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第11輪「前門の危機と、後門のおおかみ」
⑪-8 アリオーソ②
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ティニア、否レンは無表情のまま、ゆっくりとアルベルトへ銃口を向けた。彼女の小さな手に握られたリボルバーは、金属特有の冷たい光を放った。
拳銃を向けられたアルベルトは怯むことなく、レンへ一歩近づいた。
「お前が拳銃なんて似合わない、やめるんだ……」
「動かないで」
レンは表情を変えることなく、その指が引き金に触れた。
その瞬間、レオンは傷口を抑えながら叫んだ。
「レン……‼ アルを撃つなんて、絶対に駄目だ」
「ああ、ゲオルク。喋らないでください……」
レオンはティナに抱えられているが、脇腹からは絶えず血が流れ出ている。
「大丈夫です、銃弾は貫通しているようですから。そうでしょう、レン」
「…………」
レンはレオンの方を見ずにアルベルトに拳銃を向け続ける。相も変わらず無表情であり、冷たく冷淡な瞳もまた、アルベルトへ向けられたままだ。
「お前、どうしたんだ。目を覚ましてくれ!」
アルベルトの問いに、レンは一瞬だけ眉をひそめた。その瞳は青く、焦点を失ったまま銃口の先にアルベルトを見据える。
レンはまるで人形のように固い無表情のまま、その言葉を発した。
「私は正常ですよ。我が主、アルブレヒト様」
「なッ……‼」
冷たく語るレンに、アルベルトは言葉にならない。まるで感情が抜け落ちたかのような言葉は、不気味であり、まさに感情のない人形の様であった。
それでも一歩、彼女を求めて前へ出る。
リボルバーの回転式シリンダーが僅かに動き、金属の鈍い音が鳴り響いた。
アルベルトは身を躱したが、その頬を銃弾が掠める。
「アルベルト!」
「大丈夫だ」
マリアの決死の叫びに、アルベルトは手を挙げて対応する。
「やめろ……。やめてくれ、頼む……」
アルベルトの声がレンへ届いているとは思えない。
レオンはティナを振り切り、アルベルトを庇うように前へ歩み出る。そしてその銃声は再び轟いた。
「ぐあっ…………」
「ゲオルク!」
「レオン先生!」
レオンは右足をレンに撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。
「動かないよう、伝えたはずです」
マリアはその光景に、レンへの想いを振り切る。そして、その拳銃をレンへ向けた。部屋の後方、アルベルトの後ろに居たマリアは、レンの死角だった。レンは慌てて銃口をマリアへ向けた。
見据えたレンに、マリアはかつての襲撃者の少年を思い浮かべる。あどけなく笑い、奇妙な言動を繰り返す少年は、もはや存在しないのだ。
優しく微笑みを絶やさず、正体を知りながら自身を傍に置き、共に暮らし、笑い合ったレンは、もうどこにもいない。
「レン……!!」
レンの後方へ近づいたラウルは片目でマリアを睨みつけ、拳銃を向けながら、腕でレンを庇った。それでもレンは腕の隙間からマリアを狙っている。
マリアはラウルに銃口を向け、その引き金に触れる。
かつての彼との一戦が脳裏に過ぎる。
「ラウル、忘れもしないわ。その眼光を。殺意を」
マリアはレンを庇うラウルへ向け、引き金を引いた。
銃声が轟き、ラウルは軽々とその弾丸を避けると一瞬で距離を縮める。マリアに接近した瞬間、身構えていたアルベルトがその腕を掴み、拳銃を蹴り上げた。
その隙を狙い、マリアはラウルへ再度、拳銃を発砲する。
「だめ!」
拳銃を蹴り上げたアルベルトの目の前で、ラウルを庇ったティナから血が噴き出す。
マリアの銃弾は、ティナを背中から撃ち抜いたのだ。ティナはそのまま無防備に床へ崩れ落ちた。
「ティナさん!」
「ぐう…………‼」
「なんで……‼ 嘘でしょ、レイス……。あなたを撃つなんて……。どうして」
