【完結】暁の荒野

Lesewolf

文字の大きさ
上 下
215 / 257
第13輪「白銀と廻るオモイ」

⑬-7 インヴェンション第4章②

しおりを挟む
 レンが侵されているウイルスという病。どれほど恐ろしいものなのか、マリアや子供たちにはまだ理解しきれていなかった。

「ねえ。そのウイルスには、特効薬はないの?」
「防ぐことは出来ますが、一度疾患してしまえば治った事例はありません」

 ティナの言葉に、絶句し、無力さに辟易することしか出来ないのだろうか。

「なんでも超えられる。越えられないものはなかったんでしょ? 物理法則を越えられる。レンは、ティニアはずっとそう言っていたじゃない」

 マリアの言葉に、ティナやレオンだけではなく、アルベルトも無言を貫いてしまう。それは絶望を物語るのには充分であった。それで納得できることではない。何より――。

「ねえ、アドニスさん! 何かあるんでしょう? だから、そんなに悶えているのではないの?」
「…………」

 饒舌だったアドニスが黙り込む。

「何かあるから、憤ってる。どうしてすぐに私たちが行動しないのかを。そうなんでしょう」
「なるほど。マリアはレン様の言う様に賢くある、か……」

 アドニスは一行に向き合うと、二本指を立てた。

「悪い話が二つあります」
「悪い話が、二つも?」
「レン様は元々、アンチ・ニミアゼルに下されていた命令がありました」
「命令だって?」

 反応したアルベルトへ、怒りの形相を浮かべたアドニスは、すぐにニヒルな笑みを浮かべる。その姿に、彼を知っていた筈のコルネリアが一歩後ずさりを始め、ヴァルクに体を支えられるまでよろけてしまった。

「ええ。とある命令です」

 初耳だったのであろう。レオンとティナもお互いの顔を見合わせ、アドニスを見つめる。とてつもなく、嫌な予感がマリアを襲う。

「何なの? その命令って……」


「緋竜が転生している。緋竜を見つけ次第、篭絡して傀儡にせよ」
「……は、はあ⁉」
「アルを傀儡にするというのか?」

 驚いたレオンはアルベルトを見つめるが、本人が一番驚きの形相で固まっている。

「そんな命令があるなんて。レンの正体がバレていたってことじゃないの⁉」
「そうかもしれません。最もその緋竜の魂が見つからなかった為に、その命令は後回しにされていました。だからこそアルベルトは、奴らに捕捉されることなく、今ものうのうと生きている」
「俺が、竜だから……。俺のせいか」
「ええ。奴らは言っていたそうです。 『ゲートを開かせよ』と」
「‼」

 その言葉に、アルベルトとレオン、そしてティナの表情が驚愕する。三人の反応から、それがレスティン・フェレスのものであることを指すのは誰もがわかっていた。子供たちでさえも。

「なんでも、地球とレスティン・フェレスを繋ぐ扉があるそうじゃないですか。君はそれを破壊に地球へやってきた。それも一つの目的だったと聞いています」
「アルベルト、どういうこと?」

 アルベルトは俯いたまま、何も言葉にしない。苛立ったマリアはアルベルトへ詰め寄った。

「答えて、アルベルト!」
「ぼ、ぼくらが地球に帰ってきた理由に関係あると思います」

 答えたのはコルネリアだった。それ以上は言葉にならず、ヴァルクが言葉を言いかえる。

「俺らは元々、地球人だったんです。昔、竜のいたずらでゲートが開かれ、二つの星が繋がっていた。その星を行き来して、レスティン・フェレスの獣がこちらに渡り、各地で騒ぎを起こしていたって聞いています。反対に、僕らの祖先はレスティン・フェレスへ渡ってしまったんです。過去の伝説にある竜やグリフォンなんかの幻獣伝説は、そこから来ているとされていますよ」
「すごく大昔、地球では竜とかいっぱいいた伝説があるんじゃないですか? 恐竜じゃなくて」

 コルネリアの言葉に、ヴァルクも続けた。

「俺たちは教訓として聞かされていた。ジジが話しているのは俺が伝え聞いていたものを、話して聞かせたんです。いたずらをやっていたのが、当時の幼い緋竜アルブレヒト様と、聖獣のレンだったって聞いてます」
「なっ……レン⁉」
「違う! あれは俺が……」

 アルベルトは思っても居ない程の大きな声で吠えた。あまりの咆哮に驚いた子供たちが一歩下がり、フリージアはアルベルトを掴む腕を強く握る。

「す、すまない。大きな声を……」
「どういう事なんだ、アル。今の話は……」
「…………古の時代、俺は湖鏡みずうみかがみというもので、レンを。地球に生きていた狐であるレンを見ていたんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】暁の草原

Lesewolf
ファンタジー
かつて守護竜の愛した大陸、ルゼリアがある。 その北西に広がるセシュール国が南、大国ルゼリアとの国境の町で、とある男は昼を過ぎてから目を覚ました。 大戦後の復興に尽力する労働者と、懐かしい日々を語る。 彼らが仕事に戻った後で、宿の大旦那から奇妙な話を聞く。 面識もなく、名もわからない兄を探しているという、少年が店に現れたというのだ。 男は警戒しながらも、少年を探しに町へと向かった。 ===== 別で投稿している「暁の荒野」と連動しています。「暁の荒野」の続編が「暁の草原」になります。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。 ===== 他、Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しておりますが、執筆はNola(エディタツール)で行っております。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...