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第12輪「暁の星はいと麗しき」
⑫-3 それが彼女の史実③
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「人間じゃないっていうのは、あいつと同じ、精霊か……?」
「もっと悍ましいものよ」
マリアは淡々と語り悲しそうに、寂しそうな表情を浮かべる。アルベルトは差別をするようには見えないが、異形の存在と知り、距離を置くだろうか。それでも、真実は変わらない。話さなければならないのだ。
「私は人造人間。改造された、元人間よ。機械が埋め込まれていて、その機械、特にコアが壊れると死ぬの。レスティン・フェレスという異世界の技術で、作られた存在」
淡々と、それでいてマリアを見つめるアルベルトを信じ、一字一句に細心の注意を払ったその言葉で残酷な真実を告げた。隠れ里の少年であるヴァルクとコルネリアは姿勢を正した。マリアはその二人が自身を怖がっているのだと気付いている。
「マリア……」
「ティナも、それからティニアになってるレンもそう。私たちは人間じゃないわ。多分だけど、レオン先生は知ってた感じなのね」
「…………」
「重複する部分はあるでしょうけれど、ちゃんと先生も話してくれるわよね。私は先生がどこの誰なのかは知らないけれど。ティナが信じているなら、先生の事も信じるわ」
マリアを見つめていたレオンは、項垂れるように頷いた。アルベルトの視線から、逃れるかのように。
アルベルトとレオンは親しい間柄だったが、それが今にも壊れてしまいそうだ。それでも、真実は真実である。
「ティナが改造される時、レンも居たそうよ」
「あいつも、人造人間だったっていうのか……」
力強く頷くマリアに、ティナも決意を固める。
「1882年、レンは亡くなると意図的に人間に生まれ変わった。そして、意図的に人買いに売られて、改造されたって、そう聞いてるわ。ティナ、そうなのよね……」
「はい。レンは元々、人間として1920年頃に生まれました。そして、1936年クリスマスまで人造人間でした」
「ねえ、アルベルト。ドイツのポツダムであったっていう、アルビノの男。覚えている?」
アルベルトの全身に鳥肌が立つ。それは身震いとして、アルベルトの心を強く打ち込む。
アドニスは表情を曇らせると、口元に力を入れつつ、力強く頷いた。そして自虐的な笑みを浮かべると、もの悲しそうな劇場の俳優のように、それを語った。
「レン様はとある事情から、死から免れぬ運命でした。非人道的な奴らの組織を暴くために、自ら人柱となって、組織に侵入することにしたのです。元々、レンはラウルをスパイとして送り込んでいましたからね。そのラウルの力を借り、彼の手で売られていったのです」
「そして、そちらのティナと共に改造された。そして、組織の内部から崩壊させるという無理難題を引き受けたのです。その結果、レン様は組織で功績が残せず、無能の烙印を押され、廃棄処分が決定しました」
「廃棄処分…………」
マリアが廃棄処分と最初に聞いた時と同様、アルベルトにとってそれは衝撃的な言葉であった。
フリージアはカタカタと震え、俯き辛そうに目を閉じた。ヴァルクやコルネリアを含めた三者にとって、人造人間だろうとレンは母であり家族であったのだ。マリアにとって、フリージアの震えはレンへの恐怖心だとは思えなかった。あまりの事実に、レンを想うからこその震えであろう。
それは語り手も同じであり、ティナも視線を落としながら語る。重苦しい空気がピリピリと張りつめている。
「廃棄処分は覆らない決定でした。反抗しようものなら、ペアを組んでいるラウルにも疑いの目がいったでしょうからね。ラウルを庇い、レンは廃棄処分を受け入れました」
「…………」
「それなら最期にと、レンの我儘を聞いたラウルが、ドイツへ連れて行ったのだと聞いています。……最も、見たかった町へは大戦の影響から行けず、ベルリン。そしてポツダムで精一杯であった、と。そう聞いています」
「ポツダム? まさか、そんな」
「レンとラウルは1936年に、あなたのいるポツダムにいたのよ。そして、そのままイタリアへ渡って、私たちの拠点を襲撃したんだわ……」
「レンはその後で再利用され、どういう訳かティニアとして再び生を受けることになったのです。レンは、まるで別人でした。それが、あなた方の知るティニアであり、レンです」
動揺しているのはアルベルトだけではなく、フリージアもだった。フリージアにとっては過酷な話だ。それでも、フリージアよりも幼いコルネリアが真剣に話を聞き、ヴァルクの服の裾を力強くつかんでいるのを、フリージアは見ていた。
フリージアのアルベルトを握る手にも、力が込められた。
マリアはティニアとして生きているレンを思い出し、その思い出を噛みしめる。
彼女と過ごした日々は、決して裕福ではなかった。彼女の話をまともに聞いていなかっただけでなく、壁を作りながら彼女との距離感に頭を悩ませていた。
もっと早くに相談していれば、レンは自分の立場や正体を話してくれていたのだろうか。と。
「確かにレンはティニアだった。レンを知ってる私から見れば、ティニアはレンだもの。私は当時、とある組織の拠点にいたの。そこで、ティナたちと暮らしていて、襲撃に遭ったわ。襲撃者はレンと、あの眼帯の眼帯の男ラウルも含まれるの。それが1936年のクリスマスよ」
「待ってくれ、だって……」
「バーであったのは、ポツダムで会ったのは、いつの話?」
「…………1936年、クリスマス……」
アルベルトは眼を見開くと顔を片手で覆った。片手で手をつないでいるフリージアは、その姿に不安を煽られる。そのショックは計り知れないだろう。本人があれだけ否定していたのだ、まさか本人だったとは思うまい。
「もっと悍ましいものよ」
マリアは淡々と語り悲しそうに、寂しそうな表情を浮かべる。アルベルトは差別をするようには見えないが、異形の存在と知り、距離を置くだろうか。それでも、真実は変わらない。話さなければならないのだ。
「私は人造人間。改造された、元人間よ。機械が埋め込まれていて、その機械、特にコアが壊れると死ぬの。レスティン・フェレスという異世界の技術で、作られた存在」
淡々と、それでいてマリアを見つめるアルベルトを信じ、一字一句に細心の注意を払ったその言葉で残酷な真実を告げた。隠れ里の少年であるヴァルクとコルネリアは姿勢を正した。マリアはその二人が自身を怖がっているのだと気付いている。
「マリア……」
「ティナも、それからティニアになってるレンもそう。私たちは人間じゃないわ。多分だけど、レオン先生は知ってた感じなのね」
「…………」
「重複する部分はあるでしょうけれど、ちゃんと先生も話してくれるわよね。私は先生がどこの誰なのかは知らないけれど。ティナが信じているなら、先生の事も信じるわ」
マリアを見つめていたレオンは、項垂れるように頷いた。アルベルトの視線から、逃れるかのように。
アルベルトとレオンは親しい間柄だったが、それが今にも壊れてしまいそうだ。それでも、真実は真実である。
「ティナが改造される時、レンも居たそうよ」
「あいつも、人造人間だったっていうのか……」
力強く頷くマリアに、ティナも決意を固める。
「1882年、レンは亡くなると意図的に人間に生まれ変わった。そして、意図的に人買いに売られて、改造されたって、そう聞いてるわ。ティナ、そうなのよね……」
「はい。レンは元々、人間として1920年頃に生まれました。そして、1936年クリスマスまで人造人間でした」
「ねえ、アルベルト。ドイツのポツダムであったっていう、アルビノの男。覚えている?」
アルベルトの全身に鳥肌が立つ。それは身震いとして、アルベルトの心を強く打ち込む。
アドニスは表情を曇らせると、口元に力を入れつつ、力強く頷いた。そして自虐的な笑みを浮かべると、もの悲しそうな劇場の俳優のように、それを語った。
「レン様はとある事情から、死から免れぬ運命でした。非人道的な奴らの組織を暴くために、自ら人柱となって、組織に侵入することにしたのです。元々、レンはラウルをスパイとして送り込んでいましたからね。そのラウルの力を借り、彼の手で売られていったのです」
「そして、そちらのティナと共に改造された。そして、組織の内部から崩壊させるという無理難題を引き受けたのです。その結果、レン様は組織で功績が残せず、無能の烙印を押され、廃棄処分が決定しました」
「廃棄処分…………」
マリアが廃棄処分と最初に聞いた時と同様、アルベルトにとってそれは衝撃的な言葉であった。
フリージアはカタカタと震え、俯き辛そうに目を閉じた。ヴァルクやコルネリアを含めた三者にとって、人造人間だろうとレンは母であり家族であったのだ。マリアにとって、フリージアの震えはレンへの恐怖心だとは思えなかった。あまりの事実に、レンを想うからこその震えであろう。
それは語り手も同じであり、ティナも視線を落としながら語る。重苦しい空気がピリピリと張りつめている。
「廃棄処分は覆らない決定でした。反抗しようものなら、ペアを組んでいるラウルにも疑いの目がいったでしょうからね。ラウルを庇い、レンは廃棄処分を受け入れました」
「…………」
「それなら最期にと、レンの我儘を聞いたラウルが、ドイツへ連れて行ったのだと聞いています。……最も、見たかった町へは大戦の影響から行けず、ベルリン。そしてポツダムで精一杯であった、と。そう聞いています」
「ポツダム? まさか、そんな」
「レンとラウルは1936年に、あなたのいるポツダムにいたのよ。そして、そのままイタリアへ渡って、私たちの拠点を襲撃したんだわ……」
「レンはその後で再利用され、どういう訳かティニアとして再び生を受けることになったのです。レンは、まるで別人でした。それが、あなた方の知るティニアであり、レンです」
動揺しているのはアルベルトだけではなく、フリージアもだった。フリージアにとっては過酷な話だ。それでも、フリージアよりも幼いコルネリアが真剣に話を聞き、ヴァルクの服の裾を力強くつかんでいるのを、フリージアは見ていた。
フリージアのアルベルトを握る手にも、力が込められた。
マリアはティニアとして生きているレンを思い出し、その思い出を噛みしめる。
彼女と過ごした日々は、決して裕福ではなかった。彼女の話をまともに聞いていなかっただけでなく、壁を作りながら彼女との距離感に頭を悩ませていた。
もっと早くに相談していれば、レンは自分の立場や正体を話してくれていたのだろうか。と。
「確かにレンはティニアだった。レンを知ってる私から見れば、ティニアはレンだもの。私は当時、とある組織の拠点にいたの。そこで、ティナたちと暮らしていて、襲撃に遭ったわ。襲撃者はレンと、あの眼帯の眼帯の男ラウルも含まれるの。それが1936年のクリスマスよ」
「待ってくれ、だって……」
「バーであったのは、ポツダムで会ったのは、いつの話?」
「…………1936年、クリスマス……」
アルベルトは眼を見開くと顔を片手で覆った。片手で手をつないでいるフリージアは、その姿に不安を煽られる。そのショックは計り知れないだろう。本人があれだけ否定していたのだ、まさか本人だったとは思うまい。
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