「お願い、撃たないで。あなたは優しい子、撃たないで、銃をおろして」
ティナの悲痛な叫びだけが、その部屋に空しく響いていく。マリアは呆然とし、その場に崩れ落ちた。
拳銃を向けられたアルベルトは怯むことなく、レンへ一歩近づいた。
「お前が拳銃なんて似合わない、やめるんだ……」
「動かないで」
レンは表情を変えることなく、その指が引き金に触れた。
その瞬間、レオンは傷口を抑えながら叫んだ。
「レン……‼ アルを撃つなんて、絶対に駄目だ」
「ああ、ゲオルク。喋らないでください……」
レオンはティナに抱えられているが、脇腹からは絶えず血が流れ出ている。
「大丈夫です、銃弾は貫通しているようですから。そうでしょう、レン」
「…………」
レンはレオンの方を見ずにアルベルトに拳銃を向け続ける。相も変わらず無表情であり、冷たく冷淡な瞳もまた、アルベルトへ向けられたままだ。
「お前、どうしたんだ。目を覚ましてくれ!」
アルベルトの問いに、レンは一瞬だけ眉をひそめた。その瞳は青く、焦点を失ったまま銃口の先にアルベルトを見据える。
レンはまるで人形のように固い無表情のまま、その言葉を発した。
「私は正常ですよ。我が主、アルブレヒト様」
「なッ……‼」
冷たく語るレンに、アルベルトは言葉にならない。まるで感情が抜け落ちたかのような言葉は、不気味であり、まさに感情のない人形の様であった。
それでも一歩、彼女を求めて前へ出る。
リボルバーの回転式シリンダーが僅かに動き、金属の鈍い音が鳴り響いた。
アルベルトは身を躱したが、その頬を銃弾が掠める。
「アルベルト!」
「大丈夫だ」
マリアの決死の叫びに、アルベルトは手を挙げて対応する。
「やめろ……。やめてくれ、頼む……」
アルベルトの声がレンへ届いているとは思えない。
レオンはティナを振り切り、アルベルトを庇うように前へ歩み出る。そしてその銃声は再び轟いた。
「ぐあっ…………」
「ゲオルク!」
「レオン先生!」
レオンは右足をレンに撃ち抜かれ、その場に崩れ落ちる。
「動かないよう、伝えたはずです」
マリアはその光景に、レンへの想いを振り切る。そして、その拳銃をレンへ向けた。部屋の後方、アルベルトの後ろに居たマリアは、レンの死角だった。レンは慌てて銃口をマリアへ向けた。
見据えたレンに、マリアはかつての襲撃者の少年を思い浮かべる。あどけなく笑い、奇妙な言動を繰り返す少年は、もはや存在しないのだ。
優しく微笑みを絶やさず、正体を知りながら自身を傍に置き、共に暮らし、笑い合ったレンは、もうどこにもいない。
「レン……!!」
レンの後方へ近づいたラウルは片目でマリアを睨みつけ、拳銃を向けながら、腕でレンを庇った。それでもレンは腕の隙間からマリアを狙っている。
マリアはラウルに銃口を向け、その引き金に触れる。
かつての彼との一戦が脳裏に過ぎる。
「ラウル、忘れもしないわ。その眼光を。殺意を」
マリアはレンを庇うラウルへ向け、引き金を引いた。
銃声が轟き、ラウルは軽々とその弾丸を避けると一瞬で距離を縮める。マリアに接近した瞬間、身構えていたアルベルトがその腕を掴み、拳銃を蹴り上げた。
その隙を狙い、マリアはラウルへ再度、拳銃を発砲する。
「だめ!」
拳銃を蹴り上げたアルベルトの目の前で、ラウルを庇ったティナから血が噴き出す。
マリアの銃弾は、ティナを背中から撃ち抜いたのだ。ティナはそのまま無防備に床へ崩れ落ちた。
「ティナさん!」
「ぐう…………‼」
「なんで……‼ 嘘でしょ、レイス……。あなたを撃つなんて……。どうして」
「お願い、撃たないで。あなたは優しい子、撃たないで、銃をおろして」
ティナの悲痛な叫びだけが、その部屋に空しく響いていく。マリアは呆然とし、その場に崩れ落ちた。
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