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第13輪「白銀と廻るオモイ」
⑬-7 インヴェンション第4章②
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レンが侵されているウイルスという病。どれほど恐ろしいものなのか、マリアや子供たちにはまだ理解しきれていなかった。
「ねえ。そのウイルスには、特効薬はないの?」
「防ぐことは出来ますが、一度疾患してしまえば治った事例はありません」
ティナの言葉に、絶句し、無力さに辟易することしか出来ないのだろうか。
「なんでも超えられる。越えられないものはなかったんでしょ? 物理法則を越えられる。レンは、ティニアはずっとそう言っていたじゃない」
マリアの言葉に、ティナやレオンだけではなく、アルベルトも無言を貫いてしまう。それは絶望を物語るのには充分であった。それで納得できることではない。何より――。
「ねえ、アドニスさん! 何かあるんでしょう? だから、そんなに悶えているのではないの?」
「…………」
饒舌だったアドニスが黙り込む。
「何かあるから、憤ってる。どうしてすぐに私たちが行動しないのかを。そうなんでしょう」
「なるほど。マリアはレン様の言う様に賢くある、か……」
アドニスは一行に向き合うと、二本指を立てた。
「悪い話が二つあります」
「悪い話が、二つも?」
「レン様は元々、アンチ・ニミアゼルに下されていた命令がありました」
「命令だって?」
反応したアルベルトへ、怒りの形相を浮かべたアドニスは、すぐにニヒルな笑みを浮かべる。その姿に、彼を知っていた筈のコルネリアが一歩後ずさりを始め、ヴァルクに体を支えられるまでよろけてしまった。
「ええ。とある命令です」
初耳だったのであろう。レオンとティナもお互いの顔を見合わせ、アドニスを見つめる。とてつもなく、嫌な予感がマリアを襲う。
「何なの? その命令って……」
「緋竜が転生している。緋竜を見つけ次第、篭絡して傀儡にせよ」
「……は、はあ⁉」
「アルを傀儡にするというのか?」
驚いたレオンはアルベルトを見つめるが、本人が一番驚きの形相で固まっている。
「そんな命令があるなんて。レンの正体がバレていたってことじゃないの⁉」
「そうかもしれません。最もその緋竜の魂が見つからなかった為に、その命令は後回しにされていました。だからこそアルベルトは、奴らに捕捉されることなく、今ものうのうと生きている」
「俺が、竜だから……。俺のせいか」
「ええ。奴らは言っていたそうです。 『ゲートを開かせよ』と」
「‼」
その言葉に、アルベルトとレオン、そしてティナの表情が驚愕する。三人の反応から、それがレスティン・フェレスのものであることを指すのは誰もがわかっていた。子供たちでさえも。
「なんでも、地球とレスティン・フェレスを繋ぐ扉があるそうじゃないですか。君はそれを破壊に地球へやってきた。それも一つの目的だったと聞いています」
「アルベルト、どういうこと?」
アルベルトは俯いたまま、何も言葉にしない。苛立ったマリアはアルベルトへ詰め寄った。
「答えて、アルベルト!」
「ぼ、ぼくらが地球に帰ってきた理由に関係あると思います」
答えたのはコルネリアだった。それ以上は言葉にならず、ヴァルクが言葉を言いかえる。
「俺らは元々、地球人だったんです。昔、竜のいたずらでゲートが開かれ、二つの星が繋がっていた。その星を行き来して、レスティン・フェレスの獣がこちらに渡り、各地で騒ぎを起こしていたって聞いています。反対に、僕らの祖先はレスティン・フェレスへ渡ってしまったんです。過去の伝説にある竜やグリフォンなんかの幻獣伝説は、そこから来ているとされていますよ」
「すごく大昔、地球では竜とかいっぱいいた伝説があるんじゃないですか? 恐竜じゃなくて」
コルネリアの言葉に、ヴァルクも続けた。
「俺たちは教訓として聞かされていた。ジジが話しているのは俺が伝え聞いていたものを、話して聞かせたんです。いたずらをやっていたのが、当時の幼い緋竜アルブレヒト様と、聖獣のレンだったって聞いてます」
「なっ……レン⁉」
「違う! あれは俺が……」
アルベルトは思っても居ない程の大きな声で吠えた。あまりの咆哮に驚いた子供たちが一歩下がり、フリージアはアルベルトを掴む腕を強く握る。
「す、すまない。大きな声を……」
「どういう事なんだ、アル。今の話は……」
「…………古の時代、俺は湖鏡というもので、レンを。地球に生きていた狐であるレンを見ていたんだ」
「ねえ。そのウイルスには、特効薬はないの?」
「防ぐことは出来ますが、一度疾患してしまえば治った事例はありません」
ティナの言葉に、絶句し、無力さに辟易することしか出来ないのだろうか。
「なんでも超えられる。越えられないものはなかったんでしょ? 物理法則を越えられる。レンは、ティニアはずっとそう言っていたじゃない」
マリアの言葉に、ティナやレオンだけではなく、アルベルトも無言を貫いてしまう。それは絶望を物語るのには充分であった。それで納得できることではない。何より――。
「ねえ、アドニスさん! 何かあるんでしょう? だから、そんなに悶えているのではないの?」
「…………」
饒舌だったアドニスが黙り込む。
「何かあるから、憤ってる。どうしてすぐに私たちが行動しないのかを。そうなんでしょう」
「なるほど。マリアはレン様の言う様に賢くある、か……」
アドニスは一行に向き合うと、二本指を立てた。
「悪い話が二つあります」
「悪い話が、二つも?」
「レン様は元々、アンチ・ニミアゼルに下されていた命令がありました」
「命令だって?」
反応したアルベルトへ、怒りの形相を浮かべたアドニスは、すぐにニヒルな笑みを浮かべる。その姿に、彼を知っていた筈のコルネリアが一歩後ずさりを始め、ヴァルクに体を支えられるまでよろけてしまった。
「ええ。とある命令です」
初耳だったのであろう。レオンとティナもお互いの顔を見合わせ、アドニスを見つめる。とてつもなく、嫌な予感がマリアを襲う。
「何なの? その命令って……」
「緋竜が転生している。緋竜を見つけ次第、篭絡して傀儡にせよ」
「……は、はあ⁉」
「アルを傀儡にするというのか?」
驚いたレオンはアルベルトを見つめるが、本人が一番驚きの形相で固まっている。
「そんな命令があるなんて。レンの正体がバレていたってことじゃないの⁉」
「そうかもしれません。最もその緋竜の魂が見つからなかった為に、その命令は後回しにされていました。だからこそアルベルトは、奴らに捕捉されることなく、今ものうのうと生きている」
「俺が、竜だから……。俺のせいか」
「ええ。奴らは言っていたそうです。 『ゲートを開かせよ』と」
「‼」
その言葉に、アルベルトとレオン、そしてティナの表情が驚愕する。三人の反応から、それがレスティン・フェレスのものであることを指すのは誰もがわかっていた。子供たちでさえも。
「なんでも、地球とレスティン・フェレスを繋ぐ扉があるそうじゃないですか。君はそれを破壊に地球へやってきた。それも一つの目的だったと聞いています」
「アルベルト、どういうこと?」
アルベルトは俯いたまま、何も言葉にしない。苛立ったマリアはアルベルトへ詰め寄った。
「答えて、アルベルト!」
「ぼ、ぼくらが地球に帰ってきた理由に関係あると思います」
答えたのはコルネリアだった。それ以上は言葉にならず、ヴァルクが言葉を言いかえる。
「俺らは元々、地球人だったんです。昔、竜のいたずらでゲートが開かれ、二つの星が繋がっていた。その星を行き来して、レスティン・フェレスの獣がこちらに渡り、各地で騒ぎを起こしていたって聞いています。反対に、僕らの祖先はレスティン・フェレスへ渡ってしまったんです。過去の伝説にある竜やグリフォンなんかの幻獣伝説は、そこから来ているとされていますよ」
「すごく大昔、地球では竜とかいっぱいいた伝説があるんじゃないですか? 恐竜じゃなくて」
コルネリアの言葉に、ヴァルクも続けた。
「俺たちは教訓として聞かされていた。ジジが話しているのは俺が伝え聞いていたものを、話して聞かせたんです。いたずらをやっていたのが、当時の幼い緋竜アルブレヒト様と、聖獣のレンだったって聞いてます」
「なっ……レン⁉」
「違う! あれは俺が……」
アルベルトは思っても居ない程の大きな声で吠えた。あまりの咆哮に驚いた子供たちが一歩下がり、フリージアはアルベルトを掴む腕を強く握る。
「す、すまない。大きな声を……」
「どういう事なんだ、アル。今の話は……」
「…………古の時代、俺は湖鏡というもので、レンを。地球に生きていた狐であるレンを見ていたんだ」
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