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第13輪「白銀と廻るオモイ」
⑬-2 遅れたフーガ①
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「フリージア」
不意に声をかけられ、白銀の髪を靡かせる。相手は朱色の髪の美しいマリアだ。マリアは人造人間であると言うが、フリージアにとっては頼れるお姉さんにかわりなかった。
「マリアお姉ちゃん」
「部屋に戻るところ?」
「いえ、アルお兄ちゃんのところに」
マリアは嬉しそうに微笑む。その微笑みは安心できる微笑みであり、母親代わりになってくれていたティニア、レンが思い浮かぶ。
「私も一緒に行ってもいい?」
「はい。でも、まだ寝ているかもしれないです」
「大丈夫よ。昨日、結局みんな疲れていて、何も話せなかったじゃない? それに、寝ていたら出直すから」
「それなら、叩き起こします」
「ええ……。フリージアって、意外と強気なのね」
フリージアは笑みを浮かべながらマリアを見つめていた。
「どうしたの?」
「えっ」
「私の顔、何かついてる?」
「あ……。えっと、髪型。素敵だなって思って」
マリアはハッとしたように、照れくさそうに微笑んだ。マリアは髪を一つに束ねている。右耳の上に一つにポニーテールを結っているのだ。フリージアはその髪型を一目で気に入った。マリアはすぐにポケットに手を入れると、紫色のリボンを取り出した。
「部屋で結んであげるわ。2本あるから、ツインテールでどう?」
「あたしなんかが、おしゃれしても……」
「そんなことないわ。おしゃれはしたい人が、自分の好きにおしゃれしていいのよ。ミュラーさんの受け売りだけどね。不安なら、背伸びしなければいいの。自分に合ってるおしゃれがあるから」
マリアにそれを教えてくれたミュラー夫人、ミランダはここには居ない。ミュラー夫人とその旦那ディートリヒはどうしているだろうか。アレン財団の関係者でタウ族のものであるのなら、里の存在も知っているかもしれない。
(落ち着いたら聞いてみよう。お店のこともあるし、メアリーさんだって心配してるよね……。今更、お店何て……。もう戻れないのに)
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめんね! ちょっと考えごとを」
「大丈夫ですか? お姉ちゃんは、眠れてる?」
「優しいのね。大丈夫よ。意外とタフみたい」
ある程度受け入れていた現実は、マリアにとっては何てことはなかった。当事者ではあるものの、アルベルトに比べれば軽すぎるくらいだ。
「フリージアも、大丈夫?」
「うん……。あたしより、アルお兄ちゃんが心配」
そして、それ以上に心配しているのは、今もレンの事をティニア様と呼び続ける存在だろう。
「ねえ」
マリアが立ち止まると、フリージアも立ち止まって振り返った。白銀の髪を見れば見るほどに、少年であったレンを思い浮かべる。
「はい」
「ティニアのこと、好き?」
「はい!」
万遍の笑みで返る即答。充分な回答だ。フリージアは思いつめた様子もなく、マリアを笑顔で見つめ返した。
「そう。私も好きよ。ティニアのこと。レンのことも」
「あの、あたし。レン様って呼んだ方がいいですか?」
その言葉に、マリアはゆっくりと首を横へ振る。それでいて自然な微笑みが浮かぶ。その微笑みの中に、過去を思い出すかのような、寂しさが垣間見えた。
「ティニアのことを、そう呼んでるだけでしょ? ほかの誰のことでもないもの。大丈夫よ。レンもわかってくれる」
「嫌われない?」
「嫌ったりしないわ。絶対に」
「ぜったい?」
絶対。それは揺らぐことのない意思表示。
「うん。言い切れる自信があるわ。だって、ティニアを信じてるもの。きっと、……また呼びかけたら微笑んで振り返ってくれるって」
「うん。あたしも信じてます」
「うん。私たちだけでも、信じていようね。アルベルトも、きっと信じてるから」
「はい!」
間を置いたものの、フリージアは本日一番の笑みを浮かべる。歯を出して、くしゃくしゃに笑う少女は愛らしく、可愛らしい。素直な彼女を見習わなくてはいけない。その為に一晩考えたことをアルベルトに、最初に話すべきなのだ。
そのために。起きてもらわなければならない。
目覚めのときだ。
「正しき選択を迫られているのは、恐らくアルベルトよ」
不意に声をかけられ、白銀の髪を靡かせる。相手は朱色の髪の美しいマリアだ。マリアは人造人間であると言うが、フリージアにとっては頼れるお姉さんにかわりなかった。
「マリアお姉ちゃん」
「部屋に戻るところ?」
「いえ、アルお兄ちゃんのところに」
マリアは嬉しそうに微笑む。その微笑みは安心できる微笑みであり、母親代わりになってくれていたティニア、レンが思い浮かぶ。
「私も一緒に行ってもいい?」
「はい。でも、まだ寝ているかもしれないです」
「大丈夫よ。昨日、結局みんな疲れていて、何も話せなかったじゃない? それに、寝ていたら出直すから」
「それなら、叩き起こします」
「ええ……。フリージアって、意外と強気なのね」
フリージアは笑みを浮かべながらマリアを見つめていた。
「どうしたの?」
「えっ」
「私の顔、何かついてる?」
「あ……。えっと、髪型。素敵だなって思って」
マリアはハッとしたように、照れくさそうに微笑んだ。マリアは髪を一つに束ねている。右耳の上に一つにポニーテールを結っているのだ。フリージアはその髪型を一目で気に入った。マリアはすぐにポケットに手を入れると、紫色のリボンを取り出した。
「部屋で結んであげるわ。2本あるから、ツインテールでどう?」
「あたしなんかが、おしゃれしても……」
「そんなことないわ。おしゃれはしたい人が、自分の好きにおしゃれしていいのよ。ミュラーさんの受け売りだけどね。不安なら、背伸びしなければいいの。自分に合ってるおしゃれがあるから」
マリアにそれを教えてくれたミュラー夫人、ミランダはここには居ない。ミュラー夫人とその旦那ディートリヒはどうしているだろうか。アレン財団の関係者でタウ族のものであるのなら、里の存在も知っているかもしれない。
(落ち着いたら聞いてみよう。お店のこともあるし、メアリーさんだって心配してるよね……。今更、お店何て……。もう戻れないのに)
「お姉ちゃん?」
「あ、ごめんね! ちょっと考えごとを」
「大丈夫ですか? お姉ちゃんは、眠れてる?」
「優しいのね。大丈夫よ。意外とタフみたい」
ある程度受け入れていた現実は、マリアにとっては何てことはなかった。当事者ではあるものの、アルベルトに比べれば軽すぎるくらいだ。
「フリージアも、大丈夫?」
「うん……。あたしより、アルお兄ちゃんが心配」
そして、それ以上に心配しているのは、今もレンの事をティニア様と呼び続ける存在だろう。
「ねえ」
マリアが立ち止まると、フリージアも立ち止まって振り返った。白銀の髪を見れば見るほどに、少年であったレンを思い浮かべる。
「はい」
「ティニアのこと、好き?」
「はい!」
万遍の笑みで返る即答。充分な回答だ。フリージアは思いつめた様子もなく、マリアを笑顔で見つめ返した。
「そう。私も好きよ。ティニアのこと。レンのことも」
「あの、あたし。レン様って呼んだ方がいいですか?」
その言葉に、マリアはゆっくりと首を横へ振る。それでいて自然な微笑みが浮かぶ。その微笑みの中に、過去を思い出すかのような、寂しさが垣間見えた。
「ティニアのことを、そう呼んでるだけでしょ? ほかの誰のことでもないもの。大丈夫よ。レンもわかってくれる」
「嫌われない?」
「嫌ったりしないわ。絶対に」
「ぜったい?」
絶対。それは揺らぐことのない意思表示。
「うん。言い切れる自信があるわ。だって、ティニアを信じてるもの。きっと、……また呼びかけたら微笑んで振り返ってくれるって」
「うん。あたしも信じてます」
「うん。私たちだけでも、信じていようね。アルベルトも、きっと信じてるから」
「はい!」
間を置いたものの、フリージアは本日一番の笑みを浮かべる。歯を出して、くしゃくしゃに笑う少女は愛らしく、可愛らしい。素直な彼女を見習わなくてはいけない。その為に一晩考えたことをアルベルトに、最初に話すべきなのだ。
そのために。起きてもらわなければならない。
目覚めのときだ。
「正しき選択を迫られているのは、恐らくアルベルトよ」
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