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第12輪「暁の星はいと麗しき」
⑫-7 それが君の真実②
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レオンは何度も語ろうと口を開くが、言葉にならずにいた。それをもどかしいと感じたのか、アドニスが更に捲くし立てる。
「私の口から話しても構わないのですよ。ゲオルク」
「…………ッ!」
「ゲオルクも、お前の名前。そうなんだな、レオン……?」
アルベルトにゲオルクと呼ばれ、歯を食いしばったレオンはついに顔を上げる。アルベルトをじっと見つめると、その横へ駆け寄ったティナもまた、アルベルトを見つめた。
二人の顔を交互に見ていたアルベルトへ、レオンが重い口を開く。その表情は酷く怯えている。
「レスティン・フェレスで古の時代、僕はゲオルクという名だった」
「…………」
「それは生まれ変わっても、僕の名であり続けた。その名こそ、僕にとっての烙印であり、大罪の名だからだ」
「大罪の、名?」
大きく息を吸ったレオンに、ティナが付き添い、背中を摩る。二人は今も夫婦のようである。ラウルとレンの二人の抱擁がチラつき、アルベルトの眉を歪める。
それでも、以前ミュラー夫人ミランダに言われた言葉が頭を過ぎる。
(嫉妬で曇らせるな……)
アルベルトが正面を向いた時、レオンと視線が自然と重なった。そのままレオンは大きく息を吸い、再び見つめ直した。
「僕はその時代で、初めて君に出会った。君はアルブレヒト・フォン・ルギリアという名で、ルギリア帝国の第一皇子だった」
「ルギリア……帝国…………」
「思い出してほしい。君は、そこで、無感情病に疾患していた母を持っていた。名をシャルロッテ・フォン・ルギリア」
「シャルロッテ……」
「無感情病の母に代わり、幼い君にはシッターという専門の機械人形がついた。彼女の名は……」
俯いたレオンに、ティナがアルベルトを真っ直ぐ見据える。その瞳に見覚えを感じたのだ。
そして、言葉はすんなりと口に出て消える。
「ティニア・ボレード……」
二人の目線だけでなく、一同の視線がアルベルトに集まった。マリアは信じられないような表情を浮かべると、目を見開いて立ち上がった。
「待って。ティナの前世は、アルベルトを知っていたの?」
「ティナの前世……? まさか」
「……私の最初の前世が、ティニア・ボレードです。そして、ラウルの姉機体でした」
「キミが、ティニア……」
「そうです。アルブレヒト様……。私です、ティニアです。お分かりですか?」
……………………。
――そこは庭園。多くの花が咲き乱れる緑と鮮やかな花たちの庭園。
――母の名をとったシャルロッテ庭園は、花を愛する彼女を一心に愛する父が作った、美しい庭園。
「あ、ああ…………」
――ティニアに色彩感覚はなく、復活させた古の技術を持った初期型のアンドロイドだった。
――全てがモノクロに見えた彼女は、よく母の好きな白いフリージアを摘みに庭園へ赴いていた。
――しかし、ティニアの色彩感覚では黄色いフリージアもまた、白いフリージアとして認識してしまい、そして。
(「アルブレヒト様、こちらは白いフリージアでしょうか?」)
「白い、フリージアを。俺に、よく、尋ねて…………」
――いつしか、ティニアの好きな花も白いフリージアとなり、良く自身も幼いながら母へ、そして彼女へプレゼントしていた。
――それが早死にした母への想いであり、母親代わりであり姉である存在、ティニアへの感謝だった。
――そして、彼女の弟であり無邪気な表情を浮かべるアンドロイド。彼の名はラウル。
――――共に生き、共に暮らしていた同胞を、忘れていたというのか。
「そうか、ティニア。君は俺の家族の代わりで、母の代わり…………」
「ああ、アルブレヒト様……」
「そうか。レオン、君は。……ゲオルクは、俺の唯一の親友……」
頭を抱えたアルベルトは震えだした。すぐにティナに支えられたレオンが足を引きずりながら駆け寄り、彼を抱きしめる。
……………………。
――過去のアルベルト、アルブレヒトの周りには皇子として媚びを、胡麻をする者たちで溢れていた。
――孤独だった大学時代に、ゲオルクだけが友となり、そして。
「そして、機械人形の、戦争が起こった……。ッ…………」
アルベルトの言葉に、レオン、そしてティナが俯く。
