217 / 257
第13輪「白銀と廻るオモイ」
⑬-9 インヴェンション第4章④
しおりを挟む
「セシュールか。本当に懐かしい」
アルベルトは遠い目をしながら、遠い日々の記憶を話し出した。自然とフリージアと繋ぐ手に力が込められる。
「レスティン・フェレスへやってきたレンだったが、そう長くは生きられなかった。俺も加護を、竜の祝福を与えられるだけ与えはしたんだが、100年が限度だった。それからすぐにアイツは生まれ変わったそうだが、俺はレスティン・フェレスを襲った毒の光を止めるべく、力を使い果たして死んだ」
「え⁉」
「だから俺は、レンをレスティン・フェレスにあるセシュール国に残していった。約1000年だ」
「じゃあその時のレンは、千年も……待っていたの?」
マリアの言葉に、ティナが静かに頷いた。
「レスティン・フェレスの古い伝承で、とある狐が大泣きして天変地異で長い雨期を生んだと、伝説に残っています。その物語では狼として紹介されていました」
「そうだ」
レオンは天を仰ぐように、ボーデン湖の底を見つめた。
「それはレンが緋竜の死を知り、泣いたために起こった天変地異だと本人から聞いている。それは緋竜の加護、祝福を受けた結果であるのでしょう」
「約束のお祭りとして、現地セシュールでは伝わっている話ですね」
レオンはアルベルトのように遠い目をすると、かつての親友を見つめた。静かに頷いたアルベルトは、その後も語る。
「……俺は生まれ変わったが、レスティン・フェレスの帝国ルギリアの第一皇子だった。レンはすぐに俺に気付いたが、当時からセシュールと帝国は仲が悪かったという。そのせいか帝国人の俺に、レンは一切接触してこなかった。アイツは、そういう奴なんだ。俺にだって、記憶はなく、レンを知らずに生きていた。その時のベビーシッターがティニアだよ」
「でも、1000年も待ったなら……」
「帝国は、レンの国、セシュール国へ何度も侵略戦争を仕掛け、戦争していた歴史があったんだ。全てセシュール側の勝利だったが」
「じゃあ、アルブレヒト皇子だったとき、いつレンと会ったの……?」
レオンが優しく寄り添った所で、ティナが俯いた。ティナが語れなかった為にレオンが代わりにマリアたちへ向かう。
「彼女が、ティニアが爆散した後です」
「ッ……。そんな…………」
そして閉じていた目を開けたレオンはアルベルトへ向かった。
「君たちを見送った身として言う。君の行いが正しいかはわからない。それでも、君は数百年もかけて賛同した者たちと、地球へ降り立ったじゃないか。君はレンとの約束を守った。無事に送り届けるという約束を」
「そうです。それに、……アルベルト様は、火傷で体が思うように動かなかったレンを、無理に連れて行こうとはしなかった。レンだって、本当は一緒に行きたかった筈です」
「火傷? 火傷って……」
マリアの問いにアルベルトは歯を食いしばり、眉間に力を入れた姿で、うな垂れた。
「俺が竜になって暴走して、レンを焼いた傷痕だ」
「……‼ なんで、どうして……」
「文字通り、俺が暴走してたからだ。そんな俺を止められるのは、聖獣として生きる、守護獣として生きていたレンだけだった。……アイツ、力のほとんど使い切って俺を止めたから、自分の傷を治すことは出来なかったんだ。本当に、ボロボロの状態だった。俺に治癒の力があれば。そもそも俺の意思が強ければ、暴走なんてなかったんだと、何度も謝ったんだ」
「……そんな」
「個人の都合でレスティン・フェレスへ連れて来たくせに、孤独にさせた。それも散々待たせた俺がやったことは、ブレスでアイツを焼き、アイツにひっぱたかれて止めるまで世界を燃やしただけだった。……数千年越しの再会を、俺は壊してしまった。」
アルベルトは顔を上げると歯を食いしばった。それは嘆き悲しんでいるのではなく、決意の現れだ。アドニスはそんな男に対し、言葉を発しようとしたが、先にアルベルトが話し出した。
「ゲートについて、他に何か言ってなかったか」
「……はい。話していたそうですよ。黒龍に導かれ、その下に参上するのが彼らの、アンチ・ニミアゼルの務めだそうです」
「…………」
「ねえ、黒龍ってなんなの? 竜なんだし、アルベルトの仲間なんでしょ?」
「……いや。俺の知る限り、そんな竜は知らない。ルギリア帝国時代の俺は、本当に馬鹿だったからな。……黒龍について、レンは何か言っていたか」
アドニスは首を横に振る。偽りのない真実のようであった。マリアは大きく息を吐き、大きく息を吸った。そして、一行に向き直ったのだ。
「経緯は大体わかったわ。……レンは今、ティニアに掛かっていたウイルスに侵されている。そしてそのウイルスは、アルブレヒトという竜を殺せという命令が下っている。そして、それを拒んでいるであろうレンは、アルベルトへ銃を向けていたわ。それが殺意だとは思えなかったけれど」
「確かに発砲していたな」
「レンは暴走しているっていう表現よね。恐らく黒龍の名の下に、昔のラウルのように狂わされているとしたら、どう」
「どういう事だ、マリア」
マリアはアルベルトではなく、アドニスへ向かった。
「ラウルはかつて、狂わされて操られていた。そしてレンが力づくでボロボロになりながら、それを止めたって言ってたでしょ? ウイルスはなんとかレンが抗っているけれど、その狂わされていることに関しては抗えていない、そうなんじゃない?」
「…………なッ……」
「ラウルって、レンの眼をもらって何とか動いてるのよね。もしそうなら、レンの眼を……」
「待ってください」
アドニスはそう言いながら、人差し指を立てた。
「まだ話していない、もう一つの悪い話です」
アルベルトは遠い目をしながら、遠い日々の記憶を話し出した。自然とフリージアと繋ぐ手に力が込められる。
「レスティン・フェレスへやってきたレンだったが、そう長くは生きられなかった。俺も加護を、竜の祝福を与えられるだけ与えはしたんだが、100年が限度だった。それからすぐにアイツは生まれ変わったそうだが、俺はレスティン・フェレスを襲った毒の光を止めるべく、力を使い果たして死んだ」
「え⁉」
「だから俺は、レンをレスティン・フェレスにあるセシュール国に残していった。約1000年だ」
「じゃあその時のレンは、千年も……待っていたの?」
マリアの言葉に、ティナが静かに頷いた。
「レスティン・フェレスの古い伝承で、とある狐が大泣きして天変地異で長い雨期を生んだと、伝説に残っています。その物語では狼として紹介されていました」
「そうだ」
レオンは天を仰ぐように、ボーデン湖の底を見つめた。
「それはレンが緋竜の死を知り、泣いたために起こった天変地異だと本人から聞いている。それは緋竜の加護、祝福を受けた結果であるのでしょう」
「約束のお祭りとして、現地セシュールでは伝わっている話ですね」
レオンはアルベルトのように遠い目をすると、かつての親友を見つめた。静かに頷いたアルベルトは、その後も語る。
「……俺は生まれ変わったが、レスティン・フェレスの帝国ルギリアの第一皇子だった。レンはすぐに俺に気付いたが、当時からセシュールと帝国は仲が悪かったという。そのせいか帝国人の俺に、レンは一切接触してこなかった。アイツは、そういう奴なんだ。俺にだって、記憶はなく、レンを知らずに生きていた。その時のベビーシッターがティニアだよ」
「でも、1000年も待ったなら……」
「帝国は、レンの国、セシュール国へ何度も侵略戦争を仕掛け、戦争していた歴史があったんだ。全てセシュール側の勝利だったが」
「じゃあ、アルブレヒト皇子だったとき、いつレンと会ったの……?」
レオンが優しく寄り添った所で、ティナが俯いた。ティナが語れなかった為にレオンが代わりにマリアたちへ向かう。
「彼女が、ティニアが爆散した後です」
「ッ……。そんな…………」
そして閉じていた目を開けたレオンはアルベルトへ向かった。
「君たちを見送った身として言う。君の行いが正しいかはわからない。それでも、君は数百年もかけて賛同した者たちと、地球へ降り立ったじゃないか。君はレンとの約束を守った。無事に送り届けるという約束を」
「そうです。それに、……アルベルト様は、火傷で体が思うように動かなかったレンを、無理に連れて行こうとはしなかった。レンだって、本当は一緒に行きたかった筈です」
「火傷? 火傷って……」
マリアの問いにアルベルトは歯を食いしばり、眉間に力を入れた姿で、うな垂れた。
「俺が竜になって暴走して、レンを焼いた傷痕だ」
「……‼ なんで、どうして……」
「文字通り、俺が暴走してたからだ。そんな俺を止められるのは、聖獣として生きる、守護獣として生きていたレンだけだった。……アイツ、力のほとんど使い切って俺を止めたから、自分の傷を治すことは出来なかったんだ。本当に、ボロボロの状態だった。俺に治癒の力があれば。そもそも俺の意思が強ければ、暴走なんてなかったんだと、何度も謝ったんだ」
「……そんな」
「個人の都合でレスティン・フェレスへ連れて来たくせに、孤独にさせた。それも散々待たせた俺がやったことは、ブレスでアイツを焼き、アイツにひっぱたかれて止めるまで世界を燃やしただけだった。……数千年越しの再会を、俺は壊してしまった。」
アルベルトは顔を上げると歯を食いしばった。それは嘆き悲しんでいるのではなく、決意の現れだ。アドニスはそんな男に対し、言葉を発しようとしたが、先にアルベルトが話し出した。
「ゲートについて、他に何か言ってなかったか」
「……はい。話していたそうですよ。黒龍に導かれ、その下に参上するのが彼らの、アンチ・ニミアゼルの務めだそうです」
「…………」
「ねえ、黒龍ってなんなの? 竜なんだし、アルベルトの仲間なんでしょ?」
「……いや。俺の知る限り、そんな竜は知らない。ルギリア帝国時代の俺は、本当に馬鹿だったからな。……黒龍について、レンは何か言っていたか」
アドニスは首を横に振る。偽りのない真実のようであった。マリアは大きく息を吐き、大きく息を吸った。そして、一行に向き直ったのだ。
「経緯は大体わかったわ。……レンは今、ティニアに掛かっていたウイルスに侵されている。そしてそのウイルスは、アルブレヒトという竜を殺せという命令が下っている。そして、それを拒んでいるであろうレンは、アルベルトへ銃を向けていたわ。それが殺意だとは思えなかったけれど」
「確かに発砲していたな」
「レンは暴走しているっていう表現よね。恐らく黒龍の名の下に、昔のラウルのように狂わされているとしたら、どう」
「どういう事だ、マリア」
マリアはアルベルトではなく、アドニスへ向かった。
「ラウルはかつて、狂わされて操られていた。そしてレンが力づくでボロボロになりながら、それを止めたって言ってたでしょ? ウイルスはなんとかレンが抗っているけれど、その狂わされていることに関しては抗えていない、そうなんじゃない?」
「…………なッ……」
「ラウルって、レンの眼をもらって何とか動いてるのよね。もしそうなら、レンの眼を……」
「待ってください」
アドニスはそう言いながら、人差し指を立てた。
「まだ話していない、もう一つの悪い話です」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】暁の草原
Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。
その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。
大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。
彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。
面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。
男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。
=====
別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
=====
他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる