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第12輪「暁の星はいと麗しき」
⑫-6 それが君の真実①
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アルベルトと視線が合い、言い淀むレオン。そして俯くティナ。沈黙はマリアに、そしてお喋りなアドニスをも無言にする。
「嘘だろ? 俺が、レスティン・フェレスから来た?」
アルベルトはよろけると、フリージアに体を支えられる。それでも崩れゆくアルベルトを、アドニスがその腕を強引に引っ張った。その表情は冷たく、不気味な笑みを浮かべている。
「まだ気を失わないでいただきたいですねえ」
眼を見開いたまま戸惑いを見せるアルベルトは、アドニスを見つめたまま、呆然としている。アドニスは細目でアルベルトを睨みつけた。
「何なんだよ、おい。言ってくれ、俺は……」
フラフラとしているアルベルトに、レオンが体を支えられながら進み出る。
レオンの表情は険しく、そして叫ぶように。
「ヴァルクたちの祖先と地球へ渡ったのは……ッ! レンの想い人はアルベルト、君なんだ。ただ国と国との言語の違い、ニュアンスに過ぎないだけの名ではない! 君の名前は……」
「アルブレヒト……。それが、君の前世での名だ」
アルブレヒト。アルブレヒト様。
その言葉が、呼び名がアルベルトを支配していく。思考は停止し、冷静な判断はもはやできるとは思えなかった。男は狼狽えると、堕落し、その場に崩れ落ちた。
「なんで……。俺は、何も知らない……」
「そうですね。君はただただレンの優しさに甘え、彼女の迷惑を考えずに誘惑していただけに過ぎません」
「アドニスさん! 待ってよ。だって。レンは今まで何も……」
「マリア、君は女性です。人形であろうがなかろうが、わかるでしょう? どれだけレンがアルブレヒトを想い、孤独に過ごしていたのかを。そして単身で地球へ渡り、知ったのはアルブレヒトの死、そして残された銀の懐中時計、それだけだった!」
フリージアはショックで口元を押さえた。ティナ、そしてレオンは俯き、マリアも口を歪める。ヴァルク、そしてコルネリアまでもが俯き、目を閉じたのだ。
マリアも銀の懐中時計を思い出し、胸が熱くなる。レンの大切そうに語るのはアスカニア家の人々ばかりだった。その中でずっと、抱きしめていたのは銀の懐中時計。銀時計だ。
想い出も語れない大いなる悲しみ、その想いは計り知れないだろう。
さらにアドニスは吠える。
「こいつは銀の懐中時計だけを残して死んでいた。待っていたレン様を置いてね。そんなレン様を支えたのがアスカニア家であり、私の恩人たちだった! レン様はそれでも地球で君の痕跡を探しながら、アスカニア家と共に地球で生きてきた。それが1882年の寿命までだ! わかりますか? レン様は待ってる時間を含めて、1000年以上も、君を待ち続け探していたのです!」
「………………」
もはや、アルベルトは言葉にならず、呆然と沈黙することしか出来ない。
「レン様はすぐにアスカニア家の庇護下にある町、ハルツ山脈のふもとにあった町で、君と地球を目指したセシュールという国の部族民の末裔たちに出会いました。それがレスティン・フェレスからやってきたタウ族であり、ラダ族たちだ。レン様は彼らにレスティン・フェレスの話をした所、彼らはちゃんと伝え聞いて知っていたと言います。君の最期は、オットー・フォン・バレンシュテット様から伝え聞いたと言います。そしてその息子の若かりしアルブレヒト熊が傍らにいたと。船はハルツ山脈に隠されたまま、放置されていた」
「………………」
「レン様はすぐに、君たちの乗ってきた船をボーデン湖の地下、この里へ隠すと彼らの半数をこの隠れ里へ避難させました。何故だかわかりますか?」
「…………レスティン・フェレスの、技術……」
「そうです。アスカニア家はレスティン・フェレスの技術に興味を示さなかった。手を出したとなれば、それが破滅に繋がることを悟っていたからだ。彼らは常に正しき選択をしてくださった。だからこそ、地球にはまだ早すぎた文明の技術を、レン様はここへ隠し、技術者の多くをこの里へ移したのです。ところが、その技術が漏れていることに気付いた……」
すぐにハッとしたマリアが立ちあがり、その言葉を口にする。
「1748年の事件……‼」
「あ…………」
ミュラー夫妻の話していた事件と繋がり、思わず声を上げる二人へ、アドニスが説明を付け加える。
「そうです。1748年、突如人形の集団が町を襲った。彼らを指揮していたのが、御存じのラウルだった」
「ラウル……」
「ラウルはコアと呼ばれる魂を半壊され、そのショックから奴らの言いなりになっていたのです。レン様は瀕死になりながら彼を止め、自身の右眼を与える事で味方に説得した。そして罪を償わせようと、二重スパイとして活動させました」
「そうか、それが眼帯の男ラウル……。人造人間の、機械人形……」
「そうです。そのラウルと共に、二人で世界中に存在した組織の拠点を次々に内部崩壊させていった。それでも、技術の漏洩はわからなかった」
アドニスはレオン、そしてティナを睨みつけた。人質になっていたとはいえ、技術を漏洩させていたのはレオンなのだ。レオンは目を閉じ、意を決したのか再び口を開いた。
「その漏洩が、僕らの責任なのです」
「そうですね。責任を取っていただかなければ」
「アドニスさん、責め立て過ぎだわ!」
「問題は、その件だけではないのですよ」
