【完結】暁の荒野

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第13輪「白銀と廻るオモイ」

⑬-9 インヴェンション第4章④

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「セシュールか。本当に懐かしい」

 アルベルトは遠い目をしながら、遠い日々の記憶を話し出した。自然とフリージアと繋ぐ手に力が込められる。

「レスティン・フェレスへやってきたレンだったが、そう長くは生きられなかった。俺も加護を、竜の祝福を与えられるだけ与えはしたんだが、100年が限度だった。それからすぐにアイツは生まれ変わったそうだが、俺はレスティン・フェレスを襲った毒の光を止めるべく、力を使い果たして死んだ」
「え⁉」
「だから俺は、レンをレスティン・フェレスにあるセシュール国に残していった。約1000年だ」
「じゃあその時のレンは、千年も……待っていたの?」

 マリアの言葉に、ティナが静かに頷いた。

「レスティン・フェレスの古い伝承で、とある狐が大泣きして天変地異で長い雨期を生んだと、伝説に残っています。その物語では狼として紹介されていました」
「そうだ」

 レオンは天を仰ぐように、ボーデン湖の底を見つめた。

「それはレンが緋竜の死を知り、泣いたために起こった天変地異だと本人から聞いている。それは緋竜の加護、祝福を受けた結果であるのでしょう」
「約束のお祭りとして、現地セシュールでは伝わっている話ですね」

 レオンはアルベルトのように遠い目をすると、かつての親友を見つめた。静かに頷いたアルベルトは、その後も語る。

「……俺は生まれ変わったが、レスティン・フェレスの帝国ルギリアの第一皇子だった。レンはすぐに俺に気付いたが、当時からセシュールと帝国は仲が悪かったという。そのせいか帝国人の俺に、レンは一切接触してこなかった。アイツは、そういう奴なんだ。俺にだって、記憶はなく、レンを知らずに生きていた。その時のベビーシッターがティニアだよ」
「でも、1000年も待ったなら……」
「帝国は、レンの国、セシュール国へ何度も侵略戦争を仕掛け、戦争していた歴史があったんだ。全てセシュール側の勝利だったが」
「じゃあ、アルブレヒト皇子だったとき、いつレンと会ったの……?」

 レオンが優しく寄り添った所で、ティナが俯いた。ティナが語れなかった為にレオンが代わりにマリアたちへ向かう。

「彼女が、ティニアが爆散した後です」
「ッ……。そんな…………」


 そして閉じていた目を開けたレオンはアルベルトへ向かった。

「君たちを見送った身として言う。君の行いが正しいかはわからない。それでも、君は数百年もかけて賛同した者たちと、地球へ降り立ったじゃないか。君はレンとの約束を守った。無事に送り届けるという約束を」
「そうです。それに、……アルベルト様は、火傷で体が思うように動かなかったレンを、無理に連れて行こうとはしなかった。レンだって、本当は一緒に行きたかった筈です」
「火傷? 火傷って……」

 マリアの問いにアルベルトは歯を食いしばり、眉間に力を入れた姿で、うな垂れた。

「俺が竜になって暴走して、レンを焼いた傷痕だ」
「……‼ なんで、どうして……」
「文字通り、俺が暴走してたからだ。そんな俺を止められるのは、聖獣として生きる、守護獣として生きていたレンだけだった。……アイツ、力のほとんど使い切って俺を止めたから、自分の傷を治すことは出来なかったんだ。本当に、ボロボロの状態だった。俺に治癒の力があれば。そもそも俺の意思が強ければ、暴走なんてなかったんだと、何度も謝ったんだ」
「……そんな」
「個人の都合でレスティン・フェレスへ連れて来たくせに、孤独にさせた。それも散々待たせた俺がやったことは、ブレスでアイツを焼き、アイツにひっぱたかれて止めるまで世界を燃やしただけだった。……数千年越しの再会を、俺は壊してしまった。」

 アルベルトは顔を上げると歯を食いしばった。それは嘆き悲しんでいるのではなく、決意の現れだ。アドニスはそんな男に対し、言葉を発しようとしたが、先にアルベルトが話し出した。

「ゲートについて、他に何か言ってなかったか」
「……はい。話していたそうですよ。黒龍に導かれ、その下に参上するのが彼らの、アンチ・ニミアゼルの務めだそうです」
「…………」
「ねえ、黒龍ってなんなの? 竜なんだし、アルベルトの仲間なんでしょ?」
「……いや。俺の知る限り、そんな竜は知らない。ルギリア帝国時代の俺は、本当に馬鹿だったからな。……黒龍について、レンは何か言っていたか」

 アドニスは首を横に振る。偽りのない真実のようであった。マリアは大きく息を吐き、大きく息を吸った。そして、一行に向き直ったのだ。

「経緯は大体わかったわ。……レンは今、ティニアに掛かっていたウイルスに侵されている。そしてそのウイルスは、アルブレヒトという竜を殺せという命令が下っている。そして、それを拒んでいるであろうレンは、アルベルトへ銃を向けていたわ。それが殺意だとは思えなかったけれど」
「確かに発砲していたな」
「レンは暴走しているっていう表現よね。恐らく黒龍の名の下に、昔のラウルのように狂わされているとしたら、どう」
「どういう事だ、マリア」

 マリアはアルベルトではなく、アドニスへ向かった。

「ラウルはかつて、狂わされて操られていた。そしてレンが力づくでボロボロになりながら、それを止めたって言ってたでしょ? ウイルスはなんとかレンが抗っているけれど、その狂わされていることに関しては抗えていない、そうなんじゃない?」
「…………なッ……」
「ラウルって、レンの眼をもらって何とか動いてるのよね。もしそうなら、レンの眼を……」
「待ってください」

 アドニスはそう言いながら、人差し指を立てた。

「まだ話していない、もう一つの悪い話です」
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