男の表情は一気に青ざめ、絶句したまま地面に崩れ落ちる。
「もうやめてよ、アルベルトが限界だわ!」
そんなマリアの言葉を止めたのはアルベルト自身だった。苦しそうに、手で制止したのだ。
「私の口から話しても構わないのですよ。ゲオルク」
「…………ッ!」
「ゲオルクも、お前の名前。そうなんだな、レオン……?」
アルベルトにゲオルクと呼ばれ、歯を食いしばったレオンはついに顔を上げる。アルベルトをじっと見つめると、その横へ駆け寄ったティナもまた、アルベルトを見つめた。
二人の顔を交互に見ていたアルベルトへ、レオンが重い口を開く。その表情は酷く怯えている。
「レスティン・フェレスで古の時代、僕はゲオルクという名だった」
「…………」
「それは生まれ変わっても、僕の名であり続けた。その名こそ、僕にとっての烙印であり、大罪の名だからだ」
「大罪の、名?」
大きく息を吸ったレオンに、ティナが付き添い、背中を摩る。二人は今も夫婦のようである。ラウルとレンの二人の抱擁がチラつき、アルベルトの眉を歪める。
それでも、以前ミュラー夫人ミランダに言われた言葉が頭を過ぎる。
(嫉妬で曇らせるな……)
アルベルトが正面を向いた時、レオンと視線が自然と重なった。そのままレオンは大きく息を吸い、再び見つめ直した。
「僕はその時代で、初めて君に出会った。君はアルブレヒト・フォン・ルギリアという名で、ルギリア帝国の第一皇子だった」
「ルギリア……帝国…………」
「思い出してほしい。君は、そこで、無感情病に疾患していた母を持っていた。名をシャルロッテ・フォン・ルギリア」
「シャルロッテ……」
「無感情病の母に代わり、幼い君にはシッターという専門の機械人形がついた。彼女の名は……」
俯いたレオンに、ティナがアルベルトを真っ直ぐ見据える。その瞳に見覚えを感じたのだ。
そして、言葉はすんなりと口に出て消える。
「ティニア・ボレード……」
二人の目線だけでなく、一同の視線がアルベルトに集まった。マリアは信じられないような表情を浮かべると、目を見開いて立ち上がった。
「待って。ティナの前世は、アルベルトを知っていたの?」
「ティナの前世……? まさか」
「……私の最初の前世が、ティニア・ボレードです。そして、ラウルの姉機体でした」
「キミが、ティニア……」
「そうです。アルブレヒト様……。私です、ティニアです。お分かりですか?」
……………………。
――そこは庭園。多くの花が咲き乱れる緑と鮮やかな花たちの庭園。
――母の名をとったシャルロッテ庭園は、花を愛する彼女を一心に愛する父が作った、美しい庭園。
「あ、ああ…………」
――ティニアに色彩感覚はなく、復活させた古の技術を持った初期型のアンドロイドだった。
――全てがモノクロに見えた彼女は、よく母の好きな白いフリージアを摘みに庭園へ赴いていた。
――しかし、ティニアの色彩感覚では黄色いフリージアもまた、白いフリージアとして認識してしまい、そして。
(「アルブレヒト様、こちらは白いフリージアでしょうか?」)
「白い、フリージアを。俺に、よく、尋ねて…………」
――いつしか、ティニアの好きな花も白いフリージアとなり、良く自身も幼いながら母へ、そして彼女へプレゼントしていた。
――それが早死にした母への想いであり、母親代わりであり姉である存在、ティニアへの感謝だった。
――そして、彼女の弟であり無邪気な表情を浮かべるアンドロイド。彼の名はラウル。
――――共に生き、共に暮らしていた同胞を、忘れていたというのか。
「そうか、ティニア。君は俺の家族の代わりで、母の代わり…………」
「ああ、アルブレヒト様……」
「そうか。レオン、君は。……ゲオルクは、俺の唯一の親友……」
頭を抱えたアルベルトは震えだした。すぐにティナに支えられたレオンが足を引きずりながら駆け寄り、彼を抱きしめる。
……………………。
――過去のアルベルト、アルブレヒトの周りには皇子として媚びを、胡麻をする者たちで溢れていた。
――孤独だった大学時代に、ゲオルクだけが友となり、そして。
「そして、機械人形の、戦争が起こった……。ッ…………」
アルベルトの言葉に、レオン、そしてティナが俯く。
男の表情は一気に青ざめ、絶句したまま地面に崩れ落ちる。
「もうやめてよ、アルベルトが限界だわ!」
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