち、すぐにその場面は切り替わる。無数の泡からラウルの声が聞こえてくる。
「アルブレヒト様を襲ったのは、奴らです。間違いありません。黒龍を信仰するアンチ・ニミアゼルは緋竜を求めていました。ゲートを開放し、黒龍の下に馳せ参じることがすべてのようです。黒龍はレスティン・フェレスに存在している竜のようです」
「それでアルを襲ったのか」
「俺も、何度も逃げていましたが、下手をして捕まってしまいました。申し訳ありません。アルブレヒト様も守れず、俺は貴女も襲って……」
「過ぎたことだ。それより、襲撃の時について詳しく教えて欲しい」
泡は更に湧き出し、場面も切り替わっていく。コポコポと音が鳴り響いていく。
青い水面にたくさんの白い泡粒が湧きたった。
ふと、背に視線を感じ振り返ると、白銀の長い髪を靡かせ、長い耳を生やした女性がたたずんでいた。
レンだ。
「死んだの?」
「これくらいで死んだりしないよ。眼に何か悪いものが仕込まれていたみたいだね……」
「どうするのですか?」
「ボクの右眼を渡して補わせる。この右眼を付けていたらダメだ」
「何ですって⁉」
レンはラウルの腕を抱えたまま、自らの右眼に手をかざした。そのまま右手に金色の光が灯り、ラウルの右眼に添えられる。
「う…………」
「起きたかい、ラウル」
「……貴女は、レン⁉ レン様が、どうして地球に……。ハッ、ここは……」
「正気に戻ったみたいだね。良かった……」
レンはその場に崩れ落ちるように、力なく項垂れた。慌てて体を支えるラウルを警戒したアドニスへ、すぐにレンが手でアドニスを制止する。
「アドニス。もう、大丈夫。向こうの、レスティン・フェレスの友達なんだよ」
「ああ、レン様……。その怪我、俺がやったのか?」
「大丈夫だよ。それより、他の子たちは、壊してしまったと思う……」
「…………」
「人形の性能は、やっぱりレスティン・フェレスの方が上のようだね……」
レンはゆっくり地面に座り込むと、そのままラウルへ向かった。ラウルははらはらと涙を零し、レンへ土下座するように首を垂れた。
「申し訳ありません、レン様。ああ、俺はなんてことを……」
「思い出してきた……?」
「はい……」
「誰に操られていたの」
「……アンチ・ニミアゼルです。レン様、黒龍を知っていますか」
黒龍という言葉に、レンは眉を顰める。
「アンチ・ニミアゼルは知っているけれど、黒龍は聞かないね。なんだい、そいつは……」
「レスティン・フェレスにいる黒龍を信仰する組織です。奴らの拠点へ行くと、方向感覚がなくなりますので、場所の特定は出来ません。特殊な転移装置や転移魔法陣で移動しています」
「その技術や魔法はレスティン・フェレスのものだね」
「はい……」
アドニスが必死でレンへ治癒魔法をかけていく。出血は収まったものの、レンは浅い呼吸を繰り返しており、服はその鮮血で真っ赤だ。
「と、ここじゃいけない。人が来る。どうするかな」
「俺を許していただけるのですか」
「許すも何も、操られていたんでしょ。狂っていた君を責める気はないよ。それでも、どうしても自責の念に駆られるのなら、敵の拠点を暴くんだ。……奴らに君の居場所は補足されているだろうから、二重スパイとして敵陣営にそのまま潜りこんだ方がいいかもね」
「……わかりました」
「ラウルにしか出来ないことだよ。ただ、右眼は負傷した報告があがっていると思うから、気を付けてね」
「本当にレン様の眼を借り受けてよろしいのですか」
ラウルは右眼を優しく撫でた。信じられない様子で鏡もなく、実感もないのであろう。
「魔法で一時的に失明したことにしているから、バレないとは思う。そう何度も点検なんてしないんじゃない。あの程度の技術力なら、誤魔化せるだろうね」
「ええ。そうはそうですが……」
「お前、何ニヤニヤしているんだよ、気持ち悪い奴だな」
「レン、こいつは?」
レンはアドニスを撫でた。そのまま人の気配のする方向を睨みつける。
「この子はアドニス、ボクの弟子だよ。それより、君は急ぐんだ。隙を見てまたおいで」
「……わかりました」
「惨い事をさせてすまないね。ボクにもわからないことだらけだ、アルブレヒトのことに関してもね」
レンは二つの銀時計をとりだし、ラウルに見せた。ラウルはショックの表情を浮かべる。
「レン……。そうか、彼らから託されていたか。彼らに出会っていて、良かった」
「君には聞きたいことが山ほどある。隙をついて、必ずおいで」
「わかりました、では……」
泡が湧きたち、すぐにその場面は切り替わる。無数の泡からラウルの声が聞こえてくる。
「アルブレヒト様を襲ったのは、奴らです。間違いありません。黒龍を信仰するアンチ・ニミアゼルは緋竜を求めていました。ゲートを開放し、黒龍の下に馳せ参じることがすべてのようです。黒龍はレスティン・フェレスに存在している竜のようです」
「それでアルを襲ったのか」
「俺も、何度も逃げていましたが、下手をして捕まってしまいました。申し訳ありません。アルブレヒト様も守れず、俺は貴女も襲って……」
「過ぎたことだ。それより、襲撃の時について詳しく教えて欲しい」
泡は更に湧き出し、場面も切り替わっていく。コポコポと音が鳴り響いていく。
青い水面にたくさんの白い泡粒が湧きたった。
ふと、背に視線を感じ振り返ると、白銀の長い髪を靡かせ、長い耳を生やした女性がたたずんでいた。
レンだ。
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