マリアの言葉に、アドニスは嗤いながら責め立てた。
「アルベルト。君にはまだ話さなければならない事があるのです。そうでしょう、レオン先生」
「嘘だろ? 俺が、レスティン・フェレスから来た?」
アルベルトはよろけると、フリージアに体を支えられる。それでも崩れゆくアルベルトを、アドニスがその腕を強引に引っ張った。その表情は冷たく、不気味な笑みを浮かべている。
「まだ気を失わないでいただきたいですねえ」
眼を見開いたまま戸惑いを見せるアルベルトは、アドニスを見つめたまま、呆然としている。アドニスは細目でアルベルトを睨みつけた。
「何なんだよ、おい。言ってくれ、俺は……」
フラフラとしているアルベルトに、レオンが体を支えられながら進み出る。
レオンの表情は険しく、そして叫ぶように。
「ヴァルクたちの祖先と地球へ渡ったのは……ッ! レンの想い人はアルベルト、君なんだ。ただ国と国との言語の違い、ニュアンスに過ぎないだけの名ではない! 君の名前は……」
「アルブレヒト……。それが、君の前世での名だ」
アルブレヒト。アルブレヒト様。
その言葉が、呼び名がアルベルトを支配していく。思考は停止し、冷静な判断はもはやできるとは思えなかった。男は狼狽えると、堕落し、その場に崩れ落ちた。
「なんで……。俺は、何も知らない……」
「そうですね。君はただただレンの優しさに甘え、彼女の迷惑を考えずに誘惑していただけに過ぎません」
「アドニスさん! 待ってよ。だって。レンは今まで何も……」
「マリア、君は女性です。人形であろうがなかろうが、わかるでしょう? どれだけレンがアルブレヒトを想い、孤独に過ごしていたのかを。そして単身で地球へ渡り、知ったのはアルブレヒトの死、そして残された銀の懐中時計、それだけだった!」
フリージアはショックで口元を押さえた。ティナ、そしてレオンは俯き、マリアも口を歪める。ヴァルク、そしてコルネリアまでもが俯き、目を閉じたのだ。
マリアも銀の懐中時計を思い出し、胸が熱くなる。レンの大切そうに語るのはアスカニア家の人々ばかりだった。その中でずっと、抱きしめていたのは銀の懐中時計。銀時計だ。
想い出も語れない大いなる悲しみ、その想いは計り知れないだろう。
さらにアドニスは吠える。
「こいつは銀の懐中時計だけを残して死んでいた。待っていたレン様を置いてね。そんなレン様を支えたのがアスカニア家であり、私の恩人たちだった! レン様はそれでも地球で君の痕跡を探しながら、アスカニア家と共に地球で生きてきた。それが1882年の寿命までだ! わかりますか? レン様は待ってる時間を含めて、1000年以上も、君を待ち続け探していたのです!」
「………………」
もはや、アルベルトは言葉にならず、呆然と沈黙することしか出来ない。
「レン様はすぐにアスカニア家の庇護下にある町、ハルツ山脈のふもとにあった町で、君と地球を目指したセシュールという国の部族民の末裔たちに出会いました。それがレスティン・フェレスからやってきたタウ族であり、ラダ族たちだ。レン様は彼らにレスティン・フェレスの話をした所、彼らはちゃんと伝え聞いて知っていたと言います。君の最期は、オットー・フォン・バレンシュテット様から伝え聞いたと言います。そしてその息子の若かりしアルブレヒト熊が傍らにいたと。船はハルツ山脈に隠されたまま、放置されていた」
「………………」
「レン様はすぐに、君たちの乗ってきた船をボーデン湖の地下、この里へ隠すと彼らの半数をこの隠れ里へ避難させました。何故だかわかりますか?」
「…………レスティン・フェレスの、技術……」
「そうです。アスカニア家はレスティン・フェレスの技術に興味を示さなかった。手を出したとなれば、それが破滅に繋がることを悟っていたからだ。彼らは常に正しき選択をしてくださった。だからこそ、地球にはまだ早すぎた文明の技術を、レン様はここへ隠し、技術者の多くをこの里へ移したのです。ところが、その技術が漏れていることに気付いた……」
すぐにハッとしたマリアが立ちあがり、その言葉を口にする。
「1748年の事件……‼」
「あ…………」
ミュラー夫妻の話していた事件と繋がり、思わず声を上げる二人へ、アドニスが説明を付け加える。
「そうです。1748年、突如人形の集団が町を襲った。彼らを指揮していたのが、御存じのラウルだった」
「ラウル……」
「ラウルはコアと呼ばれる魂を半壊され、そのショックから奴らの言いなりになっていたのです。レン様は瀕死になりながら彼を止め、自身の右眼を与える事で味方に説得した。そして罪を償わせようと、二重スパイとして活動させました」
「そうか、それが眼帯の男ラウル……。人造人間の、機械人形……」
「そうです。そのラウルと共に、二人で世界中に存在した組織の拠点を次々に内部崩壊させていった。それでも、技術の漏洩はわからなかった」
アドニスはレオン、そしてティナを睨みつけた。人質になっていたとはいえ、技術を漏洩させていたのはレオンなのだ。レオンは目を閉じ、意を決したのか再び口を開いた。
「その漏洩が、僕らの責任なのです」
「そうですね。責任を取っていただかなければ」
「アドニスさん、責め立て過ぎだわ!」
「問題は、その件だけではないのですよ」
マリアの言葉に、アドニスは嗤いながら責め立てた。
「アルベルト。君にはまだ話さなければならない事があるのです。そうでしょう、レオン先生」
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