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第12輪「暁の星はいと麗しき」
⑫-2 それが彼女の史実②
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ため息をついたのは、洞窟から里まで案内してきたヴァルクという少年だった。
「はあ。俺らから説明しますね。……じゃあえっと、改めて自己紹介します。自分はヴァルク・ラダ・チェーニー。ラダの子で、歳は13歳くらいです。生まれは西暦では1937年と聞いています」
「襲撃の次の年……」
「ああ。そうですね、そう聞いています。だから俺らは、レンとしてのレンとは会ったことはないんです」
レンとしてのレンと会ったことはない。それはつまり、ティニアとしてのレンとしか会っていないという事だろう。マリアはレンの、ティニアとして生きた痕跡を悲しく感じとっていた。
「ぼくは、西暦1944年か1945年に生まれました。僕のお母さんが最後の大人の生き残りだったそうなのですけが、病気で亡くなりました。ぼくは小さかったので、僕の記憶にお母さんはいません。食べるものもなくて、お腹が空いて泣いていたら、アドニスさんが来てくれました」
「で、ティニアになったレンも一緒に来て、まあ母親の代わりをしてくれたんです。アドニスさんよりすごく優しいし、料理だけはうまかったなあ……」
「僕ら、レンお母さんをすぐ好きになりました。しかもレンお母さんはスイス国で俺らの様な子供を保護してるっていうじゃないですか。レンお母さんはすごいなあって。ね、ヴァルク」
「ね、じゃないだろ。話が逸れてるぞ」
ヴァルクはコルネリアを見つめると、コルネリアは少年らしく顔を赤らめた。それほどまでに、コルネリアにとってレンの存在は大きいのだろう。
「その子も、保護されてたなら、僕らと同じだね」
コルネリアの言葉に、フリージアが何度も頷いた。
「うん。あたし、ティニア様のこと、大好き」
「好きなら、ティニアなんて呼ばない方がいいですよ。さっきもヴァルクが言ったじゃないですか」
「そうだな。俺らもずっと、レンって呼んでるよ」
「…………」
黙り込んでしまったフリージアに、マリアが優しく話しかける。かつてのレンのように、優しく頭を撫でながら。
「フリージアにとっては、ティニアなのよ。私にとっても、レンよりはティニアだもの」
「……うん。でも、レン様なら、レン様って呼ばなきゃいけないですね……」
フリージアの言葉に、名を呼ぶことが出来ずにいるアルベルトが反応したのをマリアは見ていたが、あえて触れずに話だけを戻した。
「…………じゃあ、あなた達はずっとここにいたのね」
マリアの言葉に、ヴァルクが頷きながら話し出した。
「そうだよ。でも、レンはずっとおかしかった。日が経つにつれて、どんどんおかしくなっていったんだ。違和感を感じたら、その度に指摘してほしいっていうようになって。敬語になったり、笑わなくなっていったよ。
「アルベルトの言ってた通りね」
マリアのその言葉に、ヴァルクとコルネリアが反応した。それでもすぐに俯き、視線を逸らした。マリアは意を決してアルベルトへ歩み寄り、その背を叩いた。
「アルベルトがしっかりしてくれなきゃ話せない事ばかりだわ。それくらいの事なの。寝てないなら、少し休んでからでも」
「気になって寝られるかよ。今話してくれ」
「…………」
マリアはティナを見つめる。俯いていたティナは間を置いて顔を上げると、静かに頷いた。その反応に、レオンは更に俯く。
コルネリアはヴァルクの服の裾を引っ張るが、ヴァルクはマリアを見つめたままだ。コルネリアは諦めたのかムッとしたままマリアを見上げた。
「それなら目覚ましに、最初から突拍子のない話から。……私とティナは、私たちは人間じゃないの」
異世界のような空間で、異世界の様な話が紡がれる中、アルベルトは混乱する頭を整理させると、マリアをじっと見据えた。
「はあ。俺らから説明しますね。……じゃあえっと、改めて自己紹介します。自分はヴァルク・ラダ・チェーニー。ラダの子で、歳は13歳くらいです。生まれは西暦では1937年と聞いています」
「襲撃の次の年……」
「ああ。そうですね、そう聞いています。だから俺らは、レンとしてのレンとは会ったことはないんです」
レンとしてのレンと会ったことはない。それはつまり、ティニアとしてのレンとしか会っていないという事だろう。マリアはレンの、ティニアとして生きた痕跡を悲しく感じとっていた。
「ぼくは、西暦1944年か1945年に生まれました。僕のお母さんが最後の大人の生き残りだったそうなのですけが、病気で亡くなりました。ぼくは小さかったので、僕の記憶にお母さんはいません。食べるものもなくて、お腹が空いて泣いていたら、アドニスさんが来てくれました」
「で、ティニアになったレンも一緒に来て、まあ母親の代わりをしてくれたんです。アドニスさんよりすごく優しいし、料理だけはうまかったなあ……」
「僕ら、レンお母さんをすぐ好きになりました。しかもレンお母さんはスイス国で俺らの様な子供を保護してるっていうじゃないですか。レンお母さんはすごいなあって。ね、ヴァルク」
「ね、じゃないだろ。話が逸れてるぞ」
ヴァルクはコルネリアを見つめると、コルネリアは少年らしく顔を赤らめた。それほどまでに、コルネリアにとってレンの存在は大きいのだろう。
「その子も、保護されてたなら、僕らと同じだね」
コルネリアの言葉に、フリージアが何度も頷いた。
「うん。あたし、ティニア様のこと、大好き」
「好きなら、ティニアなんて呼ばない方がいいですよ。さっきもヴァルクが言ったじゃないですか」
「そうだな。俺らもずっと、レンって呼んでるよ」
「…………」
黙り込んでしまったフリージアに、マリアが優しく話しかける。かつてのレンのように、優しく頭を撫でながら。
「フリージアにとっては、ティニアなのよ。私にとっても、レンよりはティニアだもの」
「……うん。でも、レン様なら、レン様って呼ばなきゃいけないですね……」
フリージアの言葉に、名を呼ぶことが出来ずにいるアルベルトが反応したのをマリアは見ていたが、あえて触れずに話だけを戻した。
「…………じゃあ、あなた達はずっとここにいたのね」
マリアの言葉に、ヴァルクが頷きながら話し出した。
「そうだよ。でも、レンはずっとおかしかった。日が経つにつれて、どんどんおかしくなっていったんだ。違和感を感じたら、その度に指摘してほしいっていうようになって。敬語になったり、笑わなくなっていったよ。
「アルベルトの言ってた通りね」
マリアのその言葉に、ヴァルクとコルネリアが反応した。それでもすぐに俯き、視線を逸らした。マリアは意を決してアルベルトへ歩み寄り、その背を叩いた。
「アルベルトがしっかりしてくれなきゃ話せない事ばかりだわ。それくらいの事なの。寝てないなら、少し休んでからでも」
「気になって寝られるかよ。今話してくれ」
「…………」
マリアはティナを見つめる。俯いていたティナは間を置いて顔を上げると、静かに頷いた。その反応に、レオンは更に俯く。
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「それなら目覚ましに、最初から突拍子のない話から。……私とティナは、私たちは人間じゃないの